第15話 君が望むなら
ミンジェの運転する車の助手席。
「あの、課長」
ジミンが勇気を出して声をかける。
ミンジェは前を見たまま、低く「なんだ」と返した。
「3ヶ月経ったら……本当に、責任を取ってくれるんですか?」
自分でも驚くほど、あけすけな問いだった。
ミンジェの視線が、ゆっくりと窓の反射からジミンの方へ動く。
暗がりの中で、彼の瞳だけがわずかに光を反射して、ジミンの呼吸を止める。
「……君が、望むならな」
それは、約束のようでもあり、突き放すようでもあった。
「俺が抱きたいから」ではなく、「君が望むなら」。
常にボールをジミンの方へ投げ返し、自分は「責任を取る側」という安全圏から動こうとしない。
(……ずるい。この人、本当にずるい)
ジミンは、自分の指先をぎゅっと握りしめた。
「仮の婚約者」という言葉で縛っておきながら、心も体も一歩も近づいてこない。
車が信号で止まるたび、隣のミンジェの気配が近くなる。
発進のわずかな揺れで、彼の肩が触れそうになるだけで、ジミンは叫び出したいほどの熱を感じてしまう。
アパートの前に着き、ドアを開く。
「……おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
いつも通りの、無機質な別れ。
**************
ジミンが車を降りたあと、ミンジェは彼女が座っていたシートの残り香を、一度だけ深く吸い込んだ。
今日、ジミンが隣で資料をめくるたび、
胸の奥がざわついて仕方なかった。
(……また、触れたいと思った)
由布院の一件以来、この衝動は全く収まらない。
あの湯気の中で見た彼女の肩と、背中で守ったときの震え。
すべてが頭に焼きついている。
(……まだ、2ヶ月か)
彼はその「曖昧さ」に、自分自身も焼き尽くされそうになっていることに、まだ気づかないふりをしている。
車は夜のソウルを静かに走り出した。




