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いつかあなたを  作者: Jun
救済の世界

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79 再会5

「カミラ様に憑いていた悪魔が、姿を消した…?いったいどうして」

「ローズ。クラウスが、悪魔だったんだよ。クラウスは、侍女のタミーと一緒にどこかへ行ってしまったんだ」トーマスの言葉を聞いたローズは、訳が分からない様子で「クラウス様というのは、カミラ様の産んだお子様ですよね」と確認した。

「ああ。そうだよ」答えてから、トーマスが何から説明しようか思案している所に、オリバーが「失礼いたします」とノックをして、食事を終えたトム、ケイト、カミラを案内してやって来た。

 トーマスはローズに「皆が揃ったから、それは順々に話していくよ」と声をかけてから、三人を迎え入れた。


 緊張気味に部屋に入って来たトムとケイトは、ローズが元気そうにしているのを確認して笑顔になった。

「ローズ、君も無事に戻れたんだな。良かった」「ローズさん。私たちもこうしてカミラ様に会えました。…ローズさんの言っていたカミラ様が同じ人だったなんて、驚きました」

「私もその話を聞いて、驚いていたところだったんです。私の知っているカミラ様が湖で見た女の子だったなんて、全く想像しませんでした」

「ローズは、自分が知っているのは貴族らしい淑女だと言ってたもんな」


 当のカミラは、トムとケイトに挟まれ笑みを浮かべていたが、突然思いついたように目を輝かせてローズに尋ねた。

「あなたは、本に出て来た海に落ちた女の子にそっくりね。もしかしたらあなたが冒険して、乳母やとトムを湖の底から連れ戻してくれたの?」

 無邪気に輝く目を向けられたローズは、再び涙が溢れそうになったのをこらえた。

「私だけじゃなくて、あなたの乳母や…ケイトさんとトムと、皆で冒険して帰って来られたんです。ケイトさんとトムがいなかったら、私も帰って来られませんでした」


「そうだったの。みんなで冒険して良いなあ。私はずっと独りで待ってたの。寂しかったよ」カミラはしょんぼりしたが、ローズが「ケイトさんとトムはずっとあなたの事を心配して、あなたを忘れていませんでした」と言って、ケイトも「そうですよ。私もトムも、離れている間もカミラ様を思っていました」と抱きしめると、嬉しそうに笑った。

「ありがとう。これからはもう、ずっと一緒にいてね」

 その様子を見ていたトーマス、アラン、マーガレットは、悪魔がカミラの中から消えた事と、カミラの失われた長い年月を実感した。


 いよいよ話しを始めようと各々腰かけると、カミラは眠くなったようで、うとうとと船をこぎ出した。ケイトが自分の膝にカミラの頭を乗せてやると、カミラはそのまま寝入ってしまった。ケイトは膝の上のカミラのダークブロンドを優しく撫ぜ、カミラは眠ったまま幸せそうに微笑んだ。

「カミラは俺たちの意識が無い間、ほとんど寝ずに付き添っていたらしいんだ。母さんの側にいると安心しているから、このまま寝かせてやってくれ」

 トムはそう言った後で、何かに気づき顔色を悪くして頭を下げた。


「あの…俺の話し方が気に障っていたら済みません。皆様が貴族だと分かっているんですが、向こうの世界に行ったのがずいぶん小さい頃で、どんな振る舞いが正しいのか忘れてしまっていました。どうかお許しください」

 ローズも慌てて「トーマス様、アラン様、マーガレット様。トムの言う通り、向こうの世界には身分が無かったので悪気は無いんです。こちらでは不敬だったのに、気づかなくて申し訳ありません」と謝り、ケイトも青褪め「申し訳ございませんでした」と項垂れた。

「やめてくれ」畏まる三人を前に、トーマスは思わず声を上げた。

「これからゆっくり話を聞かせてもらうが、あなた達がこの世界の理から外れ、女神様が司る世界を行き来していたのは、もう分かっている。

 俺達の世界が作り出した悪魔を滅ぼす為に、その力を借りようとしているのは俺達の方なんだ。

 だから助けを乞う我々に頭を下げ、へりくだる必要は無い。こちらの方が、あなた達に頭を下げて助力を願う立場なんだから」

 アランもマーガレットもトーマスの言葉にうなずき、マーガレットは「ローズも、本当にもう平民だからと言って線を引くのは止めて頂戴。さっきも話していたけど、あなたは私にとって大切な友人なの。違うと言うなら、私はこれからあなたを聖女様と呼ぶわ」と真剣な顔で釘を刺した。


 トム、ケイトと顔を見合わせたローズは「分かりました」とうなずいて、「私もそれならこれから、マーガレットと呼ばせて貰いますね。私も聖女様と呼ばれるのは嫌ですもの。向こうの世界では、聖女だからと言って特別偉い訳でも無いですし」と柔らかい顔を見せた。

「そうなの?こちらではあなたが聖女と分かれば、すぐに神殿の奥に大切に仕舞い込まれて、国中の人があなたを崇めるわよ」驚くマーガレットに「それは困ります」ローズは顔をしかめて見せ、二人は笑い合った。

「じゃあ、身分や何かを全部抜きにして、お互いに知っている事、起こった出来事を話そう」アランの一声で、お互いが今まで経験した事の長い話が始まった。


 ローズは襲撃され聖水に包まれて自分が生まれた世界へ戻り、短い間だが両親と一緒に暮らせたのだと語った。

「けれど私が二人と過ごしたその世界は、両親の作った私の為の世界でした。本当は二人とも悪魔との闘いで十五年前亡くなり、その時に私は女神様によって、この世界の聖なる湖に逃がされたんです」

話し終わったところでローズは、自分が持って来たものがあるのを思い出した。

「そう言えば、私はカバンを持っていませんでしたか?」

「あった。君の寝ていた部屋に置いてある」トーマスがオリバーに頼んで、カバンを取って来て貰った。水に浸かっていたはずなのに乾いている事にホッとして、ローズはカバンを開けて紙ばさみを取り出した。


「これが、私の両親の絵姿です」ローズはそう言って、テーブルに絵姿を並べた。

「この方達が、ローズのご両親か」トーマスは感慨深げに絵姿を見つめ、マーガレットは「お母さまとローズはそっくりね」と目を潤ませた。

「父が土魔法の使い手で、各地で橋を作ったり、土木工事をしていたんです。レイモンドの魔法の秘密が分かりました」

「なるほど、そうだったのか。その事もまた話し合う必要があるね」とアランが腑に落ちた様子でうなずいた。


「じゃあ今度は俺達が、ウィルソン伯爵家から姿を消してからの話をします」

 トムが話し出して、ケイトと自分のその後について語り終えると、既に事情を知っていたローズ以外の三人は、ケイトの献身がカミラを救った事を実感した。


「カミラは、ここ数年は何度も蛇を出す様になっていた。俺はあれに遭うと思考が鈍って、言う事を聞いてしまうんだ。それでもカミラが破滅する程暴走せず、何とか普通に暮らしていけたのは、ケイトさんが黒い魔力を取り除いてくれていたからだったんだな。まさか悪魔が憑りついているなど思わず、沢山の犠牲を出してしまったが、少なくともカミラはこうして生きてくれていて良かった」トーマスは、ケイトの膝で眠るカミラを見つめて言った。


「沢山の犠牲…カミラ様に憑りついた悪魔によって、亡くなった方々がいらっしゃるんですよね」ケイトが悲しそうに尋ねた。彼女の手は無意識に、膝の上にいるカミラが悪魔のした事を聞いてしまわない様、カミラの耳を塞いでいた。


「ああ。俺の両親を始め、多くの騎士と、ならず者とは言え操られた者達が亡くなった。…けれどそれは、カミラだけのせいでは無いんだ。俺がカミラと悪魔だったクラウスにもっと関心を持って、真正面から向き合っていたら、少しはおかしいと思っていたはずだった」後悔を滲ませ、トーマスは惨事が起こってから調査し、分かった事を話した。

「古い聖女に関する文献を元にアランと一緒に調べていくうち、カミラの産んだクラウスが、本当は悪魔ではないかと思い至った。それで乳母やシモーヌをマーガレットの聖魔法で浄化したら、二人がクラウスの生まれた後からずっと、洗脳状態だったと分かったんだ。カミラとカミラの侍女のタミーも操られていて、王都まで行ってならず者に襲撃をそそのかしたのはタミーだった。

 我々に正体を掴まれたと分かったクラウスは、タミーに自分を邸から連れ出させ、今も行方が知れないままだ。クラウスがいなくなってからのカミラは、心が無い機械の様になっていた」


読んでいただき、ありがとうございます。


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