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第二十三話 収穫祭

ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。

機兵、遺跡、秘密基地。

好きなものを全部詰め込みました。

 北方山脈の向こう。


地平線を埋める巨大な影。


それを視認した瞬間、戦場から歓声が消えた。


つい先ほどまで。


王国軍は勝利を確信していた。


魔王獣バハルムは瀕死。


作戦は成功目前。


あと少しで終わるはずだった。


だが。


誰も知らなかった。


災厄は終わっていなかったことを。



『観測班!』


レオンが叫ぶ。


『あれは何だ!?』


『不明です!』


即答だった。


『計測不能!』


『数値が振り切れています!』


『そんな馬鹿な……』


観測士の声が震えていた。


戦場全体に緊張が走る。


北方山脈。


そこから現れた巨大な影は、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。


一歩。


また一歩。


それだけで大地が揺れた。



 後方指揮所。


アリシアも映像を見つめていた。


神殿騎士。


王国騎士。


学園の魔導士。


誰も言葉を発しない。


巨大な影が近付いてくる。


ただそれだけで。


空気が重くなる。


「何なの……あれは……」


誰かの呟き。


誰も答えられなかった。


アリシアはその不気味な瞳に見られているような気配を感じる。



魔王獣バハルムが咆哮する。


怒り。


恐怖。


本能。


その全てを込めた叫び。


そして振り返る。


新たな敵へ向かって。


『警戒しろ!』


『両者の戦闘に巻き込まれるな!』


レオンの指示が飛ぶ。


誰もが二体の怪物が激突すると思った。


予測不能の事態に全員が息をのむ。



巨大な顎が開く。


次の瞬間。


北方から現れた怪物がバハムルへ喰らい付いた。


『なっ!?』


戦場に動揺が走る。


バハムルが暴れる。


逃れようとする。


だが。


まるで相手にならない。


爪が砕ける。


鱗が裂ける。


肉が千切れる。


S級レイド魔獣。


王国が総力を挙げて討伐していた怪物が。


一方的に蹂躙されていた。


『おい……』


バルドの声から笑いが消える。


『冗談だろ……』



怪物は喰う。


首を。


翼を。


胴を。


尾を。


全てを。


貪欲に。


執拗に。


一片も残さず。


そして。


魔王獣と呼ばれた魔獣は消えた。



静寂。


誰も動けない。


誰も理解できない。


だが。


本当の恐怖はそこからだった。


怪物の体が膨れ上がる。


黒い魔力が渦を巻く。


空が軋む。


大地が震える。


角が伸びる。


翼が広がる。


全身の鱗が変質していく。


まるで進化。


いや。


そんな言葉では足りない。


存在そのものが書き換わっていく。



『観測不能!』


『魔力濃度上昇!』


『止まりません!』


『計測装置が!』


観測水晶が次々と砕け散る。


ミストの顔色が変わった。


そして。


その姿を見た瞬間。


三人だけが固まった。



『……嘘でしょう』


最初に声を漏らしたのはミストだった。


顔色が青い。


『ミスト?』


通信越しにレオンが問う。


返事はない。


代わりに。


『おい……』


バルドだった。


豪快な男が。


本気で動揺していた。


『まさか……』


レオンも理解した。


理解してしまった。


その姿を。



『団長!』


『ご存知なのですか!?』


騎士達が叫ぶ。


レオンは数秒沈黙した。


そして。


苦々しく答える。


『知っている…』


その声は重かった。


『いや』


『知ってしまっている』


戦場が静まり返る。


ゲーム時代の設定資料だ


ミストが続ける。


サービス開始前に公開された設定画…


実装されなかった最終レイド候補…


『存在するはずがないんです』


その声は震えていた。



怪物がゆっくりと顔を上げる。


赤黒い瞳。


天を覆う翼。


絶望そのもののような姿。


レオンがその名を告げた。


「災喰竜アポカリオン..」



誰かが恐る恐る尋ねる。


『ランクは……?』


レオンは答えない。


代わりにミストが口を開いた。


『SSS』



どこからともなく。


声がした。


愉快そうな。


楽しげな。


だが不気味な声。


「さあ……」


誰も聞いていない。


誰にも届かない。


ただ世界のどこかで。


誰かが笑った。


「収穫祭を始めよ」



アポカリオンが咆哮する。


それだけで。


最前列のワーウルフ隊が吹き飛んだ。


ビショップ隊が転倒する。


バンシー隊が空中で姿勢を崩す。


大地が割れる。


空が震える。


耳鳴りが止まらない。



『総員後退!!』


レオンが叫ぶ。


だが遅い。


アポカリオンの尾が振るわれる。


それだけで数機のワーウルフが消し飛んだ。


ティラントが前へ出る。


『下がれ!』


バルドの怒号。


『俺が受ける!!』


巨大盾を構える。


王国最強の盾。


辺境を守り続けた英雄。


だが、アポカリオンは興味すら示さない。


一歩前へ出る。


それだけで。


ティラントの膝が地面へ沈んだ。


『ぐっ……!?』


バルドの顔が歪む。


あり得ない。


まだ攻撃すら受けていない。



後方指揮所。


アリシアは震える手を握り締める。


誰もが理解していた。


これはレイドではない。


災害だ。


王国が滅ぶ。


そんな未来が脳裏を過る。



災喰竜アポカリオンが再び咆哮した。


その瞬間。


戦場から希望が消えた。


読んでいただきありがとうございます。

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