第二十一話 出撃の朝
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
レイド討伐当日。
まだ朝日が昇り切らない王都は、普段とは違う静かな熱気に包まれていた。
王城周辺では騎士達が慌ただしく動き回り、兵士達は最後の確認を行っている。
機兵格納庫では整備士達が徹夜明けの顔で愛機を見上げていた。
誰もが忙しい。
誰もが緊張している。
だがその表情に悲壮感はない。
勝てる。
そう信じている顔だった。
レンは王城のテラスからその様子を眺めていた。
「レンさん達はここで待っててくれますか?」
隣に立つアリシアが念を押すように尋ねる。
「ああ」
レンは即答した。
「結局、俺に出番はないようだしな。」
「そうですか…」
アリシアは小さく息を吐いた。
正直に言えば安心していた。
自分の守るべき場所に大切な人たちがいる。
それだけで自分を鼓舞するには十分だ。
だからこそ。
(見ててください聖女として立派に努めてきます。)
そんな思いがあった。
「アリシアさんは?」
リアが首を傾げる。
「一緒に行くんですか?」
「はい」
アリシアは微笑んだ。
「私は後方指揮所へ向かいます」
「戦えませんから」
「ですが、皆さんを送り出すことはできます」
聖女オフィーリア。
その役割は戦うことではない。
象徴として人々を支えることだ。
だから彼女も戦場へ向かう。
武器ではなく言葉を携えて。
始まる歴史に葛藤を抱えレンは
無言でアリシアの横顔を見つめていた。
◇
少し経って
格納庫前では出撃準備が進んでいた。
ワーウルフ隊。
ビショップ隊。
バンシー隊。
整備士達の怒号が飛び交い、騎士達は最後の確認を行っている。
その一角で。
レオン達三人がレンを囲んでいた。
「結局見せなかったな」
レオンが腕を組む。
「何をだ」
「お前の今の愛機だ」
少し残念そうに言う。
レンは露骨に嫌そうな顔をする。
「まだ言ってるのか」
「当然だ持ち込んだあれではないんだろ?」
今度はバルドが笑って幕が掛かったシルフィネを指す
「俺たちの知ってるバトルスタイルの機体じゃなさそうだしな。」
3人とも、シルフィネを見て納得していないようだ。
「忘れるわけねぇだろ。」
豪快な男にしては珍しく、どこか懐かしそうな表情だった。
「黒い機体で突っ込んでた馬鹿をな」
「懐かしいわねぇ」
ミストもくすりと笑う。
「普通は結界って魔法防御用なのよ?」
「どうして特攻兵器にしちゃうんだか…」
「知らん」
レンは即答した。
「結果的にそうなっただけだ」
「結果的になったとしてもだ…」
レオンが切り捨てる。
「お前は昔から発想がおかしいんだよ。」
三人の反応は一致していた。
◇
何やら昔話をしているようだ。
リアやルウにはよく分からない。
でもリアは違和感を感じる。
この前聞いた昔話の中にこの3人とレンが出会う話はなかった。
(一体この人達はいつ出会い、いつの思い出を共有しているのだろう…)
少し考えるが
考えても分からないので一端考えるのを辞めよう。
思考を放棄するリアであった。
「で?」
バルドがニヤリと笑う。
「今は何に乗ってる」
「乗ってない」
「嘘だな」
即答だった。
今度はミストが続く。
「たしか、南部でうわさになったのは黒い妖精王じゃなかった?」
「研究者は黙ってろ」
レンが顔をしかめる。
だが三人とも引かない。
昔から知っているのだ。
「あの機体は黒くないよなぁ」
白々しくバルドが言ってのける。
レンという男が何も持っていないわけがないと。
「いずれ見せろ」
レオンが言う。
騎士団長としてではない、ゲーマーとして。
「お前が今何に乗っているのか興味がある」
レンは少しだけ考える。
森の格納庫。
眠る餞別。
完成した機体達。
脳裏に浮かぶ。
そして。
「そのうちな」
短く答えた。
その瞬間。
三人が顔を見合わせる。
そして同時に笑った。
「やはりな」
「何かあるのね。」
「絶対あるんじゃんねぇか!」
レンは答えないが少し笑う。
それが答えだった。
◇
やがて出撃の時間が訪れる。
騎士達が機兵へ搭乗する。
整備士達が最後のロックを解除する。
五メートル級の鋼鉄の騎士達が次々と起動していく光景は壮観だった。
ワーウルフ隊。
ビショップ隊。
バンシー隊。
そして。
王国の切り札たる三機の魔核機。
赤黒のグラム。
深青のセラフィム。
褐色の重装甲を纏うティラント。
それぞれが朝日を浴びて輝いていた。
『では行ってくる』
レオンの声が外部スピーカーから響く。
短いが、それだけで十分だった。
『じゃぁ、お仕事してくるわ。』
ミストの態度は余裕そうだ。
『終わったら宴会だ!』
バルドは最後までバルドだった。
レンは軽く手を振る。
「ゲームじゃないんだ。死ぬなよ」
『お前にだけは言われたくない』
三人同時だった。
昔から変わらない。
あいつらはあいつらなりに真面目にやってるみたいだが
やっぱゲーマだな…
リアも笑顔で3人を見送った。
すぐに出撃するはずのアリシアも
4人のやり取りを見て口元を緩める。
ルウだけは真面目な顔で手を振っていた。
そして。
機兵達が歩き始める。
鋼鉄の足音が地面を震わせた。
王国最強戦力が出撃する。
誰もが勝利を疑っていなかった。
◇
数時間後。
王都北方。
広大な平原。
そこにはすでに災厄がいた。
魔王獣バハルム。
S級レイド魔獣。
巨大な黒竜は山のような体躯を持ち、その存在だけで周囲の空気を歪めている。
だが王国軍は怯まない。
予定通り。
分析通り。
作戦通り。
何度も検討を重ねた相手だ。
『全軍、作戦開始』
レオンの号令が響く。
次の瞬間。
無数の砲撃が空を埋め尽くした。
バンシー隊の長距離砲撃。
魔術部隊の支援魔法。
機兵部隊の突撃。
全てが計画通りに進む。
バハルムの巨体が揺れる。
鱗が砕ける。
咆哮が上がる。
『効いている!』
『押し込めるぞ!』
騎士達の士気は高い。
神殿騎士達も続く。
ティラントが前線を支え。
セラフィムが空から砲撃し。
グラムが鋭く敵陣を切り裂く。
順調だった。
あまりにも順調だった。
だからこそ。
誰も気付かなかった。
バハルムの奥。
山脈のさらに向こう。
人の目が届かない場所で。
もう一つの巨大な影が。
ゆっくりと目を開いたことに。
まだ誰も。
それが本当の災厄であることを知らない。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
ついに開戦しました。
皆の援護をお願いいたします(笑)
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