第一話 首輪の里
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。好きなものを全部詰め込みました。
冷たい雨が降っていた。
灰色の空。
竜人族の住む高い山々は雲に隠れ、その麓にある小さな村もまた、どこか沈んで見える。
私――サクラは、妹のツバキの手を握った。
「……お姉ちゃん。」
「うん。」
「お腹、空いた。」
小さな声だった。
昨日から何も食べていない。
いや、その前も大したものは食べていない。
干からびた木の実。
少し苦い草。
それだけ。
私は、自分のお腹をさすった。
ぐぅ、と情けない音が鳴る。
「……大丈夫。」
「お姉ちゃんだから。」
そう言うと、ツバキは少しだけ笑った。
私も笑い返す。
……本当は全然大丈夫じゃない。
お腹は空いているし、怖いし、寒い。
でもお姉ちゃんだから。
そうやって自分に言い聞かせる事しかできなかった。
◇
私たちエルフは、弱かった。
……いや。
正しくは、弱くされていた。
エルフは、高い生命力を持つ種族だ。
その生命力を代価に、精霊という事象そのものを呼び出し、奇跡を起こすことができる。
火。
風。
水。
土。
本来なら、精霊たちは私たちの手足となってくれる。
けれど。
私は首元に触れる。
カチャリ。
冷たい鉄の感触。
首輪の中央には、小さな赤い宝石が埋め込まれている。
嫌いな音だった。
嫌いな色だった。
この首輪を付けていると、精霊術はうまく使えない。
生命力を魔力へ変換する流れが、どこかで引っ掛かる。
少しなら使える。
でも、本来の力は出せてないのがわかる。
大きな精霊を呼ぼうとすると、先に自分の身体の方が悲鳴を上げる。
だから。逆らえない。
だから。逃げられない。
だから。支配される。
◇
「サクラ。」
後ろから声がした。
村の長老だ。
彼もまた、古びた首輪をつけている。
「……なんですか?」
「村長がお呼びだ。」
その顔は暗かった。
嫌な予感がした。
私はツバキの手を強く握る。
「お姉ちゃん……?」
「……行こう。」
◇
村の中央。
粗末な木の小屋。
そこには数人のエルフが集まっていた。
みんな俯いている。
そして。そこには。
二人の竜人がいた。
高い背丈。
白い鱗。
額から伸びる角。
その金色の瞳が、こちらを見下ろしている。
私は反射的にツバキを背中へ隠した。
「……ほう。」
竜人が笑う。
「これが今回のか。」
「はい……。」
村長が頭を下げる。
その言葉に、周囲の空気が凍った。
私は知っている。
この言葉の意味を。
定期的に。
誰かが。
いなくなる。
戻ってきた者はいない。
どうなったのかも、知らない。
聞いてはいけない。
そういう空気が、この村にはあった。
「サクラ……と、ツバキです。」
「ふむ。」
竜人は私たちを品定めするように見た。
その視線に、背筋が寒くなる。
「悪くない。」
「まだ若い。」
「アンブロシアも十分育つだろう。」
……アンブロシア?
何を言っているのか、分からない。
でも。
その言葉に、大人たちの顔色が変わった。
村長は、目を伏せる。
「では。」
「三日後に迎えに来る。」
それだけ言って、竜人たちは立ち去っていった。
◇
静かだった。
誰も何も言わない。
そして。
「……ごめんなさい。」
村長が、頭を下げた。
「……え?」
「私たちには……どうすることもできない。」
ツバキが、私の服を掴む。
「お姉ちゃん……?」
「なに……?」
村長の声は震えていた。
「三日後……お前たちは、里を出ることになる。」
頭が真っ白になった。
「……いや。」
「いや……。」
「なんで……?」
「なんで私たちなの……?」
答えは返ってこない。
誰も、目を合わせてくれない。
ただ。
静かな雨の音だけが聞こえていた。
◇
その夜。
私は眠れなかった。
隣ではツバキが、小さく寝息を立てている。
私は、その頭をそっと撫でた。
「……嫌だ。」
ぽつりと、言葉が漏れる。
「死にたくない。」
「ツバキを……連れていかせたくない。」
窓の外を見る。
雨はまだ降っている。
暗い森。
その先。
誰も知らない世界が、どこかにあるのだろうか。
その時だった。
ツバキが、眠そうな声で言った。
「……お姉ちゃん。」
「うん?」
「明日。」
「森に行こう?」
「森?」
「うん。」
「お腹空いた……。」
私は、思わず笑ってしまった。
「……そうだね。」
「何か、見つかるかもしれない。」
そして。
この小さな約束が。
二人の運命を、大きく変えることになる。
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