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いつかあなたを  作者: Jun
救済の世界

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78 再会4

昼食を終える頃レイモンドは眠くなってしまい、ガードナー家から連れてきていた乳母が、昼寝に連れて行ってくれた。ローズは自分が姿を消してから、マーガレットがガードナー家でレイモンドの母親代わりとなってくれていたと知り、心から有難く思った。

「マーガレット様、アラン様もありがとうございます。ガードナー家で過ごしていたお陰で、レイモンドは今笑っていられるのだと思います。あの日私の為にあの子が魔法で塔を建ててくれた時、私はならず者に襲われて自害しようとしていたんです。遠くから聞こえてきたあの子の叫び声は、本当に辛く悲しい声でした」

「そう…。レイモンドはずいぶん長い間、魔法を使わなくなっていたの。あんなに幼いのに、自分の魔法のせいで襲撃を受けたと思っているのかもと、私達はずいぶん心配していたわ。でも、ステファンがレイモンドのお兄さんとしてずっと一緒にいてね。楽しく遊んでいる内に、また魔法で色んな物を作ってくれるようになったのよ」

「そうですか。今度ステファン様に会えたら、うんとお礼を言わせてもらいます」

「ローズ。ステファン様なんて呼ばないで良いのよ。私はあなたを友達だと思っているの。だから、私の事もマーガレットと呼んでくれると嬉しい」

 マーガレットに急にそう言われ、ローズは狼狽えた。

「いいえ。私は男爵家からも除籍して、今は平民です。レイモンドはシュタイン家の血を引いていますから、ステファン様と友達でも良いですが、平民の私が皆さんを呼び捨てになんて出来ません」


 マーガレットはローズの頑なな様子に、尚も何か言い募ろうとしたが、アランが横から口を挟んだ。「マーガレット。それはまた後でゆっくり話すと良い。今はローズさんがどうしていたのかを聞きたいし、ローズさんがいない間、こちらで何が起こったのかも話さなければ」

 そう言われたマーガレットは我に返り「確かにそうだわ。ローズ、まずはあなたの話を聞かせて。こちらもずい分状況が変わったから、お互いに何があったか話しましょう」


 横で聞いていたトーマスは、ローズが自害しようとした事にショックを受けながら、確かにローズはクラウスがいなくなり実は悪魔だったと思われている事も、カミラが魂の抜けた機械の様になってしまった事も、何も知らないのだと思い至った。

 これからの闘いの結末によっては、レイモンドがシュタイン家の跡取りに、ローズにもしかるべき立場になって欲しいと思うが、それは全てが終わってから話そうと決心した。

 皆で話し合う為広い応接室に移ろうとすると、ローズが尋ねた。

「私と一緒にここに来たトムとケイトさんは、まだ目覚めないのでしょうか。彼らも一緒に話をした方が、もっと詳しい話が出来ると思います」


 ローズの言葉を受けトムとケイトの様子を尋ねようと、トーマスは家令のオリバーを呼んだ。

「オリバー。意識の無かったあの男女は、もう目を覚ましたかな」

「はい。先ほどお目覚めになられました。旦那様の言いつけ通り、医師の診察を受けて頂きました。女性の方は少々体が弱っていますが大したことは無く、お二人共元気にしていらっしゃいます。今は身支度を整えられ、お食事を召し上がっているところです」

「カミラはどうしている?まだ二人と一緒にいるのか」トーマスの質問を聞いたローズは、驚きを隠せなかったが必死に口をつぐんだ。

 オリバーは困った様に眉をしかめると「はい。奥様は決してお二人から離れようとなさいません。お二人が目覚めるまでお食事も召し上がらなかったのですが、それを知った女性に諭されて、今ご一緒にお食事をなさっておいでです」

「そうか。では食事が済んだら、二人を我々の所へ連れて来て欲しい」

「奥様はいかがいたしますか。きっと一緒にいたいとおっしゃられます」

 トーマスは少し迷ったが「では、一緒に連れて来てくれ。その方が三人の関係や何かが分かって良いだろう」

「かしこまりました」


 オリバーが立ち去って皆で応接室に移り、侍女がお茶を用意し終えるまで、ローズは質問するのを我慢していた。侍女がいなくなってからやっとローズは口を開いて、トーマスにカミラの事を尋ねた。


「トーマス様。あの、さっきおっしゃっていた事ですが、カミラ様がトムとケイトの知り合いだったのですか」

まさかそんな事が、という顔のローズにトーマスは「そうなんだよ。ローズがいなくなった後、メイド長のシモーヌから話を聞いたんだ。彼女はカミラが実家から連れてきた侍女で、カミラの幼い頃を知っていてね。カミラが幼い頃、いつも一緒にいた乳母とその息子が、邸の近くの湖で姿を消したんだそうだ。あの二人を見たシモーヌは、確かにその乳母と息子だと証言した。カミラは二人の側から離れようとしないし、本当にそうなんだろう」


 ローズはトムとケイトが大切に想い、守ろうとしてきた‘’カミラ‘’が、正にシュタイン伯爵夫人カミラであったのを知り、自分の知るカミラと、彼らの話していたカミラの違いに頭がついて行かなかった。しかし、今聞いたカミラの様子からすると、それは確かな答えなのだろうと分かった。

「私はまさか二人がこの世界に残して来た大切な人が、カミラ様だったなんて思いもよりませんでした。二人は、カミラは全く淑女らしくない貴族だと言ったので、同じ名前の違う人だと思い込んでいたんです」

混乱しているローズを見て、トーマスは「ローズが戸惑うのは良く分かる」とうなずいた。

「俺とアランの知っているカミラも、淑女の貴族らしいカミラだが、シモーヌによると幼い頃のカミラは、実家のウィルソン家で不当な扱いを受けていて、今からは想像できない暮らしをしていたみたいなんだ」

 アランも補足する様に「だがシモーヌは、カミラは伯爵家では冷遇されていたけど、乳母と息子と三人でいる時は幸せそうだったと言っていたよ。淑女とはとても思えない様子で、楽しそうに笑い、庭を走り回って、湖でピクニックをしていたそうだ」


 それを聞いたローズはこみあげる気持ちを抑える様に、口元に手を当てた。

「ウィルソン家…カミラ様はご実家がウィルソン伯爵家だったんですね。そしてトムとケイトさんと湖でピクニックをしていたのなら、私の見たあの女の子はカミラ様だった…」

ローズの目に涙が浮かび、止められなくなった。それを見たトーマスがおろおろして、マーガレットがすかさずローズの肩を抱いてハンカチを差し出した。


 ローズは今知った事に心をかき乱され、自分が抱いている気持ちもよく分からないまま、嗚咽と共に途切れ途切れに言葉を発した。

「トムとケイトさんが言っていました。カミラ様が何かの偶然で、悪魔の封印を解いてしまったんだと。その時にトムとケイトさんは湖の底に沈んで、女神様に助けられ私のいた世界へ送られました。 二人はその世界で平和に暮らせていたけれど、ケイトさんにとってもう一人の子ども、トムにとって大切な幼馴染であるカミラ様を忘れませんでした。

 だからケイトさんは女神様に祈って、カミラ様から黒い魔力を吸い取る力を貰ったんです。

ケイトさんが向こうの世界で激しい苦しみに耐えながら、カミラ様から黒い魔力を吸い取らなかったら、とっくに悪魔に魂を食い破られて破滅していたでしょう。

…悪魔は、カミラ様の中の悪魔は今どうしているんですか?

 ケイトさんが、カミラ様の魂が完全に元に戻らなくなったと、黒い魔力を吸おうとしても吸い取れないと心配していました」


 マーガレットはローズの話を聞いて、本当のカミラは自分の知っていたカミラではなく、ケイトとトムが守ってきた幼いカミラ、悪魔が入り込む前のカミラなのだと思った。

その少女は愛し愛される事を知っていたのに、悪魔によって暗闇に閉じ込められ、孤独なまま時が過ぎて、今やっと女神様の御導きで、求めていた人達に巡り会えたのだ。


 この再会はカミラの求めていた人達もまた、遠く離れた場所でカミラの事を変わらず愛していたからこそ、果たされたものだった。

 この二人からの愛が、悪魔に長い間魂を汚されたカミラの魂を守り、最後には赤子という形で、悪魔を切り離す事が出来た理由なのだろう。

カミラの中に入り込んだ悪魔は、これほどの愛でカミラが守られていたのを知らなかったのだ。

女神様に力を授けられる程の、ケイトのカミラへの愛と献身の力をマーガレットは思った。


「ローズ。カミラ様に憑りついていた悪魔は、今は姿を消しているのよ。その代わりカミラ様は、自分を失くした様になっていたの。二人が戻って来てからは、幼い頃のカミラ様に戻っているみたい…。私にも今のカミラ様は、シモーヌの言う通り幸せそうに見えるわ」




読んでいただき、ありがとうございます。


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