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第十二話 繋がる記憶

ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。


機兵、遺跡、秘密基地。


好きなものを全部詰め込みました。

 ――数日後。


地下都市の一角。


小さな焚き火の前で、俺は木の枝を削っていた。


向かいでは、サクラとツバキが採ってきた木の実を仕分けしている。


「これ、食べられる。」


サクラが紙に書いてこちらへ見せる。


「お、助かる。」


俺も返事を書く。


最初の頃は、一文字書くのにも時間がかかった。


けれど、今では簡単な会話くらいならできるようになっていた。


……不思議なものだ。


言葉は通じないのに、文字だけで意外と何とかなる。


ツバキが、こちらを見て小さく笑う。


どうやら、俺たちが紙に向かって会話しているのが面白いらしい。


俺も少しだけ笑った。


数日前まで一人だったとは思えない。



 しばらくして。


俺は以前から気になっていたことを紙に書いた。


『聞きたいことがある』


サクラが顔を上げる。


『なに?』


少し考える。


どう書けばいいのか。


そして、ゆっくりと文字を綴った。


『どうして、この文字がわかる?』


その瞬間。


サクラの手が止まった。


表情も固まる。


やはり。


俺だけじゃなかったんだ。


しばらく悩んだ後、サクラが紙に文字を書き始める。


『私にもわからない』


『気づいたら知っていた』


そこまで書いて、少し考える。


そして。


『私は、この世界に来る前の記憶がある』


俺の手が止まった。


『前の世界?』


サクラが頷く。


『日本』


その二文字を見て、俺は息を呑んだ。



 しばらく、何も書けなかった。


日本。


今、確かにそう書いてあった。


見間違いじゃない。


俺は震える手で紙に文字を書く。


『俺もだ』


『日本の記憶がある』


今度はサクラが目を見開いた。


しばしの沈黙。


焚き火の音だけが聞こえる。


ツバキだけが、何が起きているのか分からず、俺たちを交互に見ていた。


『本当に?』


『本当だ』


『東京』


なんとなく書いてみる。


すると。


『大阪』


そう返ってきた。


俺は思わず苦笑した。


『やっぱり知ってるのか』


サクラも小さく笑う。


初めて見た。


この地下都市で見せた、心から安心したような笑顔だった。



 その後。


俺たちは、知っていることを少しずつ話した。


もっとも、長い話はできない。


一文字ずつ書いていては日が暮れてしまう。


 だから、本当に最低限だ。


サクラは、自分だけがこの文字を理解できること。


ツバキには分からないこと。


エルフたちは別の言葉を話していること。


そして、自分には日本で暮らしていた記憶があること。


俺も、自分のことを話した。


この世界へ来て数年経つこと。


自分にも日本の記憶があること。


そして。


この文字を見た時、心底驚いたこと。


『じゃあ』


サクラが書く。


『私たちは似ている?』


俺は少し考えた。


似ている。


……のかもしれない。


でも。


分からないことの方が多い。


『分からない』


『でも、同じ記憶を持ってる』


そう書くと、サクラは静かに頷いた。



 しばらくして。


サクラが新しい紙を取り出す。


『少し安心した』


『私だけじゃなかった』


俺は、その文字をしばらく見つめた。


そして。


小さく笑う。


『俺もだ』


その返事に。


サクラもまた、小さく笑った。


地下都市の静かな一角。


誰もいないと思っていた世界で。


俺たちは、初めて同じものを知る相手に出会った。


まだ、何も分からない。


なぜ日本の記憶があるのか。


なぜこの文字が読めるのか。


この世界が何なのか。


何一つ。


それでも。


たった一つだけ、分かったことがある。


俺たちは、一人じゃなかった。



『……なんか安心した。』


そう書くと、サクラも頷いた。


『私も』


その返事を見て、少しだけ笑う。


この世界に来てから、こんな気持ちになったのは初めてだった。


けれど――。


ぐぅぅぅ……。


「……。」


「……。」


今度は俺の腹が鳴った。


サクラが少しだけ目を丸くする。


俺は咳払いをした。


『現実問題』


『食べ物が足りない』


その文字に、サクラも真面目な顔になる。


地下都市には、多少の食料がある。


天井近くの木々から落ちてくる木の実。


湿った場所に生えるキノコ。


雑草と見分けがつきにくいが、食べられる野草。


生きるだけなら、なんとかなる。


だが。


俺は横に置いていた袋を持ち上げた。


中には、残りわずかな干し肉。


数えるほどしかない。


『肉がない』


俺がそう書くと、サクラが首を傾げた。


『肉?』


『俺は肉が食べたい』


しばらくの沈黙。


そして。


サクラが小さく吹き出した。


『大変な世界なのに』


『そこ?』


『そこだ』


俺は真顔で返す。


『肉は大事だ』


すると今度はツバキまで笑い始めた。


何がおかしいのか分かっていないのに、


姉が笑っているからつられて笑っている。


俺はため息をついた。


『とにかく』


『明日から食料探しだな』


サクラは笑いをこらえながら頷く。


『うん』


『肉を探そう』


こうして。


俺たち三人の最初の目標は、とても単純なものになった。


――肉を手に入れること。


読んでいただきありがとうございます。


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