第21話 私にも
ソヨンとミンジェが客先での打ち合わせを終えてオフィスに戻ってきた。
エレベーターから降りてくる二人を見て、ジミンは思わず息を飲んだ。
ソヨンは笑顔で何か話しかけ、ミンジェは穏やかに頷いている。
距離は近く、会話も自然に見えた。
(……親しげだ)
ジミンの胸がざわつく。
二人が自分のデスクの近くを通り過ぎる時、ソヨンが軽く会釈をした。
ミンジェはいつもの冷静な顔で、感情は伺えない。
パントリーでコーヒーを淹れていると、後ろからソヨンが入ってきた。
二人きりになる。
ジミンはできるだけ穏やかな声で話しかけた。
「仕事には慣れましたか?」
「はい、おかげさまで」
「よかった」
ソヨンは自分のカップにコーヒーを注ぎながら、続けた。
「ミンジェ課長って、部下の面倒見がいいんですね」
心臓が跳ねる。
「そう?」
「私にも、とても丁寧に教えてくださるので」
それはただの世間話だったのかもしれない。
しかしジミンには、言葉の端が少しだけ尖って聞こえた。
さっきエレベーターから降りてきた二人の笑顔が、フラッシュバックする。
ソヨンがにこやかにコーヒーをかき混ぜている横で、ジミンは自分のカップを握る手に、思わず力が入った。
(……私にも、とても丁寧に、か)
胸の奥がチクチクと痛む。
ジミンは何も言えず、ただ小さく微笑むことしかできなかった。
「……そうですか。よかったですね」
ソヨンは「ええ」と柔らかく笑って、パントリーを出て行った。
残されたジミンは、コーヒーの湯気が立ち上るカップを見つめながら、静かに唇を噛んだ。
(……ずるい)
仮の婚約者なのに。
ミンジェは、ジミンには距離を取ろうと言いながら、
ソヨンに「とても丁寧に」接している。
ソヨンに向けられた丁寧さが、仕事上のものだということくらい分かっている。
分かっているのに、胸の奥がざわついて仕方なかった。




