第二十二話 違和感
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
戦闘開始から一時間。
戦況は極めて良好だった。
魔王獣バハルムの巨体にはすでに幾つもの傷が刻まれている。
バンシー隊による長距離魔法砲撃。
ビショップ隊による結界包囲。
そしてレオン率いるグラムが前線を切り裂いていた。
『左翼前進!』
『ワーウルフ隊、再突撃開始!』
『バンシー隊砲撃座標更新!』
戦場は混沌としているが指揮系統は生きていた。
王国軍は訓練された軍隊だ。
まして今回は王国騎士団、神殿騎士団、学園の混成部隊。
精鋭中の精鋭である。
後方指揮所。
アリシアは巨大な戦況図を見つめていた。
神殿騎士達が慌ただしく報告を続ける。
「第三防衛線維持」
「損害軽微です」
「神殿騎士隊も問題ありません」
順調だった。
あまりにも。
アリシアは小さく眉を寄せる。
もちろん良いことだ。
良いことなのだが。
胸の奥に小さな棘が刺さったような感覚が消えない。
◇
『グラム、突撃する』
レオンの声が通信網に響く。
次の瞬間。
赤黒の機体が地面を蹴った。
爆発的な加速。
翼を広げ一瞬で間合いを詰める。
振り抜かれる大剣。
「竜牙剣≪ドラグーンブレード≫!!」
魔王獣の首筋へ深々と食い込んだ。
鮮血が舞う。
大地を揺らす咆哮。
『効いてるぞ!』
『流石団長!』
歓声が上がる。
だがレオンは眉をひそめた。
浅い。
予想よりも。
手応えが軽い。
◇
上空。
セラフィムの砲撃陣地。
無数の魔法陣が展開されている。
『第六砲門展開』
『第七砲門装填』
ミストは冷静に戦況を分析していた。
砲撃は順調。
敵の行動も予測通り。
被害も計算内。
だが。
「おかしいですねぇ……」
誰にも聞こえない声だった。
戦術的には勝っている、戦略的にも勝っている。
なのに。
プレイヤーとしての経験が警鐘を鳴らしていた。
◇
『はっはぁ!!』
ティラントが巨大な盾を叩き付ける。
褐色の重装甲が陽光を反射した。
魔王獣の爪が振り下ろされる。
だがティラントは退かない。
真正面から受け止める。
「巨人の盾≪ティラント・シールド≫!!!」
衝撃と共に地面が沈む。
しかし機体は動かない。
『そんなもんかぁ!!』
バルドが豪快に笑う。
まるで戦いそのものを楽しんでいるようだった。
周囲の騎士達も士気を上げる。
王国最強の盾。
その名に恥じない戦いだった。
だからこそ、彼もまた気付いていた。
「妙だな……」
小さく呟く。
誰にも聞こえない声。
だが長年戦場で生きてきた男の勘は鋭い。
◇
同じ頃、王都。
「暇ですね…」
リアが言った。
「暇だな…」
レンも同意する。
宿のテラス。
街を見下ろしながらのんびりしていた。
ルウは朝からミストにもらった学術院の資料を読んでいる。
リアは飽きていた。
「大丈夫でしょうか…」
「大丈夫だろ。」
レンは適当に答える。
それだけ聞けば安心できる。
だがリアは少し首を傾げた。
「でもレンさん…」
「なんだ」
「難しい顔してます」
レンは返事をしなかった。
代わりに遠くを見る。
王都北方。
戦場の方向。
もちろん何も見えない。
だが。
嫌な感覚だけがあった。
◇
後方指揮所。
「オフィーリア様」
神殿騎士が駆け込んでくる。
「どうしました?」
「敵の行動パターンが変化しません…」
アリシアは瞬きをした。
「変化しない?」
「はい。まるでこのまま狩られるのを待っているおとなしい獣のようです。」
神殿騎士も困惑している。
「当初の作戦の情報で行けば、ここまで被害を受ければ行動変化が起こります」
「逃走」
「狂暴化」
「防御行動」
「何らかの反応があるはずなのですが……」
全くない。
魔王獣は最初から同じ行動を繰り返している。
まるで。
時間を稼いでいるように。
その考えが浮かんだ瞬間。
アリシアの背筋を冷たいものが走った。
◇
『団長!』
『反応です!』
観測班の声が響く。
レオンが振り向く。
『どこだ』
『北方山脈です!』
『何?』
全員が凍り付いた。
北方山脈。
そこは戦場から遥か彼方。
今回の作戦区域外。
観測魔道具が映し出した光景に誰も言葉を失った。
巨大な魔力反応。
あり得ない数値。
計測不能。
『馬鹿な……』
ミストが呟く。
観測班も顔を青くしている。
『そんな反応は報告にありません!』
『観測ミスか!?』
『違います!』
誰かが叫ぶ。
その直後。
戦場全体を震わせる咆哮が響いた。
魔王獣バハルムではない。
もっと遠く。
もっと巨大な何か。
山脈の向こうから。
世界そのものを震わせるような咆哮だった。
◇
王都。
テラスにいたレンが空を見上げた。
風が変わる。
鳥達が一斉に飛び立つ。
何故か急にレンは立ち上がった。
「ルウ」
「はい」
「リア」
「はい!」
「ちょっと出るぞ」
リアが瞬きをする。
「え?」
レンは北を見ていた。
その表情からいつもの気怠さが消えている。
珍しく。
本当に珍しく。
面倒そうではなかった。
「どうしたんですか?」
リアが聞く。
レンは短く答える。
「どうも気になる事があってな。」
その一言で。
ルウの顔色が変わった。
レンの予感。
それが当たる時は。
大抵ろくなことにならない。
北方の空。
その遥か彼方で。
二体目の災厄が目を覚ましていた。
【機体図鑑 No.009】
バンシー(Banshee)
■基本データ
分類 試験・試作機兵
ランク RR
フレーム タイプ・ソーサラー
全高 4.8m
カラー 紫黒×深藍
役割 遠距離支援(魔法砲撃特化)
操縦者 学園機兵隊・魔導師部隊
★機体概要
魔核機セラフィムのデータをもとに製造された試作機
魔法戦闘に特化して開発された後方支援型機兵。
複数の浮遊魔導端末を備え、
高出力魔法による制圧射撃と広域支援を得意とする。
機動力と防御力は低いものの、
優れた魔力制御能力によって遠距離戦では絶大な戦果を発揮。
学園都市や魔導師部隊で運用され、歴史が浅い為に
生産台数はまだ少ない。
戦場の砲台として知られている。
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