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いつかあなたを  作者: Jun
壊れゆく世界

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23 別邸の密談2

「それではガードナー伯爵夫人に祓いに来てもらっても、シャーロットは助からなかったのか」リチャードの無念そうな様子に「あの時、確かに棺から蛇が飛び出しました。けれどすぐに消え去る程度のものでしたから、亡くなられたのは他の、ご病気などが原因だと思います」マーガレットは気の毒そうに言った。


「けれど、悪意の蛇がいた事は確かです。私は今のお話を伺って、やはりその悪意の源はカミラ様ではないかと思います。奥様がカミラ様に会いに行かれた時、何かカミラ様の怒りを買う様な事をお話しになったんじゃないでしょうか。その日は、どうして会いに行かれたんでしょう」

「あの日は、カミラが懐妊したと聞いて祝いに行っていた。私は前からの予定があって同行出来なかったが、女同士でしか話せない事もあるからちょうど良いと、シャーロットは一人で出かけた」

「そうだったんですか」


(ローズに子を産ませたばかりなのに)そう考えたマーガレットは、冷たい一瞥をトーマスにくれて、またリチャードへ尋ねた。

「奥様はローズの産んだ子については、どう思われていたのですか。レイモンドは跡継ぎとして生まれてきたと思いますが」

 リチャードはハッとして「シャーロットは、レイモンドに夢中だった。トーマスにそっくりだと言って、ひどく可愛がっていたよ。たださすがにカミラに子が出来たのなら、その子が跡継ぎになる事は分かっていたはずだ」

「それでは、それが理由では無いですね」


 でも、とアランが話し出した。

「もし本当にカミラが、マーガレットの言う悪意の蛇を出す様になっていたとしても、俺は無理もない話だと思う。シュタイン家に跡継ぎが出来なければ困るのは分かる。

 しかしカミラの気持ちを考えたら、周囲に悪意を持っても仕方ないじゃないか。俺はシュタイン家の皆に散々お世話になっているからこんな事を言いたくは無いが、カミラが可哀想だと思うよ。

 マーガレットの友人に罪は無いが、その人に対して悪意を持つのも当たり前だ。だってトーマスは、ローズさんに妾以上の特別な気持ちがある様に思える」


 アランの言葉にトーマスは驚き、ローズ本人以外には話していない想いを、友が見破った事を嬉しく思った。

(やはり、アランは俺の事を理解してくれている)

 アランは続けた。

「トーマスは最初妾を拒否していたはずなのに、レイモンドをすぐに授かった。それ程ローズさんはトーマスにとって、魅力的な人だったんだろう?

 それからカミラと、ローズさんとレイモンドの事で対立した事もあると言っていた。その時も蛇が出たのなら、きっとカミラは、君が二人を特別に思っている事に気づいていたんだろう」

「ああ、確かにそうだった。カミラは、俺が彼女を大切に思っている事を知っていた。アランの言う通り、俺は最初からローズの強さと美しさに惹かれていたんだ。今は彼女を愛している、と思っている」


 聞いていたマーガレットは小さくため息をついた。

「トーマス様。今さら言っても仕方のない事ですが、ローズに子どもを産ませて間もないのに、何故カミラ様も懐妊したのでしょう。トーマス様は、ローズとレイモンドの事をどうなさるおつもりだったんですか」

 トーマスは苦しそうに顔を歪め「言い訳になるが、最初レイモンドは生まれたらすぐローズから引き離して、カミラが育てる約束だった。だがローズからレイモンドが物心つくまでは、自分で育てたいと願われた。俺はそれを叶えたくて、カミラに伝えて了承してくれる様頼んだ。そうしたらカミラはそれを受け入れる代わりに、俺に当主として責任を果たせと言った。俺が妾を拒否した時言った通り、本当にカミラに子が出来ると信じているなら、正妻の自分との閨の義務を果たせと」

 その時も蛇が出て締め上げられ、自分はうなずくしか無かったとトーマスは付け加えた。

「あれに締め付けられると気力が無くなって、自分の意志がぼんやりしてくるんだ」


 黙って皆のやり取りを聞いていたリチャードが「やはり私は、カミラが信用出来ない。私はまだ、シャーロットの死にカミラが関わっていないとは信じ切れない」と口を挟んだ。

「妾を勧めたのは私達でそれはカミラには酷な事だったが、貴族としては普通の事だし、何よりトーマスはそれを断った。それなのに強引に妾を探し、ローズを連れてきたのはカミラだ。我々がレイモンドを可愛がり、トーマスがローズさんを大切に思うのを不愉快に思っても、元々は自分にも責任のあることだろう。レイモンドが生まれてから自分も懐妊したい、懐妊したらレイモンドとローズさんを追い出したいと言うのは、おかしな話だ」リチャードは言い切って、悔しそうに両手を握りしめた。


 アランは、そんなリチャードの姿を気の毒そうに見つめていたが、

「おっしゃる事はよく分かります。しかし、ここで話しているのは全て推測だという事は、忘れてはいけないと思います。つまりカミラの気持ちも考えも、蛇の事も、何一つ確証は無いという事です。

 それを踏まえても今回棺から出た蛇、トーマスを締め付けた蛇は、カミラが原因の可能性が高い事、ただし、彼女が自らの意志で蛇を操っている訳では無さそうな事。

 そして蛇に他人を死なせる程の力は無く、夫人の死の原因であるとは考えづらい事。これが正しい答えだとするなら、今後はカミラが蛇を出す事にならない様、彼女の気持ちをこれ以上乱さなければ良いのではないでしょうか」


 リチャードはこれを聞いて「確かに、確証は何も無いな…」と不本意そうにしながらもうなずいた。

 アランはそれを見てからトーマスへ向き直った。


「トーマス。今カミラは、命がけで君の子を産んでくれている。子が無事に産まれれば、子がいない事での嫉妬は無くなるだろう。その上でローズとレイモンドを今後も遠ざけ、カミラと生まれた子を大切にすれば、二人への憎しみも薄くなる。そしてカミラの子によって跡継ぎの心配が無くなるなら、二人を解放してやるのが君の言う愛の証じゃないのか」

「解放してやるのが愛の証か…」トーマスは、自分達だけで生きる術が欲しいと言ったローズを思い起こした。

「そうかもしれないな。父さん、ローズが俺に願った事があるんです。これから何があるか分からない二人に、生きていけるだけの物をくれないかと。俺が、叔母様から貰った小さい領地と邸があるでしょう。あそこをレイモンドの名義にしたいのですが、良いでしょうか」息子の思い決めた様子に、リチャードもうなずいた。

「良いだろう。あそこは小さい領地だが手堅く税収が入って、代官もしっかりした人間だ。私にも、シャーロットにとっても、レイモンドは可愛い孫だ。あの子が母と共に安心して生きて、今後教育を受ける資金も用意してあげられるなら、彼女も満足だろう」


 トーマスは、アランとマーガレットに「二人共、色々ありがとう。すぐに解放してあげられれば良いのだろうが、カミラの子が生まれても、レイモンドはシュタイン家の大事な子で、母親としてローズを必要としている。俺も…カミラと子を大切にするが、王都でもう少しだけ彼女達と共に過ごしたい。しかるべき時が来たら、必ず彼女達を自由にするから、待っていてくれ」


「王都のシュタイン邸にいるのが不都合になった時は、いつでもローズとレイモンドを私達の所へ寄越してください」マーガレットが申し出ると、アランも「歓迎するよ」と言葉を添えた。

「じゃあ、トーマスはすぐに邸に戻れ。カミラがきっと待ってる」と急がせ、リチャードに「シュタインのおじ様、僕達は今日泊まらせて頂いて良いですか」とお伺いを立てた。

「ああ、勿論だとも。一緒にゆっくりシャーロットの思い出話をしてくれ」

 嬉しそうな父親の顔を見たトーマスは、アランの友情に感謝して急いで邸へ戻った。



読んでいただき、ありがとうございます。


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