第20話 会長の姪
翌週の月曜日、会社に一人の女性が現れた。
会長の姪、イ・ソヨンだ。
清楚で明るい雰囲気の女性。スーツの着こなしが洗練されている。
「みなさん、初めまして。イ・ソヨンです。
今後しばらく、海外事業チームでお世話になることになりました。」
ジミンは自分のデスクで、静かに息を飲んだ。
(……この人か)
本部長はミンジェを指し示し、
「ソヨンさんの教育係は、ミンジェ課長に頼む」
「・・・・・・かしこまりました」
「ミンジェ課長、よろしくお願いします。
叔父から、ぜひ課長の下で勉強するようにと言われまして」
彼女の笑顔は柔らかく、声のトーンも穏やかだった。
しかしジミンには、計算されたシナリオのような響きに聞こえた。
「こちらこそ、よろしく」
ミンジェはいつもの冷静な表情で軽く頭を下げた。
「ミンジェ課長とすごくお似合いだね」
周囲の社員たちがひそひそとささやき合う。
(きれい……スタイルもいい……
しかも会長の姪……みんながくっつけたがるのもわかる……)
胸の奥が、チクチクと痛み始めた。
その日の午後、ソヨンはジミンのデスクの近くを通りかかった。
ソヨンは軽く会釈をして、
「ジミン先輩……でしたよね?
これからよろしくお願いいたします。」
丁寧な挨拶だったが、ジミンには、その言葉は表向きで何か含みがあるように感じられた。
ジミンは無理に笑顔を作って頭を下げた。
「……よろしくお願いします」
その時、ミンジェがソヨンの背後から声をかけた。
「ソヨンさん、3時から第1会議室で営業部との打ち合わせがある」
「はい、かしこまりました」
ソヨンはにこやかに答え、ミンジェの後に続いた。
ソヨンが去った後、ジミンは小さく息を吐いた。
(……この人、完全に「ミンジェ課長は私のもの」みたいな雰囲気出してる……)
けれど、ジミンには何も言えない。
ジミンとミンジェの間にあるものは、誰にも見えない。
仮の婚約者という言葉も、あの夜の抱擁も、このオフィスでは存在しないものだった。




