第14話 空振りのデート
仮婚約を始めてから2ヶ月が経った日曜日。
朝、ミンジェから珍しくメッセージが来た。
>今日、うちで資料まとめを手伝ってくれないか。
>夕食は出る。
>終わったら車で送るよ。
ジミンはその短い文面だけで胸がざわついた。
(家……?ミンジェ課長の家に二人きりで……?)
(仮婚約者なんだから、もしかして……)
期待と緊張で何度も服装を直し、結局シンプルなブラウスとスカートで出かけた。
ミンジェのマンションは、会社から地下鉄を乗り継いで30分ほどの住宅街にあった。
いつもタクシーで送られるとき、ジミンは自分のアパートの前で先に降りる。
そのあとミンジェがどこへ帰っていくのか、深く考えたことはなかった。
漢江に近い、整った住宅街。
派手ではないのに、どこか隙がない。
いかにもミンジェらしい場所だと思った。
ドアが開くと、ミンジェはいつもの落ち着いた声で言った。
「入って」
家の中は予想以上にシンプルで整然としていた。
無駄な飾りもほとんどなく、黒とグレーを基調にした冷たい印象の空間。
本棚にはビジネス書とファイルがきれいに並んでいるだけだった。
「資料はここだ」
リビングの大きなテーブルに、分厚いファイルが山積みになっていた。
ミンジェはすでに袖をまくり、眼鏡をかけて仕事モードに入っている。
ジミンは内心で(……本当に仕事の話だけ?)と思いながらも、隣に座って一緒に作業を始めた。
家に上がって2時間以上、ただひたすら資料の整理をしていた。
辺りが薄暗くなった頃、ミンジェが立ち上がってキッチンへ行き、きのこの入ったクリームパスタと簡単なサラダを作ってテーブルに並べた。
パスタを食べながらも話題は仕事のことばかり。
プライベートな話題は一切出ない。
食事が終わった後も、再び資料まとめに戻る。
時計が9時を回った頃、ミンジェがようやく言った。
「今日はありがとう。助かった」
ジミンは顔を上げた。
「もう遅い。車で送る」
ジミンは思わず聞き返す。
「……え? 帰るんですか?」
ミンジェは眼鏡を外しながら、淡々と答える。
「明日も仕事だ。無理はさせられない」
ジミンは胸の奥がチクチクした。
(仮婚約者なのに……家に呼んでおいて、
ただ資料を整理させて、食事して、車で送るだけ……?
触れようともしない。抱き寄せようともしない。
キスなんて……夢の話だ)
帰り際、玄関でコートを着ているあいだ、
彼はジミンの肩に手を置くことも、髪を撫でることもなかった。




