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いつかあなたを  作者: Jun
歪められた世界

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2 ガードナー夫妻の来訪

 それからあっという間に、アランはマーガレットとの距離を詰め友人から恋人になった。

 カミラは知らない内に知り合っていた二人に驚きながらも、アランがマーガレットに正式な申し込みをして婚約者になった後は四人で学院生活を過ごす事に協力的だったので、トーマスは何故だかホッとしたのを覚えている。

 …過ぎ去った学院生活を思い出しながら尚も散策を続けていると「トーマス!」カミラの呼ぶ声が聞こえてきた。


 トーマスが慌てて玄関ポーチへ戻ると、一台の馬車が土煙を上げて門をくぐるのが見えた。目を輝かせて馬車の到着を迎えるカミラの横に並び、トーマスもアランとマーガレットに久しぶりに会える事に胸を躍らせた。


 邸のアプローチに到着した馬車は真新しく、最新式の様だった。待ち構えていた侍従が扉を開くと、まずアランが降り立って、中にいるマーガレットが降りるのに手を貸した。

 馬車からマーガレットの半身が見えた時、そのお腹が大きくなっている事に気づいたトーマスとカミラは、ハグしようと向かっていた足を思わず止めた。


 しかしマーガレットを降ろして振り返ったアランが、「トーマス!カミラ!久しぶりだね」と屈託ない笑みで呼びかけると、我に返った二人は、挨拶を交わす為再び足を進めた。

「アラン、マーガレット、よく来てくれたね」

「アラン様、マーガレット、ようこそ」四人は互いに柔らかくハグをして、頬を寄せた。


「それでアラン。君たちの結婚式から一年振りの再会だが、僕たちに嬉しい知らせは届いていなかったはずだよね?」トーマスが冗談めかして確認した。

「悪い。まだマーガレットの体調が安定していなかったから、互いの両親にしか知らせていなかったんだよ。でももう七か月になったから、こうして君たちに会いに来られたのさ」

 アランが照れ臭そうに笑うと、カミラが「さあ、こんなところで立話をしているとマーガレットが疲れてしまうわ。邸に入りましょう」と声をかけた。

「ありがとう、カミラ」マーガレットが礼を言うと、カミラはにっこりと笑みを返した。

「マーガレット。何も教えてくれないなんて、水臭いわ。今からゆっくり話を聞かせてね」

 トーマスとカミラが先に立ち、アランはマーガレットを気遣いエスコートしながら、四人はシュタイン邸の中へ入って行った。


「マーガレット、長時間の馬車は大丈夫だったの?」

 応接室に入った四人が席に着いて、侍女がお茶を淹れ始めた時、カミラがマーガレットの腹を見つめながら心配そうに尋ねた。

「ええ。安定期に入っているし、アランが新しく開発された振動の少ない馬車を手に入れてくれたの。その馬車に風魔法もかけてくれたから、全然揺れなかったのよ」マーガレットが微笑んだ。

「馬車を軽くすれば、道路の凸凹も気にならなくて、ほとんど負担が無いって聞いたから試してみたんだ。実際ここまでの道中は、まるで氷の上を滑るみたいに来られたよ。

 ずっとマーガレットの体調も良くて、シュタイン領までなら大丈夫と、医師からの許しも出ていたしね」アランが続けた。


「新開発の馬車の話は聞いたことがあるわ。車輪と車体の間に板バネというのを使っていて、揺れがそれほど感じられなくなるとか…。そこにアラン様の風魔法なんて素敵ね。さすがだわ」

 カミラが熱を込めて賞賛すると、トーマスが「アランは昔から新しい技術に目がなかったからなあ。後で乗らせてくれないか。良さそうならうちも購入を検討しよう」と苦笑した。

「もしトーマスが馬車を新調するなら、俺が風魔法を付与させてもらうよ」

「まあ!その時は絶対にお願いしますね。アラン様」カミラは目を輝かせた。


 アランはもちろん、と頷いて茶を一口飲むと「香りでそうかと思ったけど、やっぱり俺が好きな東方の茶葉だ。この季節には余り出回らないのに、よく手に入ったね。うちではもう切らしてしまったから、来年まで飲めないと思ってたよ」と嬉しそうに言った。

「ええ、アラン様が好きなお茶はよく知っていますから。我が家にいらした時にお出しできるよう、用意しておいたの。沢山あるから、お帰りの時お持ちになって」

「覚えていてくれて嬉しいな。少し分けてもらえるなら有難いが、貴重な物なのに本当に良いのかい」アランが目を見張り尋ねた。

 カミラが何か答える前に、トーマスが答えた。

「このお茶は俺もカミラも君ほど好きじゃないから、沢山持って行ってくれて構わないよ。確かマーガレットも好きだったろう?…ところでマーガレット、お腹の子はいつ頃生まれる予定なんだい」


 トーマスは、最初に少し話したきり会話の聞き役に徹しているマーガレットに、わざと話を振った。マーガレットは学院時代も、一人だけ下級生という遠慮もあったのだろうが、カミラがアランに熱心に話しかけている時は特に、口を挟もうとしなかった。

 トーマスは、そんなマーガレットを年下の友人として好ましく思い庇護欲を抱いていたので、カミラの態度で気分を害していないか、いつも気にして話かけるのが常だった。

(アランは徹頭徹尾マーガレットにだけ夢中で、昔からカミラの気持ちに気付いてもいないのが救いだ。俺は道化の立ち位置だが、皆が平穏ならそれで良い)


「予定日は九月の終わりか、十月の初めと言われてるの」マーガレットが答えると

「マーガレットは暑いのが苦手だから、一番お腹が大きくなる頃が夏で可哀想なんだよ」とアランが気づかわし気に彼女を見やった。

「だから俺は今、水魔法と風魔法を応用して、マーガレットに冷たい風を送れないか研究中なんだ」

「まあ、そんな事まで…。羨ましいわ」

 何となくおかしな気配を感じたトーマスがカミラを見ると、彼女の背後に禍々しい黒い物がうごめいている様な気がして、背筋が寒くなった。

 蛇の様に見えるが、いったい何なんだと目を凝らしたが「うまく出来る様になったら、カミラにもやってあげるよ」アランが言った瞬間、それは姿を消した。

「アラン様、本当に?楽しみにしていますわ」嬉しそうに笑うカミラにもさっきの気配は感じられず、トーマスは気のせいだったのかと忘れてしまった。


「じゃあ、トーマス。久しぶりに会えて嬉しかったよ。子どもが生まれたら連絡するから、是非顔を見に来てくれ。カミラ、お茶をこんなに沢山ありがとう。大切に飲ませてもらうね」

「トーマス様、カミラ様。おもてなし頂いてありがとうございます。是非我が家にも遊びにいらしてください」

 あれからアランの馬車に乗せて貰い、その乗り心地に驚嘆したり、庭の薔薇を見に行って、アランとも馴染み深い庭師のガイとお喋りしている間に時は過ぎ、アランとマーガレットが帰途に着く時間になった。


「注文してからずいぶんかかりそうだが、うちも絶対この馬車を手に入れるよ。君たちの子どもを見に行く時は、新しい馬車で行きたいものだな」

「アラン様のお邸へ伺う時、またお茶をお持ちしますね。マーガレット、身体に気を付けて。元気な御子が生まれる様祈っているわ」

「ああ。待ってるよ」「ありがとうございます。カミラ様も元気で」

 アランはマーガレットを支えて馬車に乗せ、自分も乗り込んでから窓を開けて、二人に手を振った。 

 トーマスとカミラも手を振り返し遠ざかっていく馬車を見送った後、二人共何となく黙り込んだまま踵を返し、邸へと戻って行った。


読んでいただき、ありがとうございます。


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