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いつかあなたを  作者: Jun
救済の世界

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76 再会2

 トーマスはローズを自らの手で運びたかったが、いくら女性とは言え、意識を失った大人を抱いて森を抜けるのは、騎士の様に鍛えている訳では無い貴族のトーマスには無理だと諦めた。それで倒れていたローズと二名の男女は、護衛騎士が持って来ていた担架に載せられて、村長の家まで運ばれる事になった。

 トーマスはレイモンドを抱きかかえローズの担架の横に付き、アランとマーガレットはその後ろに付いて森を抜けた。

 森は来た時とは様変わりし、暗かった茂みも緑鮮やかに明るい色合いを見せ、いつのまに戻ってきたのか、鳥や小動物の姿さえ見かけた。


「アラン。行く時は本当に苦しかったのに、今はこの森から出たくない程清々しいわ。私たちはシュタイン前伯爵にお会い出来たけれど、犠牲になった方々のご遺族にも、女神様のお陰で皆様の魂が天に昇れた事を知らせてあげたい。ご遺族の辛い気持ちが、少しでも安らげるように」

「ああ、そうだね。シュタインのおじ様の顔が最初の険しく血濡れたものから、穏やかに浄められて行くのを見て、俺も本当に嬉しかった。おじ様も守りたかったレイモンドの元気な姿を見られて、さぞ安心なさった事だろう。

 しかしトーマスは、ローズさんの側を決して離れないな。自分が彼女を抱いて行きたいと言い出した時は、どうやって思いとどまらせようかと思ったが、自ら諦めてくれて良かったよ」アランは前を歩く友を見て笑った。

「本当にね。ローズは見る限りどこにも怪我はないし、痩せてもいなくてホッとしたわ。それにしてもこの場に三人もの人が現れるなんて、本当に不思議ね。あの二人は誰なのか、ローズは一体どこに行っていたのか、聞きたい事が沢山あるわ」


 騎士達が行きより人数が三人増えたので、帰りの馬車は一台では足りないがどうしようか、本邸まで馬で一走りして、もう一台馬車を寄越して貰おうかと相談しながら村長の家に辿り着くと、邸に残して来た騎士の一人が駆け寄ってきた。

「伯爵。本邸から、奥様がいらしています。私たちは警護の為に一緒に参りました」

 そう言われ見てみると、確かに村長の家の前に乗って来たガードナー家の馬車に並び、シュタイン家の馬車が停まっている。

「これで帰りの馬車の心配はいりませんね。二台とも新式で大型ですから、何とか乗れるでしょう」

何も知らない騎士は良かったですねと笑うが、トーマス達はカミラがどうして?という思いで警戒心が募り、混乱した。


 トーマスは騎士に「ああ、そうだな」とおざなりに返事をし、眠ってしまったレイモンドをマーガレットに抱いてもらって、自分は担架からローズを降ろし顔を隠す様に抱きかかえ、村長の家の中へ入った。

 アランはトーマスの意を汲んでローズを隠す様に先に立ってくれて、マーガレットはレイモンドを抱いてトーマスの後に続いた。

 玄関で待っていた村長は、行く時にはいなかった意識の無い人間が増えていて、しかも領主は女性を抱きかかえている状況を見て一瞬ギョッとしたが、すぐに何も気づいていない振りをして、にこやかに一行を招き入れた。

「領主様、皆様。お疲れ様でございました。領主様達が森へ入られてしばらくして、お邸から奥様がおいでになりました。応接室にお通ししましたが、すぐにそちらへ行かれますか?」


 トーマスはアランと目配せすると「いや。まずは具合の悪い人々がいるので、一旦寝かせてやりたいんだ。部屋を貸しては貰えないか」

「おお、それはいけませんね。ではこちらへどうぞ」

 村長の後に続いて客室へ移動したトーマス達が、ローズとレイモンドをベッドに寝かせていると、突然玄関の方から大きな声が聞こえた。

「カミラの声だ」

 トーマスとアランは眠るローズとレイモンドをマーガレットに任せ、声のする方へ急いだ。そこで二人が見たのは、担架に載せられ村長の家に運び込まれた、あの二人に縋りついて泣きじゃくるカミラの姿だった。


「乳母や、トム!」

 クラウスという名の悪魔が去ってから、感情を消し去って機械人形として生きていたカミラが、幼子の様に大声で泣き二人の名前を呼び続けている。

騎士達は伯爵夫人の見たことも無い姿に困惑し、二人の担架を降ろして、その様子を見守る事しか出来ないでいた。

 かがみこむカミラの後ろに、驚きで目を見張るシモーヌがいるのを見つけたトーマスは、彼女の方へ近づいた。

 その間にアランは騎士達に「ここはもう大丈夫だから、君たちは家の周囲を守っていてくれ」と指示を出し、外に出てもらった。


「シモーヌ」「旦那様」

 トーマスを見たシモーヌは、青ざめた顔に少しだけ安堵の色を浮かべた。

「カミラがここに来るなんて、一体何があったんだ」トーマスの口調は少し咎める様なものだったが、シモーヌはそれを気にするどころではなく、どこか上の空な調子で答えた。

「それが、私にも何が何だか分からないんです。皆さまが邸を出てからすぐに、奥様が『私も森へ行く』とおっしゃって…。それ以上は何も話されないまま外に出ようとなさるので、仕方なく家令に頼んで馬車を出してもらって、ここまで参りました」


「そうだったのか。カミラはあの二人を『乳母や、トム』と呼んでいるが、まさかお前の話していた、ウィルソン伯爵家でいなくなった乳母と息子なのか?」

 トーマスの質問に、シモーヌは唇を震わせた。

「はい…はい。そうです。そうとしか思えません。乳母は年はとりましたが、間違いなくケイトです。それに、息子は小さかったので顔は変わっていると思いますが、あの髪の色でした。金にも見える茶色です」

「なんと…。こんなに長い時を経て、戻って来たのか」


 トーマスは‘’女神の御業‘’という言葉は知ってはいたが、実際に目の当りにしたこの奇跡に慄いた。

『トーマス様。これからが本当の闘いになるはずです』さっきマーガレットに言われた言葉がよみがえり、この奇跡は悪魔と闘う為に女神が授けた力なのかもしれないと、改めて感じた。

「シモーヌ。実はあの二人と一緒に、ローズも発見されたんだ」トーマスが打ち明けると「行方不明になっていた二人と一緒にローズ様もですか…。それが何を意味するのか私には分かりませんが、きっと女神様の御導きなのでしょうね」シモーヌも畏れを隠さずにトーマスの考えと同じ事を言うと、目の前の光景を畏敬の念を持って見つめた。


 アランもトーマスと一緒にウィルソン伯爵家での出来事を聞いていた為、カミラが『乳母や、トム』と呼ぶこの二人が、聖なる湖で姿を消した二人である事に気づいた。

 やっと二人に再会できたカミラの気持ちが理解出来たので、しばらくの間そっとしておいたが、やがてカミラの肩に手を置いて声をかけた。

「カミラ。二人がずっと床に寝ているのは良くないから、ベッドに運んであげようか」

 アランは無意識に今までのカミラにではなく、大事な人を失くし、再び巡り合えた女の子に対して話していた。そう声をかけられたカミラは、涙に濡れた顔を上げて「そうだね。床は冷たいものね」とうなずいた。

アランがカミラにハンカチを差し出すと、カミラは「ありがとう」と受け取り、涙を拭いて鼻をすすった後「でも私一人じゃ運べない。一緒に手伝ってくれる?」と心細げに尋ねた。

「ああ。もちろん。騎士達を呼ぼう」

アランはトーマスに「騎士に中に入って貰って、二人を別の客間に運んで貰ってくれ」と声をかけ、カミラの手を取り助け起こした。


「ありがとう。あなたは優しいのね。王子様に似ているからかしら」

 泣き止んで少し照れた様に笑うカミラは、本当に幼い少女の様で、アランはとても優しい気持ちになった。

「カミラ。君はそうして笑っていたんだね。きっともうすぐ君の本当の王子様も目が覚めるよ」

読んでいただき、ありがとうございます。


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