第一話 森のおっさんの家
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
『エターナル』
レンが青春を捧げたMMORPG。
最強にも英雄にも興味はなかった。興味はロボに乗れること。
欲しかったのは安全。そして男のロマンだった。
その思想が彼の「結界師」としての道の決め手となる。
まさか、その夢の続きを異世界で始めることになるとは思わなかったが。
◇
夕暮れの森を、リアは無言で歩いていた。
前を行くのはレン。
その後ろには壊れた機兵。
さらに荷物。
そしてリア。
何とも奇妙な一行だった。
つい数時間前まで奴隷商に売られそうになっていたとは思えない。
だが現実だった。
リアは前を歩く男を見る。
冴えない。
本当に冴えない。
髪は適当。
服も地味。
どこにでもいそうなおっさん。
なのに。
あの黒い騎士を従えていた。
「……」
聞きたい事は山ほどある。
だが何から聞けばいいのか分からない。
その時。
レンが機兵の残骸を見て少し嬉しそうに言った。
「関節残ってるな」
「それ、どうするんですか?」
「売る」
リアは少し安心した。
そうだろう。
あれだけの機兵だ。
売れば大金になる。
今回の事件の報酬代わりになるはずだ。
しかし。
レンは続けた。
「部品だけ取ってから」
安心を返してほしい。
リアは本気でそう思った。
しばらく歩く。
するとレンが足を止めた。
「先に言っとく」
「はい?」
珍しく真面目な声だった。
レンは振り返る。
「今日の件」
「……」
「街では魔獣に襲われた事にする」
リアは瞬きをした。
「え?」
「依頼は詐欺だった」
「はい」
「俺達は逃げた」
「はい」
「それで終わり」
リアはすぐに理解した。
黒い騎士。
あれを隠したいのだ。
「じゃあ、あの黒い――」
「知らない」
即答だった。
「いや」
「知らない」
「でも」
「知らない」
リアは呆れた。
レンは本気で押し通す気らしい。
「機兵が壊れた理由も知らない」
「知ってますよね」
「知らない」
「知ってますよね」
レンは視線を逸らした。
分かりやすかった。
リアはため息を吐く。
するとレンが少しだけ真面目な顔になった。
「リア」
「はい」
「俺は貴族も騎士団も信用してない」
リアは少し驚いた。
レンは続ける。
「魔核機なんて知られたら面倒だ」
「……」
「俺は面倒が嫌いなんだよ」
それが本音なのだろう。
リアにも何となく分かった。
もしあの力が知られたら。
王国も。
貴族も。
騎士団も。
放ってはおかない。
「分かりました」
「助かる」
レンは本当にほっとした顔をした。
そして。
森の奥へ進む。
◇
やがて。
木々が途切れた。
開けた場所が見える。
「え?」
リアは思わず足を止めた。
家だ。
森の中に家がある。
二階建て。
畑付き。
井戸付き。
物置付き。
煙突付き。
冒険者の小屋などではない。
普通の家だった。
「ただいま」
レンが言う。
その瞬間。
家の周囲を光が走った。
パァァァッ。
淡い光の壁。
一瞬だけ現れ。
すぐに消える。
「今の何ですか」
「結界」
「結界?」
「防犯用」
軽い。
あまりにも軽い。
「魔獣来るし」
リアは何も言えなかった。
◇
その時。
玄関が開く。
リアは反射的に腰の剣へ手を伸ばした。
少年がいた。
痩せている。
顔色も悪い。
見覚えがない。
だが。
こちらを見る目は怯えていた。
「お、おかえりなさい……」
リアはレンを見る。
「誰ですか?」
「ああ」
レンは平然としていた。
「昨日買った」
「は?」
「奴隷商から」
リアは固まった。
数秒。
頭が追いつかない。
そして。
思い出した。
荷車。
死にそうな少年。
昨日広場で見た光景。
「あ……」
少年が深く頭を下げる。
「助けていただいてありがとうございました」
リアはようやく理解した。
あの時の少年だったのだ。
レンは興味なさそうに手を振る。
「無理するなよ」
「はい」
「死ぬなよ」
「はい」
本当にそれだけだった。
リアは改めて思う。
この人は何なんだろう。
家へ入る。
◇
そしてまた固まった。
「明るい……」
外は夕方だった。
なのに家の中は昼間みたいに明るい。
壁のランタンが光っている。
油も無い。
火も無い。
「光固定」
レンが当然のように説明した。
意味が分からない。
暖炉を見る。
薪が無い。
なのに燃えている。
「火固定」
意味が分からない。
地下へ連れて行かれる。
扉を開く。
冷気が流れ出た。
「うわっ」
「氷室」
中は寒い。
だが。
何も無い。
空だった。
「空ですけど」
「金が無い」
真顔だった。
「何で作ったんですか」
「いつか使う」
リアは理解を諦めた。
さらに井戸。
風呂。
温度固定。
全部おかしい。
全部便利。
全部意味が分からない。
夕食の時間になった。
リアは少し期待した。
家は凄い。
設備も凄い。
だから料理も凄いはずだ。
そう思った。
レンは肉を持ってきた。
焼いた。
終わった。
「終わりですか?」
「終わりだが」
「味付けは?」
「塩」
リアは固まる。
少年も固まる。
レンだけが満足そうだった。
「美味いぞ」
その顔は本気だった。
夜。
リアは客室のベッドに寝転がる。
柔らかい。
暖かい。
静かだ。
誰も怒鳴らない。
誰も奪わない。
誰も利用しない。
窓の外。
森が揺れている。
結界の光がかすかに見えた。
「変な人……」
小さく呟く。
だが。
少しだけ思った。
この場所は。
悪くないかもしれない。
そんな気がした。
【エターナルWiki No.001】
■一般機兵「パワード」
冒険者や傭兵が使用する汎用機兵。
安価で整備性に優れ、最も普及している機兵の一つ。
初心者でも扱いやすい。
■ネスト
所有者:レン
詳細不明。
黒銀の機体。
一般機兵とは明らかに異なる性能を持つ。
※一般的な機兵ではないと考えられている。
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