第二十二話 文字
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。好きなものを全部詰め込みました。
バルドの砦。
その一角。
辺境伯自ら用意した豪華な客室。
広い部屋の中には、穏やかな寝息だけが響いていた。
「……」
ベッドの上。
眠るリア。
銀の髪飾りを付けた栗色の髪。
シルフィネの中で気を失って以来、まだ目を覚まさない。
『リア様の容態は安定しています』
『問題ありません』
「そうか」
レンは小さく頷く。
ベッドの傍らで椅子に腰掛けたまま俯いた。
「……やっぱり」
「戦場に連れて行ったのは失敗だったかな」
「……」
「悪かったな」
レンはリアが
少しでも経験を積めばいいと思っていたが
本来こんな面倒な事はしない。
何故リアがずっと一緒なのか
自分でも分からない。
本来ならもう別々に活動してても不思議ではない。
(まぁ俺も、推しに似てる時点でほっとけないんだよなぁ……)
◇
「お前がそんな顔するとはな」
バルドが苦笑した。
「生きて帰ってきたんだ」
「上出来だろ」
レオンも頷く。
「リアも無事だ」
「結果だけ見ればな」
「……」
「まぁそうだな」
レンは苦笑した。
「それより」
「今から言うことは」
「三人だけの秘密にしてくれ」
レンが、声のトーンを下げていった。
「なんだ?」
「俺たちは新人連合の連中と意思の疎通ができない」
「ああ」
「常識だな」
「でも考えてみろ」
「奴らの服」
「鎧」
「装飾」
「……」
「和だな」
「和だな」
レオンとバルドが同時に答える。
「そう」
「和なんだ」
「東方文化」
「俺たちの知る日本やアジア圏文化に近い」
「そして」
レンは小さく息を吐いた。
「奴らの公用語は」
「おそらく日本語だ」
「!?」
「!?」
二人の表情が固まる。
「何故そんなことが分かる!」
「居るんだよ」
「知り合いが」
「エルフのプレイヤーが二人」
「……は?」
「なんでそんな大事なこと黙ってた!」
バルドが食いつく。
「使いどころが難しい」
「下手すりゃ」
「患者扱いで」
「国賊となる」
「それは……」
レオンも納得した。
◇
「だが」
「何故今なんだ?」
「日本語を使うとしても」
「結局」
「意思疎通できるのはプレイヤーだけだろ?」
「ああ。そうだな」
「俺の知ってる四人だけ……」
「いや」
「六人か」
「?」
「まぁ」
「細かい話だ」
「それより」
レンは二人を見る。
「知ったら」
「今みたいに戦えるか?」
「お前ら国の中枢だぞ」
「意志が少しでも揺らぐとまずい立場にあるのは自覚あるな?」
「……」
「……」
二人は黙る。
「相手にプレイヤーが居ても」
「やらなきゃ」
「やられるだけだ」
「そうだな」
レオンは静かに答えた。
◇
「そのエルフとは」
「どう知り合った?」
「まぁ」
「たまたまだ」
「四年前かな」
「この世界に来て一年目」
「お互い弱くて」
「死にたくなくて」
「ある日」
「エルフが壁に文字を書いた」
「書いた?」
「……!」
レオンが目を見開く。
「そうか!」
「文字か!」
「ああ」
「言葉は全然分からない」
「でも」
「文字は分かる」
「俺たちなら」
「通じ合えた」
「ということか」
バルドは呆れた。
「なんだそれ」
「単純だな」
「そうでもない」
レンは首を横に振る。
「戦いの最中」
「防御を捨てて」
「相手に通じるかも分からない文字を書く」
「自殺行為だろ」
「……」
「確かにな」
「死ぬな」
レオンが小さく呟く。
◇
「まぁ」
「そういう経緯で」
「向こうの事情も多少は知ってる」
「協力できる所はしたい」
「そうだな」
「敵意が無いなら」
「戦う理由もない」
「ただ」
「今は戦時中だ」
「この情報は」
「まだ出すべきじゃない」
「賛成だ」
「今はまだな」
三人の意見は一致した。
◇
「それはそうと」
バルドが笑う。
「陛下がお前に会いたいそうだ」
「そうか」
「リアの回復を待って行くか?」
レンは眠るリアを見る。
「そうだな」
穏やかな寝顔を見て答える。
「しばらく」
「このままで居たい」
「そうか」
「なら」
「ゆっくりしていけ」
バルドは立ち上がった。
「おう」
「酒でも飲んでくる」
「俺も付き合う」
レオンも部屋を出ていく。
◇
静かになった部屋。
レンは眠るリアの手を優しく握った。
「……」
「無茶するなって言ったのにな」
『マスター』
「ん?」
『リア様の脳波が安定しました』
『もうすぐ目を覚まされると思われます』
「そうか」
レンは安堵の息を漏らした。
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