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第二話 名前のない少年

ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。


機兵、遺跡、秘密基地。


好きなものを全部詰め込みました。

 翌朝。


 リアは目を覚ました。


 一瞬。


 自分がどこにいるのか分からなかった。


 柔らかいベッド。


 暖かい毛布。


 雨漏りしない天井。


 静かな朝。


 スラムには無かったものばかりだ。


 数秒後。


 昨日の出来事を思い出した。


 奴隷商。


 詐欺依頼。


 黒い騎士。


 そして森の家。


「夢じゃないのね……」


 小さく呟く。


 部屋を出る。


 

 すると、レンがテーブルに突っ伏していた。


「何してるんですか」


「考え事」


 声が死んでいた。


 机の上には銅貨が数枚。


 それだけだった。


「……お金無いんですか?」


「無い」


 即答だった。


 リアは呆れた。


 あれだけ凄い家に住んでいて。


 結界まで作れて。


 機兵の部品まで集めている。


 なのに。


 金が無い。


「何に使ったんですか」


「部品」


 予想通りだった。


 レンは遠い目をする。


「あと工具」


「はい」


「あと素材」


「はい」


「あと機兵」


「はい」


「あと研究」


「はい」


 リアは理解した。


 この人。


 使うだけ使っている。他人事とはいえ、頭を抱えたくなる。



 台所の方から物音が聞こえた。


 振り向く。


 昨日の少年だった。


 何やら必死に動いている。


「何してるんだ?」


 レンが聞く。


 少年は慌てて振り返った。


「その……」


 少し躊躇う。


 それから頭を下げた。


「お礼です」


 リアは首を傾げた。


「お礼?」


「助けてもらったので」


 少年はそう言った。


 レンは少し困った顔になる。


「別にいいぞ」


「よくないです」


 即答だった。


 リアは少し驚く。


 昨日まで死にかけていた子供とは思えない。


 少年は続けた。


「僕、これくらいしか出来ないので」


 そう言って。


 鍋を持ち上げる。


 野菜スープだった。


 香草の匂いがする。


 昨日の焼いただけの肉とは違う。


 まともな料理だ。


 レンも匂いを嗅ぐ。


「おお」


 少し感動している。


「美味そう」


「はい」


 少年は少し嬉しそうだった。


 食卓へ並べられる。


 スープ。


 焼いたパン。


 少しだけ残っていた野菜。


 豪華ではない。


 だが。


 温かい食事だった。


 リアは一口飲む。


「美味しい」


 思わず呟く。


 少年は照れた。


 レンも飲む。


 そして。


 固まった。


「美味い」


 本気だった。


「どうやったんだ?」


「普通に作りました」


「天才か?」


「違います」


 リアも頷く。


「普通です」


 レンは少しショックを受けていた。


 少年は小さく笑う。


 その顔は昨日よりずっと明るかった。


 食事が終わる。


 レンがふと思い出したように言う。


「そういえば名前聞いてなかったな」


 少年が顔を上げる。


 少しだけ。


 表情が曇った。


「名前……」


 小さく呟く。


「忘れたのか?」


「違います」


 少年は首を振った。


 そして言った。


「売られてから呼ばれてないんです」


 静かな声だった。


 リアも黙る。


 奴隷では珍しくない。


 名前を奪われる。


 人として扱われなくなる。


 そういう事は。


 この世界ではよくある。


 レンも少し黙った。


 それから。


「本名は?」


「カイルです」


 少年は答えた。


「カイルか」


 レンは頷く。


「良い名前だな」


 カイルは少しだけ驚いた顔をした。


 そんな事を言われたのは久しぶりだった。



 食後、リアは畑を見に行った。


 家の裏。


 広くはない。


 だが確かに畑だ。


 レンも後ろから来る。


「どうだ」


 少し誇らしげだった。


 リアは畑を見る。


 雑草。


 雑草。


 雑草。


 そして小さい野菜。


「……」


「どうだ」


「頑張ったんですね」


「褒めてるか?」


「褒めてます」


 褒めるしかなかった。


 レンは腕を組む。


「今年こそ豊作だと思うんだ」


「何故だか、去年も同じこといってるような気がする・・」


「言った」


 リアは笑いそうになった。


 すると。


 畑の端でカイルがしゃがみ込む。


 土を見る。


 野菜を見る。


 雑草を見る。


 しばらくして。


「レンさん」


「ん?」


「これ、手入れしていいですか?」


 レンは少し驚いた顔をした。


「出来るのか?」


「少しだけ」


 カイルは答える。


「スラムで少し教わりました」


 レンは頷く。


「好きに使え」


「ありがとうございます」


 カイルは本当に嬉しそうだった。


 リアはその様子を見ながら思う。


 昨日まで奴隷だった子供が。


 今は畑を触っている。


 不思議な光景だった。


 そして。


 少しだけ。


 羨ましくもあった。


 この家には何かがある。


 豪華ではない。


 金も無い。


 変な発明ばかり。


 住人も変だ。


 けれど。


 不思議と落ち着く。


 リアは空を見上げる。


 しばらくなら。


 ここにいてもいいかもしれない。


 そんな事を思ってしまった。


 だからきっと。


 もう手遅れだった。

読んでいただきありがとうございます。


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