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第二十九話 旅立ち

ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。

機兵、遺跡、秘密基地。

好きなものを全部詰め込みました。

 翌朝。


森の家は不思議な静けさに包まれていた。


いつもと同じ朝。


いつもと同じ食卓。


いつもと同じ匂い。


だが3人にとってのこの森での最後の朝も近い。


明日、三人が旅立つ。


朝から賑やかだった食卓も


皆、別れが近いとわかっているので会話もいつもより少ない。


リアもどこか落ち着かない様子でスープをかき混ぜている。


トトも珍しく静かだった。


ルウは本を開いているが、ほとんどページが進んでいない。


そんな中。


レンだけはいつも通りだった。


パンを食べ。


紅茶を飲み。


特に何も言わない。


だからこそ。


余計に寂しく感じる。



 食事を終えた後。


カイルは一人で家の外へ出た。


森は静かだった。


鳥の鳴き声。


木々のざわめき。


今まで当たり前に聞いてきた音。


今日からは少し遠くなる音だった。


「眠れなかったか」


後ろから声がした。


振り返るとレンが居た。


カイルは少しだけ苦笑する。


「自分で道を決めたのにまだ心から覚悟が出来てないみたいです。」


こんな弱音を吐けるのも今日が最後だろう。


ただ森を出て自活するわけではない。


神殿が「神殿長」にと自分の為に期待してくれる。


その肩書の重さは理解している。


いきなり重責をすべて追うわけではないが、


いずれは人に上に立つ人物とならなければいけない。


期待にこたえなければと思うがふと怖くなる。


まだ十四歳なのだから。


「レンさん」


「なんだ」


「僕に務まるでしょうか」


レンは少しだけ考えた。


そして答える。


「俺の知ってるカイルなら」


「まずはなんでもやってみる奴だったな…」


「その前向きさが他人には魅力的に見えるもんだ。」


レンは空を眺めて言う。


「だからお前は選ばれたと思うんだがなぁ。」


カイルは救われた気がした。


レンは滅多に褒めない。


だからこそ重い。


「ありがとうございます」


深く頭を下げる。


レンはそれ以上何も言わなかった。



一方。


家の裏ではリアとシーナが話していた。


木陰に並んで座る。


前からよくそうしていた。


「本当に行っちゃうんですね」


リアが呟く。


シーナは少し笑った。


「当然です。やりたいことをみつけたんですもの。」


「寂しくなるなぁ…」


かつて。


小さな屋台から始まった。


少しずつ増えた客。


応援してくれた町の人々。


気付けば。


マルシーナ商会は南部でも有数の商会になっていた。


「すごいですよね。」


リアが素直に言う。


「私だったら絶対真似できません。」


「リアだって十分凄いじゃないですか」


リアが首を傾げる。


「なんでですか?」


「妖精姫ですもの英雄ですよ?」


「やめてください!」


即座に顔が赤くなる。


シーナが笑う。


リアもつられて笑った。


少しだけ。


寂しさが和らいだ。



 格納庫ではマルとトトがホビットを眺めていた。


「僕が今度は腕を上げて絶対改造する」


トトが断言する。


「おお!」


マルが食いつく。


二人とも目が輝いている。


完全に職人だった。


「ここに収納増やして」


「アーム追加して」


「こっちも改造して」


「分かる」


盛り上がっている。


レンが見たら怒りそうな内容だった。


だが二人にとっては未来の話だった。


作りたい物、実現したい技術、叶えたい夢。


そんな話は尽きない。


「今度もっと凄いの作ろう」


トトが言う。


「期待してるからな。」


マルも頷く。


職人同士の約束だった。



 その夜。


森の家は久しぶりに遅くまで賑やかだった。


最後だから。


皆分かっている。


だから眠りたくない。


話したい。


笑いたい。


思い出を作りたい。


そんな時間だった。



 翌朝。


旅立ちの日。


荷物をまとめた三人が家の前に立っていた。


2体の機体を大きな馬車に乗せて結構な大荷物だ。


リアは何度も三人を見てしまう。


まだ実感が湧かない。


だが旅立つ。


皆自分の道へ。


「行くか」


レンが言う。


一同は森の出口へ向かった。



 森の中を歩く。


慣れ親しんだ道。


何度も通った道。


小さい頃から歩いてきた道。


結界の境界へ辿り着く。


森の出口。


そこから先は外の世界だった。


街道沿いには迎えが待っていた。


神殿騎士。


商会関係者。


職人達。


立派な馬車も用意されている。


だが誰も森へは入らない。


危険な森だと知っているからだ。


そして。


この森が特別な場所だと知っているからだ。



最初に気付いた神殿騎士が声を上げた。


「カイル様だ!」


歓声が広がる。


「神殿長様!」


「森の申し子だ!」


「シーナ様!」


「名工マル様!」


歓迎の声、憧れの眼差し。


カイルは少し困ったように笑った。


「まだ慣れませんね」


「私もですわ」


シーナが肩を竦める。


マルはもっと酷かった。


「帰りたい…」


「おい」


レオが即座に突っ込む。


皆が笑った。


少しだけ空気が軽くなる。



 そして。


本当の別れの時間が来た。


カイルが前へ出る。


「先生…」


それは親愛と尊敬を込めた呼び方だった。


深く頭を下げる。


「ありがとうございました」


神殿長になってもきっとレンの前では変わらないだろう。


森の家の長男だった。


シーナも頭を下げる。


「今の私達があるのは先生のおかげですわ」


ミリアムも一緒にお辞儀した。


最後にマル。


「まぁ、出来るだけ頑張ってみるよ。」


「そうだな。」


3人に向けてレンが言葉を贈った。


「永遠の別れじゃないんだ。いつでも、遊びに来い。」 


それが最後だった。



 三人が馬車へ向かう。


途中で一度だけ振り返った。


リアが大きく手を振る。


ルウも。


トトも。


ノアも。


皆が手を振る。


レンは3人をずっと見守る。


いつものように腕を組みながら。



 馬車がゆっくりと動き出す。


少しずつ遠ざかる。


それぞれの未来へ向かう背中。


やがて森の向こうへ消えていく。


静寂が訪れた。


風だけが吹いている。


リアは少しだけ目を潤ませながら呟く。


「行っちゃいましたね…」


「ああそうだな。」


レンが短く答える。


「でも」


リアは小さく笑った。


「また帰ってきますよね」


レンは森の向こうを見る。


「そのうちな」


とだけ答えた。


家族だから。


帰る場所はずっとここにある。


春風が森を抜けていく。


三人の卒業は終わった。


けれど。


森の家の物語はまだ続いていく。


読んでいただきありがとうございます。

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