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第一話 森のおっさんの家

ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。


機兵、遺跡、秘密基地。


好きなものを全部詰め込みました。

『エターナル』


レンが青春を捧げたMMORPG。


最強にも英雄にも興味はなかった。興味はロボに乗れること。


欲しかったのは安全。そして男のロマンだった。


その思想が彼の「結界師」としての道の決め手となる。


まさか、その夢の続きを異世界で始めることになるとは思わなかったが。



 夕暮れの森を、リアは無言で歩いていた。


 前を行くのはレン。


 その後ろには壊れた機兵。


 さらに荷物。


 そしてリア。


 何とも奇妙な一行だった。


 つい数時間前まで奴隷商に売られそうになっていたとは思えない。


 だが現実だった。


 リアは前を歩く男を見る。


 冴えない。


 本当に冴えない。


 髪は適当。


 服も地味。


 どこにでもいそうなおっさん。


 なのに。


 あの黒い騎士を従えていた。


「……」


 聞きたい事は山ほどある。


 だが何から聞けばいいのか分からない。


 その時。


 レンが機兵の残骸を見て少し嬉しそうに言った。


「関節残ってるな」


「それ、どうするんですか?」


「売る」


 リアは少し安心した。


 そうだろう。


 あれだけの機兵だ。


 売れば大金になる。


 今回の事件の報酬代わりになるはずだ。


 しかし。


 レンは続けた。


「部品だけ取ってから」


 安心を返してほしい。


 リアは本気でそう思った。


 しばらく歩く。


 するとレンが足を止めた。


「先に言っとく」


「はい?」


 珍しく真面目な声だった。


 レンは振り返る。


「今日の件」


「……」


「街では魔獣に襲われた事にする」


 リアは瞬きをした。


「え?」


「依頼は詐欺だった」


「はい」


「俺達は逃げた」


「はい」


「それで終わり」


 リアはすぐに理解した。


 黒い騎士。


 あれを隠したいのだ。


「じゃあ、あの黒い――」


「知らない」


 即答だった。


「いや」


「知らない」


「でも」


「知らない」


 リアは呆れた。


 レンは本気で押し通す気らしい。


「機兵が壊れた理由も知らない」


「知ってますよね」


「知らない」


「知ってますよね」


 レンは視線を逸らした。


 分かりやすかった。


 リアはため息を吐く。


 するとレンが少しだけ真面目な顔になった。


「リア」


「はい」


「俺は貴族も騎士団も信用してない」


 リアは少し驚いた。


 レンは続ける。


「魔核機なんて知られたら面倒だ」


「……」


「俺は面倒が嫌いなんだよ」


 それが本音なのだろう。


 リアにも何となく分かった。


 もしあの力が知られたら。


 王国も。


 貴族も。


 騎士団も。


 放ってはおかない。


「分かりました」


「助かる」


 レンは本当にほっとした顔をした。


 そして。


 森の奥へ進む。



 やがて。


 木々が途切れた。


 開けた場所が見える。


「え?」


 リアは思わず足を止めた。


 家だ。


 森の中に家がある。


 二階建て。


 畑付き。


 井戸付き。


 物置付き。


 煙突付き。


 冒険者の小屋などではない。


 普通の家だった。


「ただいま」


 レンが言う。


 その瞬間。


 家の周囲を光が走った。


 パァァァッ。


 淡い光の壁。


 一瞬だけ現れ。


 すぐに消える。


「今の何ですか」


「結界」


「結界?」


「防犯用」


 軽い。


 あまりにも軽い。


「魔獣来るし」


 リアは何も言えなかった。



 その時。


 玄関が開く。


 リアは反射的に腰の剣へ手を伸ばした。


 少年がいた。


 痩せている。


 顔色も悪い。


 見覚えがない。


 だが。


 こちらを見る目は怯えていた。


「お、おかえりなさい……」


 リアはレンを見る。


「誰ですか?」


「ああ」


 レンは平然としていた。


「昨日買った」


「は?」


「奴隷商から」


 リアは固まった。


 数秒。


 頭が追いつかない。


 そして。


 思い出した。


 荷車。


 死にそうな少年。


 昨日広場で見た光景。


「あ……」


 少年が深く頭を下げる。


「助けていただいてありがとうございました」


 リアはようやく理解した。


 あの時の少年だったのだ。


 レンは興味なさそうに手を振る。


「無理するなよ」


「はい」


「死ぬなよ」


「はい」


 本当にそれだけだった。


 リアは改めて思う。


 この人は何なんだろう。


 家へ入る。



 そしてまた固まった。

 

「明るい……」


 外は夕方だった。


 なのに家の中は昼間みたいに明るい。


 壁のランタンが光っている。


 油も無い。


 火も無い。


「光固定」


 レンが当然のように説明した。


 意味が分からない。


 暖炉を見る。


 薪が無い。


 なのに燃えている。


「火固定」


 意味が分からない。


 地下へ連れて行かれる。


 扉を開く。


 冷気が流れ出た。


「うわっ」


「氷室」


 中は寒い。


 だが。


 何も無い。


 空だった。


「空ですけど」


「金が無い」


 真顔だった。


「何で作ったんですか」


「いつか使う」


 リアは理解を諦めた。


 さらに井戸。


 風呂。


 温度固定。


 全部おかしい。


 全部便利。


 全部意味が分からない。


 夕食の時間になった。


 リアは少し期待した。


 家は凄い。


 設備も凄い。


 だから料理も凄いはずだ。


 そう思った。


 レンは肉を持ってきた。


 焼いた。


 終わった。


「終わりですか?」


「終わりだが」


「味付けは?」


「塩」


 リアは固まる。


 少年も固まる。


 レンだけが満足そうだった。


「美味いぞ」


 その顔は本気だった。


 夜。


 リアは客室のベッドに寝転がる。


 柔らかい。


 暖かい。


 静かだ。


 誰も怒鳴らない。


 誰も奪わない。


 誰も利用しない。


 窓の外。


 森が揺れている。


 結界の光がかすかに見えた。


「変な人……」


 小さく呟く。


 だが。


 少しだけ思った。


 この場所は。


 悪くないかもしれない。


 そんな気がした。

【エターナルWiki No.001】


■一般機兵「パワード」


冒険者や傭兵が使用する汎用機兵。


安価で整備性に優れ、最も普及している機兵の一つ。


初心者でも扱いやすい。


■ネスト


所有者:レン


詳細不明。


黒銀の機体。


一般機兵とは明らかに異なる性能を持つ。


※一般的な機兵ではないと考えられている。


読んでいただきありがとうございます。


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