第九話 地下都市の暮らし
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
遺跡に落ちてから数日が経った。
まずやったこと。
それは、生きる為に必要な事だった。
「……よし。」
俺は小さく呟く。
幸いにも、この地下都市は完全な死の世界ではなかった。
まず、水があった。
街の中央を流れる細い水路。
試しに飲んでみたが、腹を壊すこともない。
むしろ、森の湧き水と変わらないほど綺麗だった。
「地下なのに川か……。」
見上げても天井しかない。
なのに、水はどこから来ているのだろう。
「まぁ、考えてもしょうがないか。」
飲める。
それだけで十分だった。
◇
次は寝床だ。
崩れていない建物を探し、壁が三方残っている小屋を見つけた。
雨風はない。
夜露もない。
奴隷商の檻より、ずっと快適だった。
壊れた机を集めて薪にする。
持っていた鍋を置く。
森で拾った木の実を煮る。
探せばキノコ位ありそうだな。
干し肉のストックはまだあるか…
「当分いきていけそうだな。」
誰に言うでもなく笑った。
ここ数年。
まともな家に住んだことなんてない。
外敵をあまり気にせず落ち着けた夜も少ない。
幸い、他の気配が何もない。
案外、ここは悪くない。
◇
探索も始めた。
街は広かった。
見たことのない建物。
崩れた塔。
用途の分からない部屋。
そして――。
「……文字?」
壁に埋め込まれた棚の中。
そこに、一冊の手記が残されていた。
紙は黄ばんでいる。
だが。
書かれている文字を見て、俺は固まった。
「……日本語?」
間違いない。
俺の知っている文字だった。
急いでページをめくる。
◇
『やはり私のこれは夢ではなかった。』
そこで文章は途切れていた。
次のページ。
『ここは――』
そこから先は破れている。
「……なんだこれ。」
誰が書いた?
どうして日本語なんだ?
この世界に俺以外の日本人がいた?
頭の中に疑問が溢れる。
さらにページをめくる。
『神の果実アンブロシア』
『精製方法の確立には――』
またそこで終わっていた。
「アンブロシア……?」
聞いたことがない。
アイテムか?
それとも食べ物か?
分からない。
手記は途中からほとんど読めなくなっていた。
破れている。
あるいは、文字そのものが消えている。
そして。
最後の方のページに、一つだけ読める文章があった。
『アルカディアは在る』
そこから先はなくなっていた。
◇
手記を閉じる。
そして、ため息をついた。
「……なんか、面白くなってきたな。」
帰れるかも分からない。
ここが何なのかも分からない。
それでも。
冒険だけは昔と変わらない。
知らない場所。
知らない謎。
そういうものを前にすると、少しだけ胸が躍ってしまう。
「俺もたいがい、ゲーム脳だな。」
苦笑する。
ふと。
視線の先に、奇妙なものが見えた。
白い扉。
他の建物の扉とは明らかに違う。
まるで、一枚の板をそのまま立てたような造り。
「……なんだあれ。」
近付いてみる。
取っ手もない。
鍵穴もない。
押しても。
引いても。
びくともしない。
「開かない……か。」
少しだけ興味はあった。
だが。
今は、生きることの方が先だ。
「まぁ、そのうちだな。」
俺は踵を返した。
◇
寝床へ戻る。
鍋を火にかける。
静かな時間だった。
誰もいない。
何もない。
けれど。
不思議と寂しくはなかった。
その時。
ゴト……。
「……?」
何かが倒れる音。
遠い。
街のどこかだ。
耳を澄ます。
しばらく静寂。
気のせいか?
そう思った時。
カラン。
今度は、はっきりと聞こえた。
「……。」
誰かいる。
この遺跡に。
俺以外の何かが。
腰の剣に手を添える。
しばらく考え。
そして立ち上がった。
「……面倒事の予感しかしない。」
そう呟きながら。
俺は音のした方へと歩き出した。
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