第三十話 それぞれの未来
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
三人が旅立ってから数日。
森の家は少しだけ静かになった。
席が三つ空いただけ。
それだけのはずなのに、どこか広く感じる。
「急に寂しくなりました……」
朝食の席でリアがぽつりと呟いた。
隣ではノアが浮いて紅茶を注いでいる。
『リア様。元気ないですね』
「なんですか?」
『3人には会おうと思えば,いつでも会えます。』
「そういう問題じゃないんです」
少し頬を膨らませる。
レオは剣を磨き。
ルウは本を読み。
トトは工具を弄っている。
レンはそんな様子を見ながら静かに紅茶を飲んでいた。
この三人ももうすぐ旅立つ。
そう思うと少しだけ感慨深い。
◇
昼過ぎ。
結界の向こうから二つの人影が現れた。
「リアちゃん久しぶり」
「ミストさん!」
ひらひらと手を振るミスト。
その後ろにはレオン。
森の家へ入るなりミストは椅子へ腰掛けた。
「レン調子はどうだ」
「なんだ急に。気持ち悪いな…」
「お前じゃない。」
「……リアだ。」
レオンが小声で言う。
戦闘の後の消耗をじかに見ているので気にしているらしい。
確かにあの時のリアは異常だった。
「まぁ、気が抜けたのか時々眠そうにしている位だ。」
「そうか…」
レオンは肩を肩をおろした。
ミストは横でリアと談笑している。
「レン」
ミストが話しかけてきた。
「…じゃあエナドリ」
「図々しいな」
「コホン」
レオンが咳払いをする。
全員が振り向いた。
「……俺も頼む」
一瞬静まり返る。
ミストが吹き出した。
「便乗した」
「お前らそこは普通お茶とかだろ…」
リアが思わず笑った。
その横でルウが冷蔵箱を開く。
「あ」
取り出したのは見慣れない瓶だった。
鮮やかな桃色。
「新しいのがありますよ」
ミストが受け取る。
レオンも覗き込む。
ラベルを見て二人が固まる。
「だからなんでそんなに再現度高いの?」
レオンも頷いた。
「名前も色も危険だろう」
ラベルには大きく書かれていた。
――三本の傷。
レンが少しだけ口元を上げた。
「そうか?」
「何を普段から吹き込んでいるのやら…」
二人とも、呆れた表情だった。
「何なんですか?その飲み物。」
リアが首を傾げる。
ミストとレオンは顔を見合わせた。
「青春だ」
「青春だな」
「???」
リアには最後まで分からなかった。
◇
短い談笑も終わり一息ついてレンが立ち上がる。
「三人とも」
「出ていく前にお前たちにも餞別だ。」
レオ達が顔を上げた。
「ついて来い。」
一同はレンの後を追う。
森の奥、木々を抜け格納庫へ向かう。
巨大な岩壁へ辿り着いた。
レンが壁へ手を触れる。
次の瞬間。
岩壁が左右へ開いた。
「毎回思うけど」
ミストが呟く。
「男の子ってこういうの好きだよね」
「……」
レオンはこの施設に無言で呆れている。
格納庫中央。
一機の魔核機が静かに立っていた。
黒い機体に赤い発光ライン。
鋭く細身のシルエット。
「ウィルオーウィスプ」
レオが息を呑む。
「俺の……ですか?」
「お前のだ」
その機体の意匠は火を連想させる。
レオンが機体へ近付く。
色々な角度から細部まで確認する。
そして深いため息。
「レンお前は甘やかし過ぎだ」
「そうか?」
「加減ってものがわかってない…」
機体を指差す。
「これはちょっと餞別にって渡す代物じゃない」
さらにレオに。
「しかもまだ未熟な子供の玩具にしていい物でもない。」
「1人前になるまで俺が預かる」
「そうか…」
レオの面倒を見ると意思を見せたレオンにうなずく。
「えぇぇぇ!?」
レオは少し不満そうだ。
「諦めろお前にはまだ早いからな」
レオが慌てた。
「使いこなせるまで俺がきっちり稽古してやる。」
「はい!よろしくおねがいします!」
レオンは改めてウィルオーウィスプ眺める。
「攻撃特化か…グラムに近いな。」
「こいつはな。少々特徴がある。」
レンが自慢げに答える。
「攻撃力もだが、剣を振る度に小爆発を起こす。」
レオンの眉が寄った。
「また変な物を作ったな…」
「小爆発自体は攻撃とほぼ無関係だが、相手はビビる。」
「剣筋の目くらましにもなる。炎を纏って戦うように見える。」
「故に鬼火≪ウイルオーウィスプ≫と名付けた。」
「無駄だろう…明るいところだと目立ちそうだ」
「格好いいぞ」
「だからそういう問題じゃない」
トトが吹き出す。
「さすが師匠!」
「お前は喜ぶと思った」
レオンは頭を抱えた。
だが最後には機体を見上げる。
「良い機体だ」
プレーヤーとしての評価だった。
「これに見合う男になれ」
「はい!」
レオは深く頭を下げた。
◇
格納庫を出た後。
今度はミストがルウの前へ立つ。
「ルウちゃん」
「はい」
「うち来る決心はついた?」
軽かった。
「行きます」
即答した
「よし」
頭を撫でる。
「確保」
「人聞きが悪い」
レンが呆れる。
「だって逃がしたくないし」
本音だった。
「この子放っておいたら将来とか絶対どこかの遺跡潜るもん」
誰も否定できない。
「ありえるな…」
「私が責任もって連れて帰るわ。」
ミストは満足そうに笑った。
「お前に紹介する。」
レンが手を差し出す。
ふわり。
小さな妖精が現れた。
薄桃色の髪。
ノアとミリアムにそっくりなぬいぐるみの妖精が居た。
『ハナです』
一瞬で空気が変わった。
「かわいいぃぃぃ!」
リアが即抱っこした。
「かわいいです!」
「ふわふわです!」
ルウも珍しく頬が緩む。
「かわいい……」
ミストもハナを見つめる。
そしてノアを見る。
もう一度ハナを見る。
「ねぇレン」
「なんだ」
「この子達、私にも作れる?」
「無理だな」
「即答なんだ」
「素材打ち止めだ。」
ミストは本気で悔しそうだった。
「ちょっと悔しい」
ノアが胸を張る。
『同型です可愛いのは当然です』
ハナも胸を張る。
『そうです姉なので私の方が可愛さは上です。』
『私が姉です。』
『ちがいます』
姉妹喧嘩が始まった。
この妖精マスコット達は自分が姉だと皆言い張る。
その言い合いは量産型っポイ。
レンは思った。
「リア…ハナはルウに渡せよ?」
「もう少しだけ。」
リアは2体のやり取りに完全に癒やされていた。
◇
最後に。
全員の視線がトトへ向く。
「僕ですか?」
レンは小さな木箱を放った。
受け取る。
「開けてみろ」
中を見てそして固まった。
箱の中には宝石のように輝くものが大量に入っている。
「これ、何ですか?」
「小粒だがそれが魔核というやつだ。」
数十個はある。
空気が止まった。
レオンが無言になる。
ミストも無言になる。
ゆっくりと一つ取り出す。
確認する。
もう一つ取り出す。
確認する。
箱を見る。
レンを見る。
「おい」
低い声だった。
「なんだ」
「これはだめだろ…」
沈黙。
「作った…という事にしておく」
レオンが額を押さえた。
「そうじゃない」
ミストも呆れた顔になる。
「レン」
「なんだ」
「魔核って作る物じゃないの」
「そうか?」
「そうだよ」
即答だった。
「ゲームの頃ですら入手条件おかしかったでしょ」
「そうだったか」
「そうだった」
レオンも頷く。
「レイドランキング上位に一つとかだぞ?」
そして箱を見る。
「それを量産するな」
静寂。
トトの顔色が変わる。
ミストが真面目な顔になった。
「トト君」
「はい」
「これね」
「一個あるだけでおかしい物なの」
トトが固まる。
「存在しているだけで事件」
「それが箱に大量に入ってる時点でおかしいの。」
「数十個ある時点で意味が分からない…」
レオンが続ける。
「誰にも見せるなよ」
重い声だった。
「誰にも話すな」
トトが頷く。
「お前を攫う理由になる」
背筋が冷える。
「使うなとは言わんだが、これは世界的にも貴重な物だ。」
「これを持つ以上周りがすべて敵となる」
「……」
強く頷いた。
レンは二人を見る。
「任せたぞ」
「箱はトトじゃないと開かないようにはしてある。」
ミストがため息を吐く。
「簡単に言ってくれるわね」
レオンも苦笑した。
「……まあいい」
トトを見る。
「ただし俺のグラムにも少し寄こすのが条件だ。」
ちゃっかり報酬を要求している。
「放任できん」
ミストも頷く。
「同感」
トトは箱を抱きしめた。
その重さが分かる。
期待の重さも。
信頼の重さも。
◇
騎士。
学者。
技師。
三人の未来は、もう目の前まで来ていた。
森の家で過ごす時間も、残りわずか。
だが誰も下を向いてはいない。
それぞれが選んだ道へ進むために。
【機体図鑑 No.013】
マルシーナ(Marucina)
■基本データ
分類 魔核機
ランク SS
フレーム フェアリー
全高 5.1m
カラー 白銀×淡緑×深紅
役割 超重防御近接戦闘
操縦者 ガイル
設計者 トト・ルウ
異名 「反逆の女神」
★機体概要
MMORPG『エターナル』に存在した、NPC魔核機。
歴史では、南部都市が寒波によって壊滅。
生き残った人々は一年後、
レジスタンスを結成し、
その首領となったカイルが「ガイル」を名乗り搭乗した。
設計を担当したのは、技師トト、ルゥ
レンが先にフレームを手にいれたことから
現在は『シルフィネ』として生まれている。
しかし、この機体はシルフィネとは異なり、
守るために戦い続けた末に傷つき、
幾度となく修復と改造を重ねた痛々しい姿となっている。
その名『マルシーナ』は、
カイルが失った親友である
『マル』と『シーナ』、
二人の名前を合わせたもの。
彼は最後まで、
大切な友との約束を忘れることはなかった。
★特殊機能
・多層花弁シールド展開
・自己修復機構
・魔力循環再生システム
・超重力防壁
・防御特化モード
・極限耐久形態
★主武装
■神槌
全長六メートルを超える超大型戦槌。
巨大な体躯に似合わぬ速度で振るわれ、
一撃で敵機を粉砕する。
■女神の外套
ドレスのように展開する多数のシールド。
近接戦闘では無敵に近い防御力を発揮する。
■終焉の鐘
全身の魔力を集中させ、
大地ごと敵を打ち砕く決戦技。
★総合評価
攻撃力 ★★★★☆
防御力 ★★★★★
機動力 ★★★☆☆
継戦能力 ★★★★★
総合評価 SS
『この世の理不尽を否定する女神』
美しかった妖精の機体は、幾度も傷つきながら
やがて反逆の象徴となった。
それは英雄の機体ではない。
敗北し、絶望し、
それでも立ち上がる者たちのための機体。
――失われた歴史の中でのみ存在する、
もう一つのシルフィネである。
読んでいただきありがとうございます。
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