第二十話 王国の切り札
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
レイド討伐前日。
王都は慌ただしく動いていた。
各地から集まった騎士団。
神殿騎士。
辺境軍。
冒険者達。
街を歩くだけでも普段とは違う熱気が伝わってくる。
だが不思議と重苦しさはない。
誰もが勝利を信じていた。
それだけの戦力が揃っていたからだ。
そんな中、レン達は王城地下へ案内されていた。
「で?」
レンが歩きながら言う。
「なんで俺達まで連れて来た」
先導するレオンが振り返る。
「昨日も言っただろう」
「見せたかったんだ」
「何をだ」
「今の王国を」
レンは半眼になった。
「自慢か」
「半分はな」
即答だった。
その横でミストがくすりと笑う。
「私も見ていただきたかったんですよ?」
「嫌な予感しかしねぇな」
「失礼ですねぇ」
否定はしなかった。
バルドも豪快に笑う。
「はっはっは!」
「せっかく来たんだ!」
「見ていけ!」
「俺達の自慢の相棒をな!」
レンはため息を吐いた。
立場は変わった。
肩書も変わった。
だが中身は昔と変わらない。
元プレイヤー達の愛機自慢が始まろうとしていた。
◇
格納庫へ入った瞬間。
リアは思わず足を止めた。
「わぁ……」
広い。
だが想像していたほどではない。
五メートル級の鋼鉄の騎士達が整然と並んでいる。
人より大きい。
しかし城のような巨人ではない。
だからこそ現実感があった。
兵器として運用されている。
その事実が伝わってくる。
「これが王国の機兵ですか」
リアは目を輝かせる。
目の前に並ぶのは鋼鉄の狼。
鋭い頭部。
両腕の巨大な爪。
今にも飛びかかってきそうな迫力があった。
「ワーウルフだ」
レオンが言う。
自然と声に誇りが滲んでいた。
「王国騎士団主力機兵」
「百年前に開発された機体だ」
「今でも現役なんですか?」
「機兵はそんな簡単に更新できる代物じゃない」
レオンは苦笑した。
「高価だからな」
「すごく高いぞ」
バルドが横から割り込む。
「本当に高い」
「領主様らしい意見ですね」
アリシアが小さく笑う。
「東方領主だからな!」
胸を張るバルドに皆が苦笑した。
だが事実だった。
機兵は特別だ。
誰でも持てるものではない。
誰でも乗れるものでもない。
魔力適性。
操縦技術。
戦闘経験。
すべてを満たした騎士だけが搭乗を許される。
機兵騎士。
それだけで英雄と呼ばれる世界だった。
リアもそれは知っている。
二年前、自分を騙した冒険者も機兵を所有していた。
だから強かった。
だから怖かった。
そして。
それをレンは一撃で破壊した。
今になって考えると、あれも随分と異常な光景だった気がする。
そして、森の家に個人であれだけの機兵を所有しているのも…
◇
次に案内されたのは神殿側の区画だった。
白と金。
ワーウルフとは全く違う空気を纏っている。
鋼鉄でありながら神々しさすら感じた。
「ビショップです」
アリシアが少し誇らしげに言う。
「神殿騎士団の主力機兵ですね」
リアは見上げる。
どこか見覚えがあった。
「あ……」
「どうしました?」
「少しだけ似てます」
「昔見た機兵に」
アリシアはすぐ理解した。
二年前の事件のことだ。
「元になった機体は同じ系統ですね」
「パワードという一般機兵です」
「ビショップはその発展型になります」
発展型。
そう言われてもリアには別物にしか見えなかった。
昔見た機体が村の礼拝堂なら。
こちらは王都の大聖堂だ。
装甲も。
紋章も。
意匠も。
何もかもが洗練されていた。
長い歴史と神殿の威光がそのまま形になったような機体だった。
「相変わらず派手だな」
レンが呟く。
「神殿ですので」
アリシアが微笑む。
「金かかってそうだ」
「レンさん?」
笑顔だった。
だが少し怖い。
レンは黙った。
◇
さらに奥へ進む。
すると格納庫の雰囲気が再び変わった。
ワーウルフやビショップが騎士ならば、こちらは兵器そのものだった。
並んでいる機体は細い。
居様なほど細い。
余計な装甲を削ぎ落としたような機体の背中には、
大型の魔法砲撃ユニットが幾重にも装着されている。
「なんだか他と雰囲気が違いますね」
リアが首を傾げる。
「ええ」
ミストが嬉しそうに頷いた。
「こちらはバンシーです」
「国営魔術学園所属の特殊機兵ですね」
「特殊機兵?」
「試作機と言った方が分かりやすいでしょうか」
ミストは愛おしそうに機体を見上げる。
「砲撃特化型です」
「火力と機動力に全てを振っています」
レンが眉をひそめた。
「見るからに防御考えてなさそうだな」
「そうですね。」
即答だった。
「近付かれたら終わりです」
「欠陥機じゃねぇか」
「近付かせないんです」
ミストは真顔だった。
レオンが苦笑する。
「実際、遠距離戦では脅威だ」
「王国にも代わりはない」
「でしょう?」
嬉しそうだった。
その横で。
ルウだけが別の場所を見ていた。
「どうした?」
レンが声を掛ける。
ルウは機体の脚部を指差した。
「軽量化しすぎてませんか?」
ミストが固まった。
「……え?」
「通常機兵より関節部の余裕が少ないです」
「重量配分を後ろに寄せてますよね?」
一瞬の沈黙。
そして。
ミストの目が輝いた。
「分かるの!?」
「やっぱりそうなんですか?」
「そうなのよ!」
研究者スイッチが入った。
「前型だと砲撃ユニットの重量で関節負荷が――」
「なるほど」
「だからここを再設計したんですね」
「その通り!」
完全に二人の世界だった。
リアには何を話しているのか分からない。
アリシアも途中で諦めた。
バルドなど最初から聞いていない。
「はっはっは!」
「あの改造魔と話の通じている子供初めて見たぞ!」
レオンも苦笑する。
「子供の感想など普通、武装や見た目で終わりそうなもんだ。」
「ルウだからな」
レンだけが妙に納得していた。
やがてミストはルウの肩を掴んだ。
「学園に来ませんか?」
「図書館ありますよ?」
「研究設備もあります」
「本も読み放題です」
勧誘だった。
しかも本気の。
ルウは困った顔をする。
「えっと……」
レンが即座に引き剥がした。
「まだ駄目だ」
「むぅ……」
本気で残念そうだった。
◇
そして格納庫最奥。
そこだけ空気が違った。
警備兵の数が増える。
整備員達の表情も引き締まる。
リアにも分かった。
ここから先が特別なのだと。
「さて」
レオンの声も少し変わる。
「本命だ」
最初に現れたのは赤黒の機体だった。
鋭く。
獰猛で。
戦場そのものを形にしたような存在感。
巨大な翼と剣を背負った竜騎士。
レオンはその前で立ち止まる。
普段より少しだけ柔らかな顔だった。
「グラムだ」
短い言葉だった。
だが相棒を紹介する男の顔だった。
「一点突破型」
「当たれば大抵終わる」
「雑な説明だなまぁ、有名な機体だし。」
レンが呆れる。
「分かりやすいだろう」
少しだけ笑うレオンは、どこか昔に戻ったようだった。
次に現れたのは深い青を纏う機体。
翼のような砲撃ユニット。
全身に配置された砲門。
幻想的ですらある。
「セラフィムです」
ミストが胸を張る。
「美しいでしょう?」
「まあな」
「性能も美しいんですよ?」
そこから説明が始まった。
長い。
誰も止めなかった。
止めても無駄だからだ。
最後。
褐色の重装甲を纏った機体。
緑色のラインが静かに発光している。
まるで要塞だった。
「ティラント」
バルドが機体の脚を叩く。
「俺の相棒だ」
「全部引き付ける」
「全部受ける」
「全部殴る」
「説明雑すぎるだろ」
「細かいことはいいんだ!」
豪快な笑い声が響く。
リアは三機を見比べた。
どれも凄い。
本当に凄い。
同じ人型なのに。
ワーウルフとも。
ビショップとも。
何かが違う。
説明は聞いた。
魔核機。
本物の魔核で動く伝説の機体。
現代では再現できない存在。
だから王国の切り札。
だから英雄機。
そして。
どことなく。
本当に少しだけ。
シルフィネやネストと近い空気を感じた。
理由は分からない。
ただ。
そう思った。
(でも)
リアは改めて三機を見る。
グラムも格好いい。
セラフィムも綺麗だ。
ティラントも頼もしい。
だが。
(やっぱりシルフィネちゃんが一番かわいいです)
結論は変わらなかった。
◇
元プレイヤー三人は満足そうだった。
自慢できた。
見せられた。
それだけで満足だった。
だが。
レンだけは腕を組んでいた。
少し離れた場所で。
ぼんやりと考え込んでいる。
「なあ」
その一言で。
三人の表情が少し引き締まった。
「本当にこのレイド勝てるよな?」
レオン。
ミスト。
バルド。
三人は顔を見合わせる。
資料に問題はない。
分析にも問題はない。
戦力も十分。
しかしその問いに即答できなかった。
レンがそういうのもしかたがない。
何もしなければ、この戦いで出ると予想される被害
犠牲になる人物を4人だけが知る。
4人は機兵を眺める白衣の少女を無言で目で追っていた。
【機体図鑑 No.008】
ビショップ(Bishop)
■基本データ
分類 汎用機兵
ランク RR
フレーム タイプ・グラディウス
全高 約 5.0m
カラー 白銀×金
役割 防御支援・戦線維持
操縦者 神殿騎士団・聖堂守護隊
★機体概要
パワードを神殿騎士仕様に改修した機体。
重装甲と結界補助機能を備えており、
味方部隊の防御と戦線維持を目的として設計されている。
攻撃性能は平均的だが、
結界展開と防御能力に優れ、
集団戦において絶大な安定感を発揮する。
神殿の加護を受けた聖騎士機として、
魔獣討伐や都市防衛などで活躍している。
白銀×金の意匠で豪華で神聖に見える
読んでいただきありがとうございます。
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