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いつかあなたを  作者: Jun
歪められた世界

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8 ローズとマーガレット2

『アラン様には本当はお守りは必要ないかもしれない』

 それはもしかしたら、アランにも聖魔法が使えるという事なのだろうか。ローズは学院で見かけるアランの姿を思い浮かべて、あり得ると思った。

 アランは学院内では憧れの先輩として知られていて、マーガレットといる時も、いつも一緒にいる黒髪の友人といる時も、屈託なく笑い輝いて見えたからだ。人気者故の妬みはあるだろうに、マーガレットの言う魔の気を向けられて苦しんでいる様子は見えなかった。


「アラン様は自分で気が付いていないけど、自然に魔を祓う力のある人なの」

 ローズの考えている事が分かる様に、マーガレットが言った。

「私は今まで誰といても、どこか居心地が悪かった。周りにいる人が私に対してではなくても、少し強く誰かを妬んだり、憎んだり、悪意を持つと、それが黒い物になって滲み出るのが見えたから。小さい頃は自分に向けられたそれが、蛇みたいに身体に巻き付いて気絶した事もあったのよ。それで神殿に行って聖魔法の事を学んで、そういう物を跳ねのけたり消したり出来る様になったけど、感じるだけでもすごく苦痛だった。

 だけどアラン様からは、お日様に当たっているみたいな暖かい気しか感じなくて、不思議だったわ」


「とても良い方だからじゃないですか。素敵な婚約者もいて、人を妬んだりする必要も無いでしょうし」ローズが冷やかす様に言うと、マーガレットは「もう。からかわないで」と顔を赤らめたが、真面目な口調で続けた。

「確かに、アラン様の元々の気質や恵まれた環境もあると思うわ。でも最初は友達として近くで見ていたら気づいたの。悪い物がアラン様に近寄って来ても、彼の近くに来ると、まるで聖魔法で祓ったみたいに消えてしまうって。どうしてかは分からないけど、寄せ付けないの。だから結婚を申し込まれた時嬉しかったわ。この人なら、私に黒い物を見せないと思ったから」


「そういえば、確かに学院でガードナー伯爵子息を見かける時、何故かいつもそこだけ明るく見えます」

「そう見えるなら、ローズもやっぱり特別なのだと思うわ。

 私、最初はあなたも聖魔法を持っているんじゃないかと思ったのよ。あなたからも一度も魔の気配を感じた事が無いし、一緒にいてとても気持ちが楽なの。

 …あなたの家の事情は知ってるわ。そういう厳しい環境にいれば、誰でも少しは負の気を持つはずなのに、あなたからは感じなかった。反対にアラン様とは違う、明るさを感じたわ」


 マーガレットが不思議そうに言うのに、ローズは「もしかしたら私が本当は孤児で、母と言われているアマンド男爵夫人の両親に育てられたせいかもしれないですね」と答えた。

 驚くマーガレットに「誰も知らない事ですけど、マーガレット様にはお話します」と前置きしてローズは話し出した。

「私は記憶の無い幼い頃、祖父母の家の納屋に捨てられていたそうです。

 それから一緒に暮らして育てて貰ったんです。刺繍も祖母に習いました」

「そうだったの」

「はい。裕福ではありませんでしたが、二人共私をとても愛してくれて、私も二人が大好きでした。二人は本当に私の祖父母位の年齢なので、物心つく頃両親について

 はっきり尋ねたら、捨て子だったと教えてくれました。

 それでも私を見つけた時とても嬉しかったと、愛していると、いつも言ってくれましたから、私は幸せだったんです。

 二人には娘がいたけれど、何十年も前に家のお金を持って飛び出してそれっきりだから、もう死んだものと諦めたと話していて、それがアマンド男爵夫人でした」


 そのまま帰って来ないと思っていたんですけど、とローズは笑った。


「私が十一歳の時、祖父母は揃って出かけた先で事故にあって亡くなりました。それをどこで聞きつけたのか、葬儀の時アマンド男爵夫妻が村に現れました。遺産なんて言える物はありませんでしたが、住んでいた家が持ち家だった事を覚えていたんでしょうね」

「じゃあ、そこでローズは初めて二人に会ったの?」

「はい。二人は私を見て、役に立つと思ったんでしょう。祖父母の家を売り払った金と私を連れて、ここに戻って来たんです」

 後はご存知の通り、貴族に仕立てた私の売り先を探しています、と言うローズからは、憎しみでは無く養父母を亡くした哀しみの感情だけが感じられた。


「ローズ、あなたは怒らないの?怒って良いはずよ。大事な思い出の家を売られて、今度は関係無いあなたを売ろうなんて」

「私はまだ子どもで、あの二人に引き取られなかったら、もっとひどい事も考えられたし、あの家は元々アマンド夫人に正当な相続権があります。それに、少なくとも私は今学院に通って学べて、貴族のマナーも少しは身に付きました」

「だけど、おかしな家に嫁がされるかもしれない」

 涙声になるマーガレットを優しく見たローズは「マーガレット様。私は、やれるだけの事はやるつもりです。ひどい目に遭うなら抗います。黙って死んでいく様な事を受け入れるつもりはないです。そうでなければ、あんなに愛してくれた二人に顔向け出来ません」


 前を向くローズの顔を見て、マーガレットは何か腑に落ちた様な気がした。

「ローズを愛していた二人の守護が、あなたを守っているのかもしれないわね。それが、アラン様の不思議な力と同じく黒い物を祓うのかしら。ねえローズ。私はあなたより一年早く卒業して、アラン様と結婚するわ。そうしたらアラン様は伯爵位を継いで、私は伯爵夫人になるから、今の子爵令嬢よりは力が持てると思う。万一あなたがどうしようも無い事態に陥ったら、連絡を頂戴。何としてでも力になるから」

「ありがとうございます」


 マーガレットの卒業、結婚後も、二人は会えずとも文通を続けた。ローズはカラバン子爵家に売られるなら、最後の手段でマーガレットに頼ろうと思ったが、シュタイン伯爵家の妾に選ばれた。

 男爵夫妻からこの事の口外を禁止されたが、シュタイン伯爵がマーガレットの夫アランの親友だと知っていた為、ローズはマーガレットにだけは最後の手紙で伝えた。


 マーガレットが今回伯爵と一緒に来ない理由は分からないが、ローズは自分の身の上を考え、会わずに済んで良かったのだと思った。ただ、大好きだったマーガレットの緑の瞳を思い出しそっと目を閉じた。


読んでいただき、ありがとうございます。


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