第二十五話 妖精姫と災喰竜
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
新緑の光が戦場を駆ける。
災喰竜アポカリオンの周囲を。
花弁のような光の翼を広げたシルフィネが舞う。
残像。
残像。
残像。
無数の軌跡が空を埋め尽くしていた。
遠目に見れば美しい。
春の花畑を飛び回る妖精達。
そんな幻想的な光景。
だが現実は違う。
その一つ一つが致命傷を狙った刺突であり、斬撃だった。
アポカリオンの鱗が砕ける。
肉が裂ける。
黒い血が舞う。
SSS級災厄。
本来なら人類総力戦を前提とした怪物。
その巨体が押されていた。
『なんだあれは……』
若い騎士が呆然と呟く。
誰もが同じ気持ちだった。
目の前で起きていることが理解できない。
シルフィネは一機しかいない。
それは分かっている。
だが何十機もいるようにしか見えなかった。
『妖精姫様だ……』
誰かがそう呟く。
その言葉が自然に広がっていく。
王国騎士。
神殿騎士。
学園所属の魔導士達。
誰も否定しなかった。
空を舞うその姿は。
まさに妖精だった。
『見惚れるのは後にしろ!』
レオンの声が響く。
『前へ出るぞ!』
赤黒の魔核機グラムが大地を蹴る。
その後ろに騎士達が続く。
『妖精姫に続け!!』
『おおおおおおっ!!』
士気は戻った。
いや。
今まで以上だった。
絶望に飲まれかけた戦場へ。
希望が戻ったのだ。
『なんなのあれ……』
セラフィムの中でミストが頭を抱えていた。
『速度も出力もおかしくない?』
『魔核機の動きじゃないわね…』
『そもそも機体性能を軽く超えてるわ…』
だがすぐに顔を上げる。
『だけど!』
無数の魔法陣が展開された。
『今は勝てば良い!!』
青い閃光が空を埋める。
砲撃。
砲撃。
さらに砲撃。
アポカリオンの動きを封じるように光が降り注いだ。
◇
『はっはっはっはっ!!』
ティラントの中でバルドが豪快に笑う。
『考えるのは学者共に任せろ!!』
巨大な盾を構える。
『俺達は殴るだけだ!!』
ティラントが突進した。
褐色の巨体が大地を揺らす。
盾が激突。
轟音。
アポカリオンの身体が大きく揺れた。
戦場の空気が変わった。
王国軍が押し返し始める。
だがアポカリオンもまた止まらない。
赤い瞳がシルフィネを追う。
リアを脅威として認識していた。
シルフィネが急加速する。
その瞬間。
アポカリオンの腕が振るわれた。
「っ!?」
今までなら当たらなった攻撃。
油断があったわけではない。
巨大な爪がシルフィネを掠める。
衝撃。
機体が弾き飛ばされた。
「きゃあっ!」
リアの身体がシートへ叩き付けられる。
警告音。
視界が揺れる。
アポカリオンの赤い瞳が見えた。
あきらかに学習して適応している。
(強い。怖い。)
本能がそう告げる。
今まで戦った何よりも。
レンさんなら。
そんな考えが浮かぶ。
だが。
すぐに首を振った。
「駄目」
小さく呟く。
「これは私がやるんだから」
◇
後方指揮所。
アリシアは神殿騎士達を指揮しその戦場を見つめていた。
『右翼前進』
神殿騎士達が動く。
『負傷者を後方へ』
治療班が走る。
『第三陣投入』
指示が飛ぶ。
私の采配で皆が動いてくれる。
私を聖女だと信じて…
アリシアはずっとこうしてきた。
自分に力がないことを知りながら。
それでも出来ることを探し続けてきた。
ふと空を見上げる。
そこにはリアがいた。
光の中を飛ぶ少女。
胸の奥が熱くなる。
「頑張ってください……」
小さな声。
それは聖女の祈りではない。
一人の友人の願いだった。
◇
馬車の上
レンは腕を組んだまま空を見ていた。
「どう思います?」
ルウが尋ねる。
「わからん・・」
その表情は険しい。
「レンさん?」
「……いや」
視線は戦場の方角へ向いたまま。
「あいつ」
珍しく眉をひそめる。
「無理してるな」
根拠はない。
だが。
嫌な予感だけが残った。
◇
戦場。
リアの呼吸は荒くなっていた。
「はぁ……」
身体が重い。
熱い。
疲れている。
だが。
止まれない。
目の前にはアポカリオン。
後ろには皆がいる。
『リア!!』
レオンの声。
グラムが飛び込んだ。
赤黒の大剣が振り抜かれる。
アポカリオンが僅かによろめく。
『今よ!!』
ミスト。
砲撃が炸裂する。
『嬢ちゃん!!』
バルド。
ティラントが盾で押し込む。
その瞬間だった。
リアの目が見開かれる。
見えた。
胸部。
心臓部。
一瞬だけ生まれた隙。
皆が繋いだ。
皆が作った。
この一撃のために。
◇
リアは笑った。
怖かった。
でも。
一人じゃない。
「シルフィネ」
花弁の翼が広がる。
新緑の光が集まる。
「行こう」
エメラルドグリーンの流星が走った。
一直線に。
真っ直ぐに。
災喰竜アポカリオンの胸へ。
轟音。
閃光。
世界を覆うほどの新緑の輝き。
◇
そして。
誰も知らない場所で
「くくく…これで収穫の効率も上がった。」
誰かが楽しそうに笑った。
「さしずめフォレスト・レゾナンス≪森との共鳴≫ともいうべきか」
その一言が。
静かに響いた。
読んでいただきありがとうございます。
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