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第三話 旧式の機体

ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。

機兵、遺跡、秘密基地。

好きなものを全部詰め込みました。

森の家の工房。


「よいしょっと……」


レンが巨大な布を引っ張る。


長い年月を被っていた埃が舞い上がった。


ガタガタ。


ギギギ。


そして。


工房の隅から現れたのは。


丸い。


黒い。


重そう。


とにかく丸い。


「久しぶりだなぁ」


レンが見上げる。


ブラックパワード改。


かつて戦場で使われていた旧式機兵。


それをレン自身が自分用に改造した機体。


通称。


ペンギン。


もちろん、この世界にペンギンなどという生き物はいない。


レンの記憶にしか存在しない。


今では古い文献に残る幻獣の名前だ。


「よし」


装甲を叩く。


「まだ動くな」


『マスター』


「ん?」


『本当にこれを使うのですか?』


空中に浮かぶノアの声には、珍しく不満が混じっていた。


「使うぞ」


『嫌です』


「即答だな」


『私の方が強いです』


「そうだな」


『私の方が格好いいです』


「そうだな」


『私の方が可愛いです』


「そうだな」


『では何故これなのです』


ノアがじっと機体を見る。


『古いです』


「そうだな」


『重いです』


「そうだな」


『野暮ったいです』


「そうだな」


『丸いです』


「そこがいい」


『理解できません』


レンは笑う。


「クラシックってやつだ」


『理解できません』


「昔の趣味だ」


『理解できません』


「だろうな」


レンは工具箱を開いた。


「昔から好きなんだよ」


「こういうの」


『私の方が強いです』


「そうだな」


『私の方が便利です』


「そうだな」


『私の方がマスターのお役に立てます』


「そうだな」


『では何故です』


レンは少し考えた。


「祭りだからな」


『意味が分かりません』


「昔の相棒に乗りたくなる時もある」


『理解できません』


その時。


工房の扉が開いた。


「レンさん?」


リアだった。


「朝食ができました……あ」


リアの視線が止まる。


「……可愛いです」


「だろ?」


『どこがです!?』


ノアが叫んだ。


「ぷくぷくしてます」


「そうなんだよ」


「なんだか優しそうです」


「わかる」


『全く分かりません!』


「丸くて可愛いです」


「そうだよなぁ」


『私の方が可愛いです!』


「ノア?」


『はい!』


「嫉妬か?」


『違います!』


「拗ねた?」


『違います!』


「姉失格?」


『違います!』


ノアはぷくーっと膨れた。


『私がネストです!』


「そうだな」


『私です!』


「そうだな」


『ネストは私です!』


「そうだな」


『私の方が格好いいです!』


「そうだな」


『私の方が可愛いです!』


「そうだな」


『なのに……』


ノアはペンギンを見上げる。


『何故こんな丸い鉄の塊を……』


「昔から好きなんだよ」


レンは装甲を撫でた。


傷だらけ。


塗装も剥げている。


古い。


とても古い。


だが。


「俺が改造した初めての機体だからな」


「金もなかったし」


「中古を拾ってきて」


「ちまちま直して」


「何回も壊して」


「何回も直した」


「結局、一番長く付き合った」


『……』


「相棒みたいなもんだ」


リアは微笑む。


「きっと喜んでます」


『機械に感情はありません』


「そうか?」


『ありません』


「でも」


リアは優しく機体を見上げた。


「ペンギンさん、嬉しそうです」


『だからペンギンとは何ですか!』


「幻獣だ」


『幻獣』


「昔いた鳥」


『鳥』


「飛べない」


『鳥なのに』


「歩く」


『不便です』


「可愛い」


『理解できません』


「海で泳ぐ」


『ますます理解できません』


レンは笑った。


「俺もそう思う」


「なんでそんな生き物がいるんだろうな」


そして。


工房の奥。


何年も忘れ去られていた旧式の機体。


誰も見向きもしなかった。


レン以外。


「さて」


レンは工具を手に取る。


「久々に整備するか」


『私は反対です』


「知ってる」


『ネストを使いましょう』


「目立つ」


『シルフィネを』


レンはちらりとリアを見る。


「……リアが嫌がるからなぁ」


「え?」


「いや、なんでもない」


『ではユグドランを』


「ない」


『ウィルオーウィスプを』


「ない」


『……』


沈黙。


そして。


『やはり私です』


「そうだな」


『私を使いましょう』


「それは最後だ」


『むぅ』


レンは笑った。


「たまには昔の相棒にも活躍させてやらないとな。」


工房の窓から朝日が差し込む。


その光を浴びて。


幻獣の名を持つ古びた機体は。


どこか誇らしげに見えた。



読んでいただきありがとうございます。

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