第二十三話 収穫祭
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
北方山脈の向こう。
地平線を埋める巨大な影。
それを視認した瞬間、戦場から歓声が消えた。
つい先ほどまで。
王国軍は勝利を確信していた。
魔王獣バハルムは瀕死。
作戦は成功目前。
あと少しで終わるはずだった。
だが。
誰も知らなかった。
災厄は終わっていなかったことを。
◇
『観測班!』
レオンが叫ぶ。
『あれは何だ!?』
『不明です!』
即答だった。
『計測不能!』
『数値が振り切れています!』
『そんな馬鹿な……』
観測士の声が震えていた。
戦場全体に緊張が走る。
北方山脈。
そこから現れた巨大な影は、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
一歩。
また一歩。
それだけで大地が揺れた。
◇
後方指揮所。
アリシアも映像を見つめていた。
神殿騎士。
王国騎士。
学園の魔導士。
誰も言葉を発しない。
巨大な影が近付いてくる。
ただそれだけで。
空気が重くなる。
「何なの……あれは……」
誰かの呟き。
誰も答えられなかった。
アリシアはその不気味な瞳に見られているような気配を感じる。
◇
魔王獣バハルムが咆哮する。
怒り。
恐怖。
本能。
その全てを込めた叫び。
そして振り返る。
新たな敵へ向かって。
『警戒しろ!』
『両者の戦闘に巻き込まれるな!』
レオンの指示が飛ぶ。
誰もが二体の怪物が激突すると思った。
予測不能の事態に全員が息をのむ。
◇
巨大な顎が開く。
次の瞬間。
北方から現れた怪物がバハムルへ喰らい付いた。
『なっ!?』
戦場に動揺が走る。
バハムルが暴れる。
逃れようとする。
だが。
まるで相手にならない。
爪が砕ける。
鱗が裂ける。
肉が千切れる。
S級レイド魔獣。
王国が総力を挙げて討伐していた怪物が。
一方的に蹂躙されていた。
『おい……』
バルドの声から笑いが消える。
『冗談だろ……』
◇
怪物は喰う。
首を。
翼を。
胴を。
尾を。
全てを。
貪欲に。
執拗に。
一片も残さず。
そして。
魔王獣と呼ばれた魔獣は消えた。
◇
静寂。
誰も動けない。
誰も理解できない。
だが。
本当の恐怖はそこからだった。
怪物の体が膨れ上がる。
黒い魔力が渦を巻く。
空が軋む。
大地が震える。
角が伸びる。
翼が広がる。
全身の鱗が変質していく。
まるで進化。
いや。
そんな言葉では足りない。
存在そのものが書き換わっていく。
◇
『観測不能!』
『魔力濃度上昇!』
『止まりません!』
『計測装置が!』
観測水晶が次々と砕け散る。
ミストの顔色が変わった。
そして。
その姿を見た瞬間。
三人だけが固まった。
◇
『……嘘でしょう』
最初に声を漏らしたのはミストだった。
顔色が青い。
『ミスト?』
通信越しにレオンが問う。
返事はない。
代わりに。
『おい……』
バルドだった。
豪快な男が。
本気で動揺していた。
『まさか……』
レオンも理解した。
理解してしまった。
その姿を。
◇
『団長!』
『ご存知なのですか!?』
騎士達が叫ぶ。
レオンは数秒沈黙した。
そして。
苦々しく答える。
『知っている…』
その声は重かった。
『いや』
『知ってしまっている』
戦場が静まり返る。
ゲーム時代の設定資料だ
ミストが続ける。
サービス開始前に公開された設定画…
実装されなかった最終レイド候補…
『存在するはずがないんです』
その声は震えていた。
◇
怪物がゆっくりと顔を上げる。
赤黒い瞳。
天を覆う翼。
絶望そのもののような姿。
レオンがその名を告げた。
「災喰竜アポカリオン..」
◇
誰かが恐る恐る尋ねる。
『ランクは……?』
レオンは答えない。
代わりにミストが口を開いた。
『SSS』
◇
どこからともなく。
声がした。
愉快そうな。
楽しげな。
だが不気味な声。
「さあ……」
誰も聞いていない。
誰にも届かない。
ただ世界のどこかで。
誰かが笑った。
「収穫祭を始めよ」
◇
アポカリオンが咆哮する。
それだけで。
最前列のワーウルフ隊が吹き飛んだ。
ビショップ隊が転倒する。
バンシー隊が空中で姿勢を崩す。
大地が割れる。
空が震える。
耳鳴りが止まらない。
◇
『総員後退!!』
レオンが叫ぶ。
だが遅い。
アポカリオンの尾が振るわれる。
それだけで数機のワーウルフが消し飛んだ。
ティラントが前へ出る。
『下がれ!』
バルドの怒号。
『俺が受ける!!』
巨大盾を構える。
王国最強の盾。
辺境を守り続けた英雄。
だが、アポカリオンは興味すら示さない。
一歩前へ出る。
それだけで。
ティラントの膝が地面へ沈んだ。
『ぐっ……!?』
バルドの顔が歪む。
あり得ない。
まだ攻撃すら受けていない。
◇
後方指揮所。
アリシアは震える手を握り締める。
誰もが理解していた。
これはレイドではない。
災害だ。
王国が滅ぶ。
そんな未来が脳裏を過る。
◇
災喰竜アポカリオンが再び咆哮した。
その瞬間。
戦場から希望が消えた。
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