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第一話 首輪の里

ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。

機兵、遺跡、秘密基地。好きなものを全部詰め込みました。

 冷たい雨が降っていた。


灰色の空。


竜人族の住む高い山々は雲に隠れ、その麓にある小さな村もまた、どこか沈んで見える。


私――サクラは、妹のツバキの手を握った。


「……お姉ちゃん。」


「うん。」


「お腹、空いた。」


小さな声だった。


昨日から何も食べていない。


いや、その前も大したものは食べていない。


干からびた木の実。


少し苦い草。


それだけ。


私は、自分のお腹をさすった。


ぐぅ、と情けない音が鳴る。


「……大丈夫。」


「お姉ちゃんだから。」


そう言うと、ツバキは少しだけ笑った。


私も笑い返す。


……本当は全然大丈夫じゃない。


お腹は空いているし、怖いし、寒い。


でもお姉ちゃんだから。


そうやって自分に言い聞かせる事しかできなかった。



 私たちエルフは、弱かった。


……いや。


正しくは、弱くされていた。


エルフは、高い生命力を持つ種族だ。


その生命力を代価に、精霊という事象そのものを呼び出し、奇跡を起こすことができる。


火。


風。


水。


土。


本来なら、精霊たちは私たちの手足となってくれる。


けれど。


私は首元に触れる。


カチャリ。


冷たい鉄の感触。


首輪の中央には、小さな赤い宝石が埋め込まれている。


嫌いな音だった。


嫌いな色だった。


この首輪を付けていると、精霊術はうまく使えない。


生命力を魔力へ変換する流れが、どこかで引っ掛かる。


少しなら使える。


でも、本来の力は出せてないのがわかる。


大きな精霊を呼ぼうとすると、先に自分の身体の方が悲鳴を上げる。


だから。逆らえない。


だから。逃げられない。


だから。支配される。



「サクラ。」


後ろから声がした。


村の長老だ。


彼もまた、古びた首輪をつけている。


「……なんですか?」


「村長がお呼びだ。」


その顔は暗かった。


嫌な予感がした。


私はツバキの手を強く握る。


「お姉ちゃん……?」


「……行こう。」



村の中央。


粗末な木の小屋。


そこには数人のエルフが集まっていた。


みんな俯いている。


そして。そこには。


二人の竜人がいた。


高い背丈。


白い鱗。


額から伸びる角。


その金色の瞳が、こちらを見下ろしている。


私は反射的にツバキを背中へ隠した。


「……ほう。」


竜人が笑う。


「これが今回のか。」


「はい……。」


村長が頭を下げる。


その言葉に、周囲の空気が凍った。


私は知っている。


この言葉の意味を。


定期的に。


誰かが。


いなくなる。


戻ってきた者はいない。


どうなったのかも、知らない。


聞いてはいけない。


そういう空気が、この村にはあった。


「サクラ……と、ツバキです。」


「ふむ。」


竜人は私たちを品定めするように見た。


その視線に、背筋が寒くなる。


「悪くない。」


「まだ若い。」


「アンブロシアも十分育つだろう。」


……アンブロシア?


何を言っているのか、分からない。


でも。


その言葉に、大人たちの顔色が変わった。


村長は、目を伏せる。


「では。」


「三日後に迎えに来る。」


それだけ言って、竜人たちは立ち去っていった。



静かだった。


誰も何も言わない。


そして。


「……ごめんなさい。」


村長が、頭を下げた。


「……え?」


「私たちには……どうすることもできない。」


ツバキが、私の服を掴む。


「お姉ちゃん……?」


「なに……?」


村長の声は震えていた。


「三日後……お前たちは、里を出ることになる。」


頭が真っ白になった。


「……いや。」


「いや……。」


「なんで……?」


「なんで私たちなの……?」


答えは返ってこない。


誰も、目を合わせてくれない。


ただ。


静かな雨の音だけが聞こえていた。



その夜。


私は眠れなかった。


隣ではツバキが、小さく寝息を立てている。


私は、その頭をそっと撫でた。


「……嫌だ。」


ぽつりと、言葉が漏れる。


「死にたくない。」


「ツバキを……連れていかせたくない。」


窓の外を見る。


雨はまだ降っている。


暗い森。


その先。


誰も知らない世界が、どこかにあるのだろうか。


その時だった。


ツバキが、眠そうな声で言った。


「……お姉ちゃん。」


「うん?」


「明日。」


「森に行こう?」


「森?」


「うん。」


「お腹空いた……。」


私は、思わず笑ってしまった。


「……そうだね。」


「何か、見つかるかもしれない。」


そして。


この小さな約束が。


二人の運命を、大きく変えることになる。



読んでいただきありがとうございます。

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