第二十九話 旅立ち
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
翌朝。
森の家は不思議な静けさに包まれていた。
いつもと同じ朝。
いつもと同じ食卓。
いつもと同じ匂い。
だが3人にとってのこの森での最後の朝も近い。
明日、三人が旅立つ。
朝から賑やかだった食卓も
皆、別れが近いとわかっているので会話もいつもより少ない。
リアもどこか落ち着かない様子でスープをかき混ぜている。
トトも珍しく静かだった。
ルウは本を開いているが、ほとんどページが進んでいない。
そんな中。
レンだけはいつも通りだった。
パンを食べ。
紅茶を飲み。
特に何も言わない。
だからこそ。
余計に寂しく感じる。
◇
食事を終えた後。
カイルは一人で家の外へ出た。
森は静かだった。
鳥の鳴き声。
木々のざわめき。
今まで当たり前に聞いてきた音。
今日からは少し遠くなる音だった。
「眠れなかったか」
後ろから声がした。
振り返るとレンが居た。
カイルは少しだけ苦笑する。
「自分で道を決めたのにまだ心から覚悟が出来てないみたいです。」
こんな弱音を吐けるのも今日が最後だろう。
ただ森を出て自活するわけではない。
神殿が「神殿長」にと自分の為に期待してくれる。
その肩書の重さは理解している。
いきなり重責をすべて追うわけではないが、
いずれは人に上に立つ人物とならなければいけない。
期待にこたえなければと思うがふと怖くなる。
まだ十四歳なのだから。
「レンさん」
「なんだ」
「僕に務まるでしょうか」
レンは少しだけ考えた。
そして答える。
「俺の知ってるカイルなら」
「まずはなんでもやってみる奴だったな…」
「その前向きさが他人には魅力的に見えるもんだ。」
レンは空を眺めて言う。
「だからお前は選ばれたと思うんだがなぁ。」
カイルは救われた気がした。
レンは滅多に褒めない。
だからこそ重い。
「ありがとうございます」
深く頭を下げる。
レンはそれ以上何も言わなかった。
◇
一方。
家の裏ではリアとシーナが話していた。
木陰に並んで座る。
前からよくそうしていた。
「本当に行っちゃうんですね」
リアが呟く。
シーナは少し笑った。
「当然です。やりたいことをみつけたんですもの。」
「寂しくなるなぁ…」
かつて。
小さな屋台から始まった。
少しずつ増えた客。
応援してくれた町の人々。
気付けば。
マルシーナ商会は南部でも有数の商会になっていた。
「すごいですよね。」
リアが素直に言う。
「私だったら絶対真似できません。」
「リアだって十分凄いじゃないですか」
リアが首を傾げる。
「なんでですか?」
「妖精姫ですもの英雄ですよ?」
「やめてください!」
即座に顔が赤くなる。
シーナが笑う。
リアもつられて笑った。
少しだけ。
寂しさが和らいだ。
◇
格納庫ではマルとトトがホビットを眺めていた。
「僕が今度は腕を上げて絶対改造する」
トトが断言する。
「おお!」
マルが食いつく。
二人とも目が輝いている。
完全に職人だった。
「ここに収納増やして」
「アーム追加して」
「こっちも改造して」
「分かる」
盛り上がっている。
レンが見たら怒りそうな内容だった。
だが二人にとっては未来の話だった。
作りたい物、実現したい技術、叶えたい夢。
そんな話は尽きない。
「今度もっと凄いの作ろう」
トトが言う。
「期待してるからな。」
マルも頷く。
職人同士の約束だった。
◇
その夜。
森の家は久しぶりに遅くまで賑やかだった。
最後だから。
皆分かっている。
だから眠りたくない。
話したい。
笑いたい。
思い出を作りたい。
そんな時間だった。
◇
翌朝。
旅立ちの日。
荷物をまとめた三人が家の前に立っていた。
2体の機体を大きな馬車に乗せて結構な大荷物だ。
リアは何度も三人を見てしまう。
まだ実感が湧かない。
だが旅立つ。
皆自分の道へ。
「行くか」
レンが言う。
一同は森の出口へ向かった。
◇
森の中を歩く。
慣れ親しんだ道。
何度も通った道。
小さい頃から歩いてきた道。
結界の境界へ辿り着く。
森の出口。
そこから先は外の世界だった。
街道沿いには迎えが待っていた。
神殿騎士。
商会関係者。
職人達。
立派な馬車も用意されている。
だが誰も森へは入らない。
危険な森だと知っているからだ。
そして。
この森が特別な場所だと知っているからだ。
◇
最初に気付いた神殿騎士が声を上げた。
「カイル様だ!」
歓声が広がる。
「神殿長様!」
「森の申し子だ!」
「シーナ様!」
「名工マル様!」
歓迎の声、憧れの眼差し。
カイルは少し困ったように笑った。
「まだ慣れませんね」
「私もですわ」
シーナが肩を竦める。
マルはもっと酷かった。
「帰りたい…」
「おい」
レオが即座に突っ込む。
皆が笑った。
少しだけ空気が軽くなる。
◇
そして。
本当の別れの時間が来た。
カイルが前へ出る。
「先生…」
それは親愛と尊敬を込めた呼び方だった。
深く頭を下げる。
「ありがとうございました」
神殿長になってもきっとレンの前では変わらないだろう。
森の家の長男だった。
シーナも頭を下げる。
「今の私達があるのは先生のおかげですわ」
ミリアムも一緒にお辞儀した。
最後にマル。
「まぁ、出来るだけ頑張ってみるよ。」
「そうだな。」
3人に向けてレンが言葉を贈った。
「永遠の別れじゃないんだ。いつでも、遊びに来い。」
それが最後だった。
◇
三人が馬車へ向かう。
途中で一度だけ振り返った。
リアが大きく手を振る。
ルウも。
トトも。
ノアも。
皆が手を振る。
レンは3人をずっと見守る。
いつものように腕を組みながら。
◇
馬車がゆっくりと動き出す。
少しずつ遠ざかる。
それぞれの未来へ向かう背中。
やがて森の向こうへ消えていく。
静寂が訪れた。
風だけが吹いている。
リアは少しだけ目を潤ませながら呟く。
「行っちゃいましたね…」
「ああそうだな。」
レンが短く答える。
「でも」
リアは小さく笑った。
「また帰ってきますよね」
レンは森の向こうを見る。
「そのうちな」
とだけ答えた。
家族だから。
帰る場所はずっとここにある。
春風が森を抜けていく。
三人の卒業は終わった。
けれど。
森の家の物語はまだ続いていく。
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