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いつかあなたを  作者: Jun
光差す世界

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109 カラバン子爵家への道

 カラバン子爵家へ向かう行きの馬車は、マーガレットがローズ、トム、ケイトから聖魔法の使い方や悪魔との闘いについて話を聞きたいというので、その四人で一つの馬車に乗り込んだ。

 アランとトーマスは必然的に二人でもう一台の馬車に乗る事になり、二人は久しぶりにゆっくりと、これまでとこれからの話を語り合った。

「アラン。どこから話せば良いのか分からないが、俺達が二人で駆け回って遊んでいたのが遠い昔みたいだな。まさか知り合った初めから、カミラに悪魔が憑りついていたなんて、夢にも思わなかった」

「ああ。俺だってそうさ。しかし今のカミラを見ると、本当に人が変わるとはこう言う事なんだなと思う。…トーマスは、大丈夫か。ご両親も亡くなり、クラウスも…」


 気づかわし気に聞かれたトーマスは、飛ぶように走っている馬車の窓から外を眺めていた視線を、アランに移した。

「ああ。両親が無くなったのは勿論悲しくて寂しいが、もう大丈夫だ。クラウスについても、本当に不甲斐ない話しだが、親子の関わりをほとんど持っていなかったのが幸いしたと思う。もしこれがレイモンドだったら、俺はどうなっていたか分からない。結局、両親を亡くした悲しみも、クラウスが俺の子で無かった失望も、ローズとレイモンドの存在が救ってくれた。両親も亡くなる前、母はレイモンドに喜びを貰っていたし、父はローズとレイモンド、二人との交流に癒されていたから、きっと幸せだったと思う」

「そうか。今はまず悪魔を倒す事だけを考えるべきだが、全てが終わったら、君もカミラも二人共、幸せになって欲しいと俺は思うよ。二人は俺の大切な幼馴染だから」


「アラン、俺は君に謝らなければならない。俺は長い間君を妬み、劣等感を抱いていた。そのせいでカミラの異変も、ローズを妾に迎える事も言い出せず、相談も出来ないままどうしようも無い状況に陥った。

 それなのに君とマーガレットは、俺を見捨てずに寄り添い、ずっと力を貸してくれている。俺は君ばかり人気があるのを羨んでいたが、こうなってみると、人々が俺じゃ無くて君を選ぶのは当たり前だったと思うよ。本当にありがとう、アラン」トーマスはアランを柔らかい目で見て礼を言った。

「これは僻んだり負け惜しみではなく、俺の心からの気持ちだ」


 アランはそれを聞いて顔をしかめた。

「褒めてくれるのは嬉しいが、それは俺を買いかぶり過ぎだ。周りの人間は俺の外見と能力に惹かれてくるが、その多くは自分の欲望をぶつけてくるだけだ。君は四歳の時、俺の為に泣いて怒ってくれて以来兄弟同然の大切な人で、そんな人だから俺は君と君の家族の為に力を尽くす。ただそれだけだ。俺に近づいてくる人々の為に、俺はこんな風に力は貸さない。君があの時俺を救ってくれたから、俺はこうしていられるんだよ、トーマス」

「そんな昔のこと。君は自分の力だけでも十分やってこられただろう」

「いや。俺にとって君という信じられる人間が確実にいる事が、どんなに大切だったか分からないよ。君は俺を妬んだのかもしれないが、俺の不幸を願う様な人間でなかったのは分かっている」

 アランに言われ、トーマスは今気づいた様にうなずいた。

「ああ…そうだ。そうだな。俺はいくら羨ましくても君の不幸を願った事は無いな。俺にとっても、君は大切な友人で家族だから」

 二人はそろって泣いた四歳のあの日の様に目を赤くして、照れくさそうに笑い合った。


 シュタイン領内の行程は順調だったが、隣領に入りしばらく進むと前方に数台の荷馬車が止まり立往生しているのを見つけた。アランは御者に指示してその脇で馬車を停止させ、窓を開けて、荷馬車の主達にどうしたのかと尋ねた。

 飛ぶような速度で走って来た二台の馬車に人々は目を丸くしていたが、我に返ってここにいる理由を教えてくれた。

「先週の大雨で、この先の山で土砂崩れが起きたんです。街道に土砂がなだれ込んで、通れなくなっています。私たちは、せっかくここまで荷を運んできたのに引き返すのも悔しくて、皆で土砂を何とかどかせないか、思案していたところでした」と答えた。


 それを聞いたトーマスは「俺が魔法で片付けよう」と言ってすぐに馬車を降りて、その場所まで歩き出した。アランと、もう一台の馬車の面々も外に出て、トーマスの後に続いた。御者はこの間に馬達に水と飼い葉を与え、木陰に連れて行って小休止を取った。

 トーマスは問題の箇所に着くと、馴れた様子で土魔法を使った。彼はいつも領地の見回りをして、領民が不便をしているとすぐに直してやっているので、こういう事は日常茶飯事だった。

 トーマスの魔法で街道になだれ込んだ土砂が元の山肌に戻ると、彼は又崩れない様に山肌を固めた。街道も土砂だけでなくずいぶん凸凹も出来ていたので、地面に残った土を活用して、平らに固く均してやった。ローズは(お父さんも、きっとこうして働いていたのね)と思いながら、トーマスの魔法を興味深く見つめていた。


 後からやって来た荷馬車の人々と領民は、綺麗に修復された上に、前よりも通り易くなった街道を見て感嘆した。

「こんなに早く街道が通れるようになるなんて、信じられません。あなた様のお陰で、期日に送れないで済みました」荷馬車の主が涙を流さんばかりに礼を言うと、他の者も「遠回りしないで済んで助かりました」「前よりも道が良くなってありがたいです。足が悪いので、いつも難儀していたんです」と口々に礼を言って通って行った。


 声をかけられる度にトーマスは律儀に「いや、大した事ではない」とか「役に立てて良かった」などと答えて笑っている。

 気が付くといつの間にか隣に来ていたトムが「シュタイン伯爵は、本当に良い人なんだな」とつぶやいて、ケイトに「あなたは自分の考えでばかり人を推し量るから、分からないのよ」と叱られてしょげていた。ケイトは「あの方がカミラ様の態度や仕打ちを嫌って、怒って見捨てていたら、私の力だけではカミラ様が破滅するのを救えなかったかもしれない。きっと嫌な思いを沢山なさったでしょうに、それでもカミラ様に寄り添おうとして下さったから、踏み止まれたんだと思うわ」と続けた。

 ローズはそれを聞きながら、段々に変化していった自分のトーマスへの気持ちを思い出していた。


 道の整備が終わって出発する際、これから先良い宿屋のある大きな街があるので、そこで皆で一晩泊まって休み、翌朝出発すれば先触れ通りの日に到着出来ると話していると、アランが「何か既に起きている可能性があるから、到着は一日でも早い方が良い。このまま進もう。そうすれば日が暮れるまでには着けるんじゃないか」と言い出した。


「馬は走り続けていて大丈夫なの?それに先触れでは明日訪問すると書いたのよ。初対面で無理やり訪ねるのに、失礼じゃないかしら」マーガレットは心配したが、幸い馬はアランの重ね掛けした風魔法のお陰で、馬車の重さをほとんど感じずここまで走って来られていた。その上道の整備をしている間に休んで水や飼葉を貰い、ローズが癒しの魔法までかけたので、出発時と同じ位元気を取り戻していた。


「馬は元気いっぱいだよ、マーガレット。それにこの訪問はそもそも無礼なんだから、今さら礼儀を論じても仕方ない。あちらに着いたら、俺が頭を下げるさ」


 ローズはそのやり取りの間、黙って空を見上げていたが「私もすぐに出発した方が良いと思います。何だか嫌な感じがするんです」と言った。

 それを聞いたケイトも「私もそう感じます。すぐに向かいましょう」と同意した。しかしそういうケイトを見て、顔色が優れないのに気づいたアランが「やはり宿に泊まる方が良いか」と考えを変えると、ケイトは強く反論した。

「ガードナー伯爵様。到着は一時でも早い方が良いです」

「しかし…」

「私は、馬車の中で寝かせてください。それで大丈夫です」

 そこでケイトが横になって休める様にと、今度は一台の馬車にトムと二人で乗る事になった。


 こうして一行はまた馬車に乗り込むと、カラバン子爵家目指して出発した。

「ローズ。嫌な感じって、どういうこと?」馬車が走り出してからマーガレットが聞くと、ローズは東の方角を指さした。

「あっちがカラバン子爵家の方角ですよね」

「ああ。ここはもう隣領だから、そうだね」トーマスがうなずいた。


「あちらの空に、黒い雲に覆われている所があるのが見えませんか」

 マーガレット、アラン、そしてトーマスもその方向を凝視したが何も見えず、ただ晴れた空に白い雲が浮いているだけだった。輝いていた太陽は少しずつ西に向かい、夕暮れが近づいている。

「黒い雲は見えないわ。それは聖女の力で見えるのかしら」

 ローズは首をひねって「そういう力があるとは聞いていませんが、考えてみたら悪魔が現れて力を振るった時、いつも雨が降っていたように思います」

 ローズの両親が無くなった時も、ベルフリーデから黒い魔力を注がれた時も、雨に閉じ込められていた記憶がある。


「この世界では本当の天気にまで影響は無くても、悪魔が力を振るう時は黒い雲に覆われるのかも知れないですね」

「そうだとすると、早く行ってあげなければ」その前に、とマーガレットは自分の魔力を籠めたハンカチを沢山取り出してアランとトーマスに渡した。

「いつどんな風に襲われるか分からないから、沢山持っていて。ローズの力は悪魔を滅ぼす為に全て使えるように、私が少しでも皆を守れるように作ったわ」

「肌身離さず持つ様にするよ」「ありがとう、マーガレット」二人は懐に大切にハンカチを仕舞った。


読んでいただき、ありがとうございます。


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