第十四話 小さな晩餐
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
二人と暮らし始めて、二十日ほど経っただろうか。
俺は今、目の前の光景に頭を抱えていた。
「……なんでこうなるんだ。」
テーブル代わりに置いた木箱の上。
そこには色鮮やかな料理がいくつも並んでいた。
焼いた魚。
香草を混ぜたキノコの炒め物。
木の実のスープ。
そして――。
きつね色の揚げ物。
「……。」
俺はその物体を見つめる。
見間違えるはずがない。
だって前の世界で何度も食べた。
「……唐揚げ?」
その一言にサクラが首を傾げる。
『からあげ?』
紙にそう書いて見せてくる。
いや。
待て待て待て。
なぜ。
なぜ地下都市で。
なぜ異世界で。
なぜ唐揚げがある。
◇
話を聞くと、こうだった。
調剤技能を使って、その辺に生えていた植物の種から油を作った。
粉も地下都市で採れる穀物のようなものを挽いて作った。
そして。
俺が置いていった鉄鍋を使い揚げた。
肉は先日食べた蛇。
どうやらまた近くで捕まえてきたらしい。
「……。」
意味が分からない。
俺なんか、せいぜい焼くくらいしかできないのに。
なぜ二十日でここまで進化している。
『できた』
サクラが少し得意そうに書く。
「いや……できたじゃないんだよ……。」
◇
この二十日で分かったことがある。
この姉妹。
とにかく生活能力が高い。
特に料理。
どんな食材を渡しても、必ず美味いものになる。
木の実。
キノコ。
魚。
蛇。
見たこともない草。
全部、美味い。
もう俺が作った料理なんて、恥ずかしくて出せないレベルだ。
完全に負けている。
しかも。
どうやらエルフには「薬の調剤」という特殊な技能があるらしい。
薬草を調合し薬を作る技能。
だが。
その知識がそのまま料理にも応用されている。
香草の使い方。
食材の下処理。
保存方法。
全部知っている。
「……ずるくない?」
俺がそう呟くと、ツバキが不思議そうにこちらを見た。
◇
それだけじゃない。
精霊召喚。
これがまた便利すぎる。
火の精霊。
水の精霊。
風の精霊。
土の精霊。
いわゆる四大元素の精霊を使役できるらしい。
料理に使うなら最高だ。
火加減も簡単。
水もすぐ出る。
風で乾燥。
土で畑まで耕せる。
……便利すぎる。
だが。
問題が一つ。
その力の代償だ。
生命力を使う。
つまり、寿命を削る。
そんなもの、使わせられるわけがない。
「だめ。」
俺は紙に大きく書いた。
『料理で精霊禁止』
サクラが困った顔をする。
『少しだけ』
『だめ』
『便利』
『だめ』
『寿命長いから平気』
『平気じゃない』
何度、このやり取りをしただろう。
この子たち。
自分の命を軽く考えすぎだ。
この辺の倫理観が俺とはだいぶ違うらしい。
結局。
火起こしは俺の持っていた冒険者用の火打ち道具を使うことになった。
便利だからで寿命を使うなんて割に合わない。
◇
「……。」
俺は目の前の揚げ物を見つめる。
きつね色。
衣の色。
油の香り。
夢でも何度も見た。
前の世界の、ご馳走。
手を伸ばす。
ひと口。
サクッ。
「……。」
もうひと口。
噛む。
「……。」
肉汁が溢れる。
塩気。
香草の香り。
衣の食感。
「……うまい。」
ぽつりと呟く。
そして。
次の瞬間。
涙が出ていた。
「……え。」
自分でも驚いた。
どうして泣いているんだ。
ただの唐揚げなのに。
でも。
前の世界では当たり前だった味。
もう二度と食べられないと思っていた味。
それが今ここにある。
気づけば夢中で食べていた。
◇
気づけば皿は空だった。
俺は満足そうに息を吐く。
……うまかった。
本当に。
(ビールがあったら最高なんだけどな……。)
思わず空を見上げる。
もちろん地下なので天井しかない。
サクラとツバキが心配そうにこちらを見ていた。
「……。」
俺は少し笑った。
「ありがとな。」
言葉は通じない。
でも。
二人には何となく伝わったらしい。
サクラが小さく微笑み。
ツバキも嬉しそうに笑った。
静かな地下都市。
その小さな食卓だけが、どこか温かかった。
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