第二十八話 餞別
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
森には穏やかな風が吹いていた。
窓から差し込む朝日が食卓を照らしている。
いつもと変わらない朝。
だが一人だけ落ち着きのない人物がいた。
トトである。
「まだですか?」
「何がだ」
「格納庫です」
「まぁ焦るな。」
「焦ってません。皆がのんびりなんです!」
朝食中だというのにそわそわしている。
工具箱まで抱えている。
まるで遠足前の子供だった。
レオが呆れたようにパンをかじる。
「気になるのも分かるけど…」
「はい!気になります!!」
即答だった。
「レンさんが何か用意してるんですよ!?」
「気になりますよ!」
リアが苦笑する。
「トト君、昨日からずっとそんな感じですよね」
「だって格納庫ですよ!?」
力説だった。
工房は出入り自由だが格納庫はネスト発進以来、出入りを禁じている。
見られたら困るものもある。
「期待するなって方が無理です!」
その様子を見てルウが本を閉じる。
「気持ちは分かります」
「だよね!」
完全に同類だった。
レンは深いため息を吐く。
「騒がしいな……」
だが、その口元は少しだけ緩んでいた。
「行くぞ」
その一言で全員が立ち上がった。
◇
結界の外れの格納庫。
巨大な扉が重々しい音を立てながら開いていく。
冷たい空気。
機械油の匂い。
高い天井。
無数の工具と設備。
そして中央。
三つの贈り物が静かに待っていた。
最初に足を止めたのはカイルだった。
「これ……」
白銀と深緑。
巨大な盾。
神殿騎士を思わせる荘厳な装甲。
まるで動く神殿だった。
「ユグドラン」
レンが静かに告げる。
「お前のだ」
カイルは言葉を失った。
「魔核機だ。使いこなせ。」
数秒。
完全に思考が止まる。
「……え?」
そして。
「ま、魔核機ぃぃぃ!?」
格納庫に絶叫が響いた。
魔核機。
伝説級。
王国最強戦力。
レオンのグラム。
ミストのセラフィム。
バルドのティラント。
それらと並ぶ存在。
そんなものが自分に与えられるなど想像したこともない。
ユグドランの背部装甲が展開される。
枝のように広がる無数の針。
迎撃兵装トレント。
神殿を守るためだけに作られた武装だった。
「神殿守るんだろ」
レンが言う。
「だったら必要だ」
そして短く続ける。
「無理ですよ…機兵すら乗ったことないのに」
ユグドランを見上げる。
『パイロット育成プログラムlv1~lv99まで実装済みです。』
「だそうだ。」
ノアの説明にレンが短く答える。
「神殿長を務めるならこれぐらいの箔は必要ってもんだ。」
神殿長になる。
改めて
その未来を認めてもらえた気がした。
「ありがとうございます」
深く頭を下げる。
「アリシアや街の皆を、守っていけよ。」
ただ少しだけ優しい顔をしていた。
◇
次に呼ばれたのはシーナだった。
「私ですわね」
胸を張って前へ出る。
だが。
魔核機のような大きな機体はなかった。
代わりに。
ふわり。
小さな妖精が目の前に降り立つ。
『初めまして』
シーナが固まる。
ぬいぐるみのような愛らしい姿。
どことなくノアに似ている。
『ミリアムと申します』
「え?え?」
リアが突然のあいさつに動揺している。
「ノアさんみたいです!」
『姉妹機ですので』
ミリアムが一礼する。
するとノアがすっと横に並んだ。
『私が姉です』
『違います』
ミリアムが即答した。
『製造番号上は私です』
『私です』
『私です』
即座に張り合い始める。
シーナが呆然とする。
「なんですのこの子達……」
ミリアムは何事もなかったかのように説明を続ける。
『今後、私がシーナ様の補佐としてお手伝いをいたします。』
『仕事の経理業務、タイムスケジュールのマネジメントから』
『私生活でのアドバイス。護衛等できます。』
「ゆ…有能ね。」
シーナがレンを見る。
「レンさん」
「なんですのこれ」
「まぁ秘書だ。」
「絶対違いますわ!」
格納庫に笑いが広がる。
その時。
ミリアムの目が光った。
遠くの岩が音もなく蒸発する。
「なんでですの!?」
『護衛です。』
「お目付け役のような気がしてきました………」
さらに笑いが広がった。
◇
「最後はマルお前だ」
レンがマルを見る。
マルの前には一機の機兵が立っていた。
巨大なコンテナ。
作業用アーム。
工具類。
運搬設備。
戦う機体には見えない。
だが職人のマルには分かった。
これがどれだけ異常な代物か。
「ホビットだ」
レンが言う。
「戦うための機体じゃない」
「作るための機体だ」
マルの目が少しずつ輝き始める。
「……すげぇ」
自然と漏れた言葉だった。
その瞬間。
「でしょう!」
トトが飛び出してくる。
「僕が考えたんです!」
マルが振り返る。
「トトが?」
「はい!」
嬉しそうだった。
「工房ごと持ち歩けたら便利だなって思って!」
「レンさんが形にしてくれました!」
レンはうなずく。
「このコンテナ展開すると作業場になります!」
「運搬もできます!」
「修理もできます!」
「建築もできます!」
「加工もできます!」
「調子に乗るな」
レンが頭を小突く。
だがトトは全く気にしていない。
マルはホビットを見上げた。
職人としてこれ以上ない相棒だった。
「ありがとな」
その言葉はレンではなくトトへ向けられていた。
トトは照れ臭そうに笑った。
◇
三人への餞別が揃う。
格納庫の空気も少し落ち着いた。
そんな中リアがぽつりと呟く。
「そういえば」
皆が振り返る。
「みんな凄いですよね」
カイルは新規神殿の神殿長
シーナは大手商会の代表
マルは芸術で時の人となっている。
改めて並ぶ三人を見る。
「普通じゃないですよね」
十代前半。
それも十歳そこそこの子供達だ。
だが肩書だけ見れば大人顔負け。
カイルが苦笑する。
「それは、ここの出身だから。」
「森の申し子」
シーナも頷いた。
「聖女オフィーリア様のお墨付きを頂いた神童達」
「そんな扱いですわね」
南部では既に有名な話だった。
全員が森の出身。
人々が噂するのも無理はない。
「凄いですね」
リアは素直に感心した。
すると。
ノアがふわりと降りてくる。
「リア様も同じでは?」
「え?」
嫌な予感がした。
「妖精姫」
一瞬で耳まで真っ赤になる。
「ノア!」
「事実です」
「言わないでください!」
即座に抗議する。
レオが吹き出した。
「王都じゃ普通に定着してるぞ」
「やめてください!」
シーナまで笑い始める。
「素敵ですわ」
「素敵じゃないです!」
「妖精姫様」
「だからやめてくださいぃ!」
顔を真っ赤にして抗議するリア。
その姿に皆が笑った。
アポカリオンを討伐した英雄とは思えない。
いつものリアだった。
◇
賑やかな空気が少し落ち着いた頃。
レンが皆を見回した。
神殿長。
商会長。
巨匠。
未来の騎士。
未来の技師。
未来の学者。
妖精姫。
皆幼さの残る子供たちなのに
冷静に考えるとかなりおかしな集団だった。
「まぁ」
全員の視線が集まる。
レンは少し頭を掻いた。
「正直なところ…」
ならぶ餞別を見渡す。
「こんなもの無くても良かった気はする」
皆が首を傾げる。
「お前ら」
少しだけ笑った。
「ちょっと引くくらい優秀だし」
一瞬静まり返る。
トトだけが元気よく頷く。
「ですよね!」
「この森でレンさんと暮らしたからですよ」
『私の教育のたまものです。』
ノアの言葉で格納庫に笑いが広がった。
そしてレンは少しだけ視線を逸らす。
照れ隠しのように頭を掻く。
「まぁ」
短く息を吐いた。
「最後の親心だ」
静かになった。
その一言だけで十分だった。
拾われた日。
泣いていた日。
何も持っていなかった日。
全部が今に繋がっている。
春の風が格納庫へ吹き込む。
卒業の日は、もうすぐそこまで来ていた。
【機体図鑑 No.012】
ホビット(Hobit)
■基本データ
分類 支援型機兵
ランク RRR
フレーム タイプ・クラフト
全高 8.4m
カラー 黄土色×黒鉄
役割 開発・整備・補給支援
操縦者 トト・マル
★機体概要
森の申し子の一人、トトがマルために設計したものを
レンが開発・製造した支援特化型機兵。
戦闘能力は高くないものの、
整備、開発、生産、輸送といった
後方支援能力においては他の追随を許さない。
巨大な収納コンテナと作業ユニットを搭載し、
戦場に簡易工房を展開することも可能。
各種魔核機の修理や改造、
魔道具の製作、資材輸送までこなす
「動く工房」と呼ばれる存在である。
その功績から、
マルシーナ商会の発展を支える
象徴的な機体となっている。
それまで、希少であった機兵に生活作業や、補給支援を
させる発想自体がなく、革命機となる。
読んでいただきありがとうございます。
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