第十一話 出会いの先
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
ガコン。
操縦席のハッチが開く。
俺はゆっくりと機体の外へ出た。
壁には、確かに文字が書かれている。
『やめてよ』
見間違えるはずもない。
日本語だった。
「……。」
目の前のエルフも、俺を見て固まっている。
信じられないものを見るような顔だ。
いや。
それは俺も同じだった。
この世界に来て四年。
初めてだった。
自分以外に、この文字を書ける存在を見たのは。
俺は壁の文字を見る。
そして、エルフを見る。
もう一度、壁を見る。
「……。」
頭の中が真っ白になる。
だが。
今はそんなことを考えている場合ではなかった。
目の前の二人は、どう見ても限界だった。
◇
年上のエルフが、ふらりとよろける。
「……!」
思わず一歩踏み出す。
すると。
そのエルフは最後まで妹を庇うように抱きしめた。
敵意はない。
そう分かっていても、身体が勝手に動いているのだろう。
「……。」
なんだか、昔の自分を見ているみたいだった。
俺はゆっくり両手を上げた。
何もしない。
そのつもりだった。
もちろん、言葉は通じない。
それでも。
少しでも安心してほしかった。
だが。
限界だったのだろう。
エルフの瞳から、急に力が抜けた。
「あ……。」
そのまま、前へ倒れる。
「うおっ!」
慌てて駆け寄り、身体を受け止める。
軽かった。
驚くほど。
ちゃんと食べていないのだろう。
「お姉ちゃん!」
小さいエルフが駆け寄ってくる。
涙目だ。
何か必死に話している。
もちろん、分からない。
だが。
伝わることもある。
「……大丈夫。」
通じないと分かっていても、そう言ってしまう。
小さいエルフは、不安そうに俺を見つめていた。
◇
俺は二人を寝床まで運ぶことにした。
幸い、距離はそう遠くない。
年上の方を背負う。
軽い。
本当に、軽い。
そして。
小さい方は、俺の服をぎゅっと掴んで後ろを付いてくる。
逃げない。
いや。
逃げられないのかもしれない。
それほどまでに疲れ切っていた。
◇
寝床へ戻る。
毛布を敷き、エルフを寝かせる。
額に触れる。
少し熱い。
「……無理しすぎだろ。」
小さいエルフは、ずっと姉の手を握っていた。
離れようとしない。
「……。」
俺は鍋を火にかける。
残っていた野菜。
干し肉。
少しだけ残していた塩。
全部入れる。
こんな時くらい、出し惜しみはなしだ。
ぐつぐつと、鍋が音を立てる。
やがて。
小さな寝息が聞こえてきた。
振り返る。
小さいエルフも、姉の隣で眠っていた。
「……。」
俺は鍋をかき混ぜる。
静かな夜だった。
だが。
今までの静けさとは違う。
誰かがいる。
それだけで、少しだけ暖かかった。
◇
壁を見る。
そこへ、炭を持っていく。
そして。
小さく文字を書く。
『レン』
しばらく見つめる。
それから。
苦笑した。
「まさかな……。」
偶然かもしれない。
この文字を、たまたま知っていただけかもしれない。
でも。
もし。
もし本当に。
俺と同じなら――。
「……。」
考えるのは、明日にしよう。
今は。
この二人を休ませてやりたい。
俺は鍋の火を弱める。
そして。
毛布に背を預けた。
久しぶりだった。
誰かの寝息を聞きながら眠るのは。
地下都市の夜は静かだった。
けれど。
この日から。
俺の一人きりの生活は終わりを告げた。
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