第三話 地下都市
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
静かだった。
あまりにも静かだった。
足音だけが、石畳の道に小さく響く。
カツ……。
カツ……。
「お姉ちゃん……。」
「うん。」
私は、繋いだツバキの手を握り返した。
地下。
そこは地下のはずなのに、見上げるほど高い天井があり、淡い光が街全体を照らしている。
石造りの建物。
大きな塔。
広い道。
まるで一つの都市。
だけど――。
「誰も……いない。」
そう。
人の気配だけがなかった。
まるで、時間だけが止まってしまったかのように。
◇
ぐぅぅ……。
「……。」
「……。」
お腹が鳴る。
私は思わず苦笑した。
「お腹、空いたね。」
「うん……。」
私も限界だった。
森へ入る前からほとんど何も食べていない。
それに、転移した時の光。
あれだけでずいぶん体力を使った気がする。
「何か探そう。」
「うん。」
◇
二人で建物を回る。
しかし、どこも空っぽだった。
机。
椅子。
棚。
どれも古く、誰も使っていない。
だが。
「……あれ?」
私は足を止めた。
「どうしたの?」
「これ……。」
机の上。
そこに、一つの器が置いてあった。
綺麗だった。
古びてもいない。
それどころか――。
まだ、少し湿っている。
「……。」
「……。」
二人で顔を見合わせる。
「誰か……いる?」
「……かもしれない。」
胸がざわつく。
さらに奥へ進む。
すると。
「お姉ちゃん!」
ツバキが小さく声を上げた。
棚の上。
そこに布袋が置かれていた。
中を見る。
パンの欠片。
少しだけ残った干し肉。
そして、空になった水筒。
「……。」
「食べ物……。」
私は息を呑んだ。
古代遺跡に、こんなものがあるはずがない。
つまり。
「……誰かの、だよね。」
「うん。」
誰かがいる。
それだけは分かった。
でも。
私たちのお腹は限界だった。
ツバキが私を見上げる。
「お姉ちゃん……。」
「……。」
少し考える。
そして。
「……ごめんなさい。」
誰に向かってかも分からない謝罪を口にする。
「少しだけ……いただこう。」
「うん……。」
二人でパンを分け合う。
一口。
また一口。
久しぶりに感じる、小麦の味。
「……おいしい。」
思わず涙が出そうになった。
ツバキも、夢中で食べている。
「……よかった。」
「うん。」
少しだけ。
本当に少しだけ。
生きられる気がした。
ツバキが、最後のパンを飲み込む。
「……ごちそうさまでした。」
私も小さく手を合わせた。
「……誰かの物だったら、ごめんなさい。」
返事はない。
当たり前だ。
この街には、誰もいない。
……はずだった。
その時。
ガシャン。
「……!」
私は立ち上がった。
今。
音がした。
遠く。
建物の外。
ガシャン。
ガシャン。
重い何かを引きずるような音。
「お姉ちゃん……。」
ツバキが震えながら私の服を掴む。
「静かに。」
私は妹を抱き寄せた。
音は、ゆっくりと近づいてくる。
一歩。
また一歩。
まるで、こちらを探しているように。
ガシャン。
ガシャン。
暗い通りの先。
そこに、二つの赤い光が浮かんだ。
「……っ。」
息を呑む。
人じゃない。
獣でもない。
大きい。
人の何倍もある。
鉄の塊。
そして。
ゆっくりと。
その赤い瞳が、こちらを向いた。
「お姉ちゃん……。」
ツバキの声が震える。
私も、声が出なかった。
逃げなきゃ。
そう思うのに、足が動かない。
鉄の巨人は。
ゆっくりと。
私たちへ向かって歩いてきていた。
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