第六話 繋がり
……温かい。
ふわりと、何か柔らかいものが頬に触れていた。
私はゆっくりと目を開ける。
見慣れない天井。
石造りの部屋。
そして。
「……。」
一人の男が、少し離れた場所に座っていた。
昨日の――鉄の巨人の中から出てきた人間。
「……!」
私は飛び起きる。
すると、男もこちらに気付いた。
「お。」
立ち上がる。
思わず身構える私。
しかし、男は慌てたように両手を上げた。
「……。」
「……。」
何かを話している。
でも。
分からない。
やっぱり、言葉は通じない。
「……。」
男も、それを察したようだった。
困った顔をして頭を掻く。
すると。
「お姉ちゃん……?」
隣でツバキが目を擦りながら起き上がった。
「ツバキ!」
「……あ。」
男は少し驚いた顔をする。
どうやら、私だけでなくツバキも運んでくれたらしい。
私は改めて周囲を見る。
布が敷かれている。
焚火。
そして。
小さな鍋から、いい匂いがしていた。
……食べ物だ。
ぐぅ。
情けない音が鳴る。
「……。」
「……。」
男も、その音を聞いたらしい。
何とも言えない顔をした。
そして。
鍋を持ってきて、私たちの前へ置いた。
木の器に、中身をよそう。
野菜の入ったスープだった。
「……?」
私たちは顔を見合わせる。
男は、自分の口へ運ぶ真似をする。
食べろ。
そう言っているのだろう。
「……。」
少し迷う。
でも。
お腹は、もう限界だった。
「……いただきます。」
小さく呟き、口へ運ぶ。
「……。」
温かい。
ただ、それだけで。
涙が出そうになった。
「おいしい……。」
隣では、ツバキが夢中で食べている。
男はそれを見て、小さく息を吐いた。
少しだけ。
安心したように。
◇
食事が終わる。
しばらく静かな時間が流れた。
男が、自分を指差す。
「レン。」
……レン。
昨日も聞いた。
名前なのだろう。
私は自分を指差す。
「サクラ。」
そして。
ツバキを指差した。
「ツバキ。」
「……。」
男――レンは頷いた。
名前だけは通じたらしい。
でも。
それ以上は、どうしようもなかった。
「……。」
「……。」
沈黙。
言葉が通じない。
何を考えているのか。
何を伝えたいのか。
何一つ分からない。
その時。
「あ……。」
レンが何かを思いついたように立ち上がった。
棚から紙を持ってくる。
そして。
棒のようなもので、何かを書いた。
さらさらと。
迷いなく。
私たちの前へ差し出す。
『名前?』
「……!」
私は息を呑んだ。
文字。
それは。
私の知っている文字だった。
「……。」
レンも固まっている。
私は震える手で、その紙を受け取る。
そして。
書いた。
『サクラ』
その下に。
『ツバキ』
レンの目が見開く。
「……。」
何かを言っている。
やっぱり言葉は分からない。
でも。
今度は、私も少し笑っていた。
伝わる。
この人となら。
話ができる。
私は急いで、もう一度文字を書く。
『ありがとう』
たった五文字。
だけど。
それを見たレンは、しばらく固まっていた。
そして。
力が抜けたように、その場へ座り込む。
「……。」
目を押さえている。
泣いているのだろうか。
分からなかった
でも。
その姿を見て。
私も少しだけ、胸が熱くなった。
この世界へ来てから。
初めてだった。
誰かと。
話ができたのは。
誰かと。
通じ合えたのは。
私は、もう一度紙へ文字を書く。
『よろしく』
レンはそれを見て。
今度は、少しだけ笑った。
こうして。
誰もいないはずだった地下都市で。
二人のプレイヤーは出会った。




