第二話 名前のない少年
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
翌朝。
リアは目を覚ました。
一瞬。
自分がどこにいるのか分からなかった。
柔らかいベッド。
暖かい毛布。
雨漏りしない天井。
静かな朝。
スラムには無かったものばかりだ。
数秒後。
昨日の出来事を思い出した。
奴隷商。
詐欺依頼。
黒い騎士。
そして森の家。
「夢じゃないのね……」
小さく呟く。
部屋を出る。
◇
すると、レンがテーブルに突っ伏していた。
「何してるんですか」
「考え事」
声が死んでいた。
机の上には銅貨が数枚。
それだけだった。
「……お金無いんですか?」
「無い」
即答だった。
リアは呆れた。
あれだけ凄い家に住んでいて。
結界まで作れて。
機兵の部品まで集めている。
なのに。
金が無い。
「何に使ったんですか」
「部品」
予想通りだった。
レンは遠い目をする。
「あと工具」
「はい」
「あと素材」
「はい」
「あと機兵」
「はい」
「あと研究」
「はい」
リアは理解した。
この人。
使うだけ使っている。他人事とはいえ、頭を抱えたくなる。
◇
台所の方から物音が聞こえた。
振り向く。
昨日の少年だった。
何やら必死に動いている。
「何してるんだ?」
レンが聞く。
少年は慌てて振り返った。
「その……」
少し躊躇う。
それから頭を下げた。
「お礼です」
リアは首を傾げた。
「お礼?」
「助けてもらったので」
少年はそう言った。
レンは少し困った顔になる。
「別にいいぞ」
「よくないです」
即答だった。
リアは少し驚く。
昨日まで死にかけていた子供とは思えない。
少年は続けた。
「僕、これくらいしか出来ないので」
そう言って。
鍋を持ち上げる。
野菜スープだった。
香草の匂いがする。
昨日の焼いただけの肉とは違う。
まともな料理だ。
レンも匂いを嗅ぐ。
「おお」
少し感動している。
「美味そう」
「はい」
少年は少し嬉しそうだった。
食卓へ並べられる。
スープ。
焼いたパン。
少しだけ残っていた野菜。
豪華ではない。
だが。
温かい食事だった。
リアは一口飲む。
「美味しい」
思わず呟く。
少年は照れた。
レンも飲む。
そして。
固まった。
「美味い」
本気だった。
「どうやったんだ?」
「普通に作りました」
「天才か?」
「違います」
リアも頷く。
「普通です」
レンは少しショックを受けていた。
少年は小さく笑う。
その顔は昨日よりずっと明るかった。
食事が終わる。
レンがふと思い出したように言う。
「そういえば名前聞いてなかったな」
少年が顔を上げる。
少しだけ。
表情が曇った。
「名前……」
小さく呟く。
「忘れたのか?」
「違います」
少年は首を振った。
そして言った。
「売られてから呼ばれてないんです」
静かな声だった。
リアも黙る。
奴隷では珍しくない。
名前を奪われる。
人として扱われなくなる。
そういう事は。
この世界ではよくある。
レンも少し黙った。
それから。
「本名は?」
「カイルです」
少年は答えた。
「カイルか」
レンは頷く。
「良い名前だな」
カイルは少しだけ驚いた顔をした。
そんな事を言われたのは久しぶりだった。
◇
食後、リアは畑を見に行った。
家の裏。
広くはない。
だが確かに畑だ。
レンも後ろから来る。
「どうだ」
少し誇らしげだった。
リアは畑を見る。
雑草。
雑草。
雑草。
そして小さい野菜。
「……」
「どうだ」
「頑張ったんですね」
「褒めてるか?」
「褒めてます」
褒めるしかなかった。
レンは腕を組む。
「今年こそ豊作だと思うんだ」
「何故だか、去年も同じこといってるような気がする・・」
「言った」
リアは笑いそうになった。
すると。
畑の端でカイルがしゃがみ込む。
土を見る。
野菜を見る。
雑草を見る。
しばらくして。
「レンさん」
「ん?」
「これ、手入れしていいですか?」
レンは少し驚いた顔をした。
「出来るのか?」
「少しだけ」
カイルは答える。
「スラムで少し教わりました」
レンは頷く。
「好きに使え」
「ありがとうございます」
カイルは本当に嬉しそうだった。
リアはその様子を見ながら思う。
昨日まで奴隷だった子供が。
今は畑を触っている。
不思議な光景だった。
そして。
少しだけ。
羨ましくもあった。
この家には何かがある。
豪華ではない。
金も無い。
変な発明ばかり。
住人も変だ。
けれど。
不思議と落ち着く。
リアは空を見上げる。
しばらくなら。
ここにいてもいいかもしれない。
そんな事を思ってしまった。
だからきっと。
もう手遅れだった。
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