第十二話 繋がる記憶
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
――数日後。
地下都市の一角。
小さな焚き火の前で、俺は木の枝を削っていた。
向かいでは、サクラとツバキが採ってきた木の実を仕分けしている。
「これ、食べられる。」
サクラが紙に書いてこちらへ見せる。
「お、助かる。」
俺も返事を書く。
最初の頃は、一文字書くのにも時間がかかった。
けれど、今では簡単な会話くらいならできるようになっていた。
……不思議なものだ。
言葉は通じないのに、文字だけで意外と何とかなる。
ツバキが、こちらを見て小さく笑う。
どうやら、俺たちが紙に向かって会話しているのが面白いらしい。
俺も少しだけ笑った。
数日前まで一人だったとは思えない。
◇
しばらくして。
俺は以前から気になっていたことを紙に書いた。
『聞きたいことがある』
サクラが顔を上げる。
『なに?』
少し考える。
どう書けばいいのか。
そして、ゆっくりと文字を綴った。
『どうして、この文字がわかる?』
その瞬間。
サクラの手が止まった。
表情も固まる。
やはり。
俺だけじゃなかったんだ。
しばらく悩んだ後、サクラが紙に文字を書き始める。
『私にもわからない』
『気づいたら知っていた』
そこまで書いて、少し考える。
そして。
『私は、この世界に来る前の記憶がある』
俺の手が止まった。
『前の世界?』
サクラが頷く。
『日本』
その二文字を見て、俺は息を呑んだ。
◇
しばらく、何も書けなかった。
日本。
今、確かにそう書いてあった。
見間違いじゃない。
俺は震える手で紙に文字を書く。
『俺もだ』
『日本の記憶がある』
今度はサクラが目を見開いた。
しばしの沈黙。
焚き火の音だけが聞こえる。
ツバキだけが、何が起きているのか分からず、俺たちを交互に見ていた。
『本当に?』
『本当だ』
『東京』
なんとなく書いてみる。
すると。
『大阪』
そう返ってきた。
俺は思わず苦笑した。
『やっぱり知ってるのか』
サクラも小さく笑う。
初めて見た。
この地下都市で見せた、心から安心したような笑顔だった。
◇
その後。
俺たちは、知っていることを少しずつ話した。
もっとも、長い話はできない。
一文字ずつ書いていては日が暮れてしまう。
だから、本当に最低限だ。
サクラは、自分だけがこの文字を理解できること。
ツバキには分からないこと。
エルフたちは別の言葉を話していること。
そして、自分には日本で暮らしていた記憶があること。
俺も、自分のことを話した。
この世界へ来て数年経つこと。
自分にも日本の記憶があること。
そして。
この文字を見た時、心底驚いたこと。
『じゃあ』
サクラが書く。
『私たちは似ている?』
俺は少し考えた。
似ている。
……のかもしれない。
でも。
分からないことの方が多い。
『分からない』
『でも、同じ記憶を持ってる』
そう書くと、サクラは静かに頷いた。
◇
しばらくして。
サクラが新しい紙を取り出す。
『少し安心した』
『私だけじゃなかった』
俺は、その文字をしばらく見つめた。
そして。
小さく笑う。
『俺もだ』
その返事に。
サクラもまた、小さく笑った。
地下都市の静かな一角。
誰もいないと思っていた世界で。
俺たちは、初めて同じものを知る相手に出会った。
まだ、何も分からない。
なぜ日本の記憶があるのか。
なぜこの文字が読めるのか。
この世界が何なのか。
何一つ。
それでも。
たった一つだけ、分かったことがある。
俺たちは、一人じゃなかった。
◇
『……なんか安心した。』
そう書くと、サクラも頷いた。
『私も』
その返事を見て、少しだけ笑う。
この世界に来てから、こんな気持ちになったのは初めてだった。
けれど――。
ぐぅぅぅ……。
「……。」
「……。」
今度は俺の腹が鳴った。
サクラが少しだけ目を丸くする。
俺は咳払いをした。
『現実問題』
『食べ物が足りない』
その文字に、サクラも真面目な顔になる。
地下都市には、多少の食料がある。
天井近くの木々から落ちてくる木の実。
湿った場所に生えるキノコ。
雑草と見分けがつきにくいが、食べられる野草。
生きるだけなら、なんとかなる。
だが。
俺は横に置いていた袋を持ち上げた。
中には、残りわずかな干し肉。
数えるほどしかない。
『肉がない』
俺がそう書くと、サクラが首を傾げた。
『肉?』
『俺は肉が食べたい』
しばらくの沈黙。
そして。
サクラが小さく吹き出した。
『大変な世界なのに』
『そこ?』
『そこだ』
俺は真顔で返す。
『肉は大事だ』
すると今度はツバキまで笑い始めた。
何がおかしいのか分かっていないのに、
姉が笑っているからつられて笑っている。
俺はため息をついた。
『とにかく』
『明日から食料探しだな』
サクラは笑いをこらえながら頷く。
『うん』
『肉を探そう』
こうして。
俺たち三人の最初の目標は、とても単純なものになった。
――肉を手に入れること。
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