表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつかあなたを  作者: Jun
救済の世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/70

69 トムとケイト、カミラの物語1

*エピソード38が抜けている事に昨日気づき、急遽閑話として追加しました(-_-;) 宜しければお読みください

 トムとケイトの暮らす家は、役所を通り過ぎて十分程歩いた、茶色いレンガ造りの集合住宅の一室だった。ギシギシ言う古い階段を上がった二階の端の部屋に着くと、トムはドアの前で「母さん、帰ったよ。ローズを連れてきた」と声をかけた。部屋の中から玄関に近づき解錠する音がして、ケイトがドアを開け顔をのぞかせた。

「ローズさん、いらっしゃい」

「お邪魔します」

 ケイトは顔色が少し悪かったので、ローズは後で浄化をしなければと思った。多分、昨日ベルフリーデに注がれた黒い魔力を、ローズから吸い取ってくれたせいだろう。

 思えばあの出来事はもう遠い昔の様で、あれからまだ一日しか経っていないとは、ローズには信じられなかった。


 二人の暮らす家は質素だが掃除が行き届き、とても居心地が良い家だった。

 居間に案内されたローズがソファに座ると、ケイトがお茶とお菓子を出してくれた。

「私が作ったのでお口に合うか分からないけど、良かったら召し上がってください」


 素朴なクッキーはバターの香りがしてほんのりと甘く、どこか懐かしい味だった。

「すごく美味しいです。ケイトさんは、お菓子作りが上手なんですね」

 頬をほころばせて言うと、ケイトは嬉しそうに「気に入って貰えて良かったわ」と自分も一枚手に取った。そこへどこかへ行っていたトムが、一冊の古い本を手に戻って来た。「これが、俺達があちらの世界から持って来た本なんだ」

 ハンカチで手をぬぐって、本を受け取って中を見ると、それはローズも子どもの頃、義両親に読んで貰った覚えのある物語だった。


「懐かしいわ。海底にある国に、地上に住む女の子が落ちて、王子様と冒険するのよね。最後は海の国が救われて、二人は結ばれる…冒険はワクワクするし、王子様は素敵で私も大好きな話だった」

 ローズが本を読んだ時に感じた気持ちを思い出し声を弾ませると、トムが「カミラもこの本が大好きで、いつも王子に会いたいって言ってたんだ」と微笑んだ。

 ケイトも「そうね。カミラ様は何べんも、この本を読んで欲しいとせがんでいたわね」と懐かしそうな顔をした。

「カミラ様?」聞き返したローズにトムは「俺たちがあちらの世界に残してきた大事な人は、カミラっていう名前なんだ。俺と一緒に育った、家族みたいな幼馴染だ」と教えてくれた。


「そうなのね。私の知っている人にもカミラという名前の人がいるけど、その人は貴族なの。とても…貴族らしい淑女よ」

「俺たちのカミラも貴族ではあるけど、全く淑女では無かったな」トムはおかしそうに笑いながら言った。

「それなら、違う人ね」ローズは何となくホッとして「そういえば、トムはその人の様子が分かると言っていたわよね。どうやったら分かるの」と思い出して尋ねた。


「それは、この本を見れば分かるんです」

 ケイトが絵本を開いて、見開き一面を使って絵が描いてあるページを見せてくれた。

 それは海の底で王子と少女が出会う場面で、左側のページに王子、右側のページに海の底に落ちて迷い子になった少女が描かれている。

 ケイトは「この少女が、カミラ様なんです」と絵の中の少女を指さした。少女はダークブロンドの髪で、灰色の服を着ていた。

 ローズは自分の覚えている絵本の少女と、この挿絵の少女とはどこか違うと思った。何が違うのか考えてみると、少女の見た目が記憶とは変わっている事に気づいた。


「私の読んだ本では少女も王子様と同じ、輝く金髪に青い目だったんですが、この絵ではダークブロンドなんですね。着ている服も、確か絵本では白かった気がします」


「この少女はカミラだからね。 カミラはダークブロンドの髪に、ダークブルーの瞳なんだ。だから、この本の少女もそうなんだよ」トムはそう言って、優しい目で絵の中の少女を見た。

 ケイトが、服の色が白くない理由も説明してくれた。

「少女が着ている服は、カミラ様が悪魔の力に汚染されると黒に変わっていくんです。私はこの世界に来てから、この挿絵を通してカミラ様から黒い魔力を取り除いているんです。悪魔にカミラ様の魂を滅ぼされ、乗っ取られ無い為に、私に出来る事はそれだけだったんです」


「この間母さんの状態がひどく危なくて、ローズに浄化して貰った時があっただろう。あの時、この少女の服だけでなく、全身が真っ黒に変わってしまっていたんだ。母さんが限界まで魔力を取り除いて、やっと今の灰色まで戻ったんだよ。だけどそれから何度魔力を吸い取っても、元の白に戻らないんだ」

 ケイトは深刻な顔をした。

「今までは何回も吸い取っていれば、どんどん色が薄くなって白に戻ったんです。だけどずっと灰色のままで…。それできっとカミラ様に、何かが起こっているんだと思ったんです」

「確かに、それは心配ですね」ローズも話を聞き、ケイトとトムの気に掛けるカミラの状況が気になった。灰色というのは黒程悪くはないはずだが、元に戻らないとはどういう状態なのだろう?


 それからローズはここに到着した時から気になっていた、ケイトの浄化をかけさせて欲しいと申し出た。昨日ローズから黒い魔力を吸い取った為に、ケイトが体調を崩しているのは明らかだったからだ。

 ケイトはその申し出を有難く受け、早速ローズはケイトの手を取って浄化をかけた。

 浄化が終わり、ケイトの顔色が良くなって安心したローズは、そもそもトム達が悪魔と関わりを持ったのは何故なのかを聞いてみた。


「私たちが悪魔と出会ってこのような運命になったのは、カミラ様がそうと知らず、悪魔の封印を解いてしまった為でした」

 ケイトはその時の事を思い出し、辛そうに顔を曇らせた。

「私はあちらの世界で、ウィルソン伯爵家の長女、カミラ様の乳母として働いていました。トムは私の子どもで、カミラ様と同い年です。私はお邸にトムを連れて住み込みで働くのを許されたので、トムとカミラ様は一緒に大きくなったんです」

「それは、貴族としては珍しいですね」男爵家に引き取られ、学院やシュタイン家で貴族の在り方を見てきたローズが不思議そうに言うと、ケイトはうなずいた。

 「そうですね。本当ならカミラ様は伯爵令嬢ですから、乳母の子と一緒に育つなどありえません。けれど理由は分かりませんが、カミラ様は伯爵家で顧みられず、ほとんど放置されていたんです。だから私とトムとカミラ様は、ウィルソン伯爵家の片隅で肩を寄せ合うように暮らしていました」


 ウィルソン伯爵家と聞いて何かが引っかかっていたローズは、そこで義両親と住んでいた村の領主がウィルソン伯爵だった事を思い出した。

「あの、ケイトさん。実は、私はウィルソン伯爵領の村で育ったんです。女神様は私をこの世界から逃がす時、湖を通してあちらの世界に逃がして下さいました。湖の近くの村に住んでいた義両親が、私を見つけて育ててくれたんです。義両親が亡くなって村を出て、それ以来ウィルソン領に行った事がありませんが、ケイトさん達のいたお邸の近くに、湖はありませんでしたか」

 ケイトとトムはそれを聞いて驚いた顔をした。

「俺たちはしょっちゅう邸の近くの湖にピクニックに行ってたよ。敷物と弁当を持って行って、一日中遊んだり昼寝したりしたな。カミラもピクニックが大好きだった」

「そうね。あの日も、そうやって三人で湖に出かけていたわ」


 トムの語るピクニックの様子を聞いたローズは、幼いあの日見かけた三人はきっとケイト達だと考え、昔見た出来事を話した。

「私は義両親に拾われたばかりの頃、その湖に行きたくて仕方ありませんでした。

でも義両親からは湖は落ちたら危ないし、貴族の邸が近いから行ってはいけないと、きつく止められていたんです。それでずっと我慢していましたが、一度だけ、こっそり湖に行った事がありました。その時、湖で過ごす三人の人を見かけました。今の話を聞くと、きっとその人たちはケイトさん達だったと思います。

 小さい男の子と女の子が走り回って、お母さんらしい女の人が敷物の上に座って編み物をしながら、楽しそうな子ども達を見ていました。私は羨ましくて仲間に入りたくて、ずっと木陰から見ていましたけど、言いつけを破っていたから声をかけられずに帰りました。三人がとても楽しそうにしていたのを覚えています」


「そうだったのか。きっとそれは俺達だよ。あの湖は伯爵家の裏門と繋がっていたから、邸の者以外は誰も近寄らなかった。君の義両親が言われた事は正しかったと思う。万一伯爵や夫人、関係する貴族に会ってしまったら、君がどんな目に遭わされていたか分からないからな。しかし不思議だな。君がそんなに近くにいたなんて」

「あの湖のそばにある採石場跡に悪魔は封印されていて、カミラ様は出会ってしまったんですよ。女神様が悪魔の封印されていた土地へあなたを送るなんて、不思議ですね」


「それはあの湖が、女神様の力の籠った聖なる湖だからだと思います」ローズが言うと、ケイトもトムも驚きを露わにした。

「そうなのか、全く知らなかった」

「私も義両親から聞いたんですが、あの湖には女神様の力を湛えた水が満ちていて、昔聖女が悪魔を封印した時は、それを利用する為に湖まで悪魔をおびき出したそうです。本当に悪魔があの湖の近くに封印されていたのなら、言い伝えは本当だったんですね」


読んでいただき、ありがとうございます。


続きが読みたいと思っていただけたら、ブックマーク、評価(下の方にある☆☆☆☆☆)、いいねで応援してくださると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ