第十話 足跡の主
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
ゴト……。
静かな地下都市に、不自然な音が響いた。
「……?」
俺は鍋から顔を上げる。
この数日、ここで過ごして分かったことがある。
この地下都市には何もいない。
魔物も。
動物も。
そして、人も。
だからこそ。
今の音は異質だった。
俺は腰の剣を手に取る。
「……誰かいるのか?」
返事はない。
当たり前だ。
独り言のように呟き、焚き火を消す。
そして、音のした方へと歩き出した。
◇
しばらく進む。
すると、石畳の上に見慣れないものが落ちていた。
「……ん?」
赤い木の実だった。
俺がここへ来てから、何度か採っていた実。
だが。
今日はここへ来ていない。
つまり――。
「誰かが、ここを通った。」
周囲を見回す。
すると。
石畳の上に、小さな足跡が残っていた。
「……裸足?」
しかも、一つじゃない。
二人分。
片方は小さい。
子供だろうか。
俺はしゃがみ込む。
まだ新しい。
ついさっきだ。
「……まさかな。」
ここに来てから、ずっと一人だった。
だから、誰かがいるなんて考えもしなかった。
けれど。
この足跡は嘘をつかない。
◇
足跡を追う。
途中、壁際に置いていた干し肉が一つなくなっていた。
「……盗まれた?」
いや。
食べ物を探していたのか。
少しだけ、嫌な予感がする。
足跡はどんどん奥へ続いていた。
そして――。
視界の先。
崩れた建物の陰。
何かが動いた。
「……!」
咄嗟に身を隠す。
しばらく様子を見る。
すると。
そこから現れたのは。
「……エルフ?」
思わず呟いた。
長い耳。
金色の髪。
ゲームで何度も見た種族。
けれど。
その姿は、あまりにも痛々しかった。
服はぼろぼろ。
身体は痩せ細っている。
そして。
首には、鉄の首輪。
その後ろには、さらに小さなエルフの少女がいた。
こちらも同じ首輪を付けている。
「……。」
奴隷、か?
いや。
そんなことより。
「なんでこんなところに……。」
地下都市に、生存者がいた。
それだけでも驚きだった。
◇
その時だった。
小さい方が、ふらりとよろける。
慌てて姉らしきエルフが支える。
しかし。
その姉の方も、今にも倒れそうだった。
「……。」
見ていられなかった。
俺も、昔はあんな顔をしていた。
食う物がなくて。
生きるだけで精一杯だった頃。
誰も信じられなかった頃。
放っておけば。
あの二人は、きっと死ぬ。
「……はぁ。」
大きくため息を吐く。
「面倒事の予感しかしない。」
けれど。
見捨てるのも、後味が悪い。
◇
俺は機兵へ戻った。
ハッチを開く。
操縦席へ乗り込む。
この姿なら、もし襲われても対処できる。
ゆっくりと機兵を動かした。
ゴウン……。
重い足音が響く。
すると。
エルフ達がこちらに気付いた。
びくり、と身体を震わせる。
小さい方を、姉が必死に庇う。
「……。」
完全に怯えている。
そりゃそうだ。
いきなり鉄の巨人が出てきたら、俺でも逃げる。
だが。
姉の方は逃げなかった。
震える足で立ち上がる。
そして。
妹を背中へ隠した。
その姿に。
少しだけ感心する。
「……強いな。」
次の瞬間だった。
姉が、ふらふらと後ろへ下がる。
そして。
壁へ手を付いた。
何かを書いている。
「……?」
機兵を止める。
やがて。
四文字の文字が、壁に浮かび上がった。
『やめてよ』
「……。」
俺の思考が止まった。
今。
何を見た?
もう一度。
壁を見る。
『やめてよ』
間違いない。
俺が知っている文字だ。
「……え?」
あり得ない。
どうして。
この世界で。
その文字を。
「……。」
心臓が大きく鳴る。
俺は壁の文字と、エルフを何度も見比べた。
「……まさか。」
胸の奥が、ざわつく。
ゆっくりと。
俺は操縦席のハッチを開いた。
この出会いが。
俺の人生を、もう一度大きく変えることになる。
この時の俺は、まだ知らなかった。
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