第十三話 地下の灯
翌朝。
俺は袋の中を覗き込み、小さくため息をついた。
干し肉が、あと一切れ。
これで終わりだ。
木の実やキノコはある。
野草も多少は採れる。
生きるだけなら、しばらくは何とかなるだろう。
だが――。
「肉がない。」
俺は真剣な顔で呟いた。
やはり肉は必要だ。
人間、肉を食べないと元気が出ない。
少なくとも俺はそう思っている。
紙に文字を書く。
『今日は食料を探しに行く』
それを見たサクラが、すぐに文字を書いた。
『私たちも行く』
『だめ』
『でも』
『二人ともまだ痩せすぎ』
『今日は休み』
サクラは少し不満そうな顔をした。
だが、反論はしなかった。
ここ数日で多少顔色は良くなったとはいえ、二人ともまだ本調子ではない。
ツバキなど、ようやく普通に歩けるようになったくらいだ。
『俺が見てくる』
そう書いて立ち上がる。
すると、ツバキが袖を引っ張った。
何かを言っている。
もちろん分からない。
心配しているのだろう。
俺は笑って親指を立てた。
「すぐ戻る。」
通じなくても、気持ちは少し伝わったらしい。
ツバキが小さく頷いた。
◇
久しぶりに機兵へ乗り込む。
ゴウン、と重い音が響いた。
「よし。」
操縦席から見える地下都市は、相変わらず広い。
まだ見ていない場所も多い。
もしかしたら、何か食料になるものが見つかるかもしれない。
俺は機兵を進ませた。
◇
数時間後。
成果はほとんどなかった。
キノコ。
野草。
見たことのない木の実。
以上。
「……肉。」
思わず呟く。
すると。
頭上から、羽音が聞こえた。
バサバサッ。
「ん?」
見上げる。
そこには。
一羽の鳥のような生き物が飛んでいた。
「……鳥!?」
地下なのに。
こんな場所に。
だが、そんなことはどうでもいい。
重要なのは。
「肉だ。」
俺は機兵を走らせた。
鳥が飛ぶ。
追う。
逃げる。
追う。
逃げる。
……速い。
「待てぇぇぇ!!」
だが、機兵の巨体では小回りが利かない。
鳥は高い天井近くを旋回し、そのまま暗闇の向こうへ消えていった。
静寂。
「……逃げられた。」
俺は操縦席で項垂れた。
しばらくその場で動けなかった。
◇
帰り道。
袋の中身を確認する。
キノコ。
野草。
以上。
「……肉が食いたい。」
腹が鳴った。
もう夕方だ。
今日は完全な空振りだった。
肩を落としながら、拠点へ戻る。
◇
焚き火の明かりが見えた。
先に火を起こしてくれていたらしい。
「ただいま。」
当然、通じない。
だが。
その場で、俺は足を止めた。
「……。」
「……。」
サクラとツバキが、なぜか得意げな顔をしている。
そして。
二人の前に置かれていたもの。
それは――。
「蛇?」
長い。
太い。
どう見ても蛇だった。
サクラが紙を差し出してくる。
『とれた』
「……。」
『肉』
「……。」
間違ってはいない。
間違ってはいないが。
「蛇かぁ……。」
俺の微妙な顔を見て、ツバキが少し不安そうになる。
サクラが慌てて文字を書く。
『おいしい』
少し間を置く。
『たぶん』
「たぶん!?」
思わず声が出た。
サクラが小さく笑う。
どうやら、少しからかわれたらしい。
◇
結局。
その蛇は焼いて食べることになった。
パチパチと火が鳴る。
肉の焼ける匂いが漂う。
「……。」
意外と悪くない匂いだ。
恐る恐る、一口。
もぐもぐ。
「……。」
サクラとツバキが、じっと見ている。
「……うまい。」
蛇は鶏肉に近いと何所かで聞いたことはあったが
これは、脂が乗っていて十分に旨味も感じる。
臭くもない。処理の手際が良い証拠だ。
その瞬間。
二人の顔がぱっと明るくなった。
ツバキなど、ぴょんと飛び跳ねている。
俺は思わず笑ってしまった。
結局。
今日は肉を狩れなかった。
格好悪いところを見せた気もする。
だが。
こうして三人で火を囲むのも、悪くない。
焚き火の向こう。
サクラが小さく笑っていた。
地下都市の静かな夜。
そこにはもう、一人ぼっちだった頃の静けさはなかった。
地下の灯が3人を優しくつつむ。




