プロローグ 第5話
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
機兵が轟音とともに近付いてくる。
重い足音が森を震わせた。
一体ではない。
三体。
鋼鉄の巨人。
機兵だった。
新人冒険者が勝てる相手ではない。
いや。
上級冒険者でも正面から戦えば危険だ。
それが機兵だ。
王国の戦力。
人を超える兵器。
圧倒的な存在感を前に。
リアの身体は動かなかった。
男達が笑う。
「諦めろ」
「痛くしねぇよ」
「商品だからな」
「大人しくしてりゃ済む」
余裕だった。
当然だ。
機兵が三体。
相手は冒険者二人。
勝負にすらなっていない。
先頭の機兵が鉄剣を持ち上げる。
二機目が回り込む。
三機目が退路を塞いだ。
完全包囲だった。
リアは唇を噛む。
終わった。
そう思った。
◇
「ネスト」
レンが呟く。
静かな声だった。
誰にも聞こえないほど小さい。
だが。
次の瞬間。
空間が割れた。
パキッ。
ガラスが砕けるような音。
男達の笑い声が止まる。
リアも目を見開いた。
目の前の空間が歪んでいる。
黒い亀裂。
そこから光が漏れる。
「な……」
この場の誰もが言葉を失った。
そして。
ゆっくりと。
黒い騎士が現れた。
漆黒の装甲。
銀色のライン。
人型。
だが機兵とは違う。
美しかった。
威圧感があった。
まるで王だ。
森に現れた異形の騎士。
リアは息を忘れた。
◇
「何だあれ……」
「新型か?」
「関係ねぇ!」
機兵の操縦者が叫ぶ。
「三機で潰せ!」
機兵が動く。
三方向から同時攻撃。
機兵相手の定石。
回避不能の包囲攻撃。
だが。
黒い騎士が消えた。
「は?」
誰かが呟く。
轟音。
一機目の胸部装甲が吹き飛んだ。
鋼鉄片が森へ散る。
操縦席ごと貫通。
機兵が後方へ吹き飛ぶ。
二機目が剣を振る。
振り抜けない。
首が無かった。
巨大な頭部が宙を舞う。
数秒遅れて胴体が崩れ落ちた。
三機目が後退る。
操縦者は理解した。
勝てない。
本能が叫んでいた。
だが。
遅い。
黒い影が通過する。
次の瞬間。
両腕が宙を舞った。
続いて胸部装甲が陥没する。
機兵が膝をつく。
そして倒れた。
森が揺れる。
三機。
わずか数秒。
それだけだった。
沈黙。
リアは理解できない。
機兵が。
鋼鉄の巨人が。
三機まとめて破壊された。
傷一つ付けることもなく。
男達の顔から血の気が引いた。
「ば、馬鹿な……」
「機兵が……」
「三機とも……?」
一人が武器を落とす。
もう一人が後退る。
そして。
誰かが叫んだ。
「逃げろ!」
男達が散る。
蜘蛛の子を散らすように。
戦意など残っていなかった。
◇
「魔核機……?」
リアは呟いた。
信じられない。
そんなものが存在するはずがない。
伝説だ。
王国最強機グラム。
大魔導機セラフィム。
辺境伯のティラント。
そのどれもが。
魔核機ではないかと噂されている。
だが。
誰も本物を知らない。
それが今。
目の前にいる。
黒い騎士の瞳が赤く光った。
『敵対行動を確認』
静かな声。
『主への攻撃を確認』
リアの背筋が震える。
『排除します』
◇
操縦席が開く。
中から男が飛び出した。
奴隷商人達の首領。
街では英雄と呼ばれていた冒険者だった。
男は地面へ転がる。
「待て!」
必死だった。
「金なら払う!」
「貴族も紹介できる!」
「俺を殺すな!」
レンが近付く。
男を見下ろす。
感情は無い。
怒りも無い。
ただ。
少しだけ疲れた顔だった。
「何人売った?」
男が黙る。
「何人売った?」
もう一度聞く。
男は震えた。
「知らねぇ……」
「数えてねぇ……」
沈黙。
リアは見ていた。
レンが怒っている。
初めて分かった。
静かな怒りだった。
「そうか」
レンは言った。
そして背を向ける。
「ネスト」
『了解しました』
男が絶叫した。
「待てぇぇぇぇ!」
その声は途中で途切れた。
リアは目を閉じる。
◇
数秒後。
森は静かになった。
レンは振り返らない。
興味も無い。
終わったことだった。
代わりに。
壊れた機兵へ歩いて行く。
目が輝いていた。
「おお」
リアが呆然とする。
「部品残ってるじゃん」
レンは嬉しそうだった。
「え?」
「これは使えるな」
一機目を見る。
「胸部は駄目か」
二機目を見る。
「頭部センサー残ってるな」
三機目を見る。
「おお、関節生きてる」
完全に楽しそうだった。
さっきまで人身売買組織と戦っていた男とは思えない。
リアは混乱した。
「な、何してるんですか?」
「回収」
即答だった。
「回収?」
「賠償金」
指を折る。
「誘拐未遂」
一本。
「拘束」
二本。
「精神的苦痛」
三本。
「俺の休日」
四本。
リアは思った。
最後がおかしい。
だが突っ込む気力は無かった。
レンは機兵を見ている。
本当に嬉しそうだった。
「三機分か」
しみじみ呟く。
「大黒字だな」
満足げだった。
◇
夕方。
森へ帰る。
レンは荷車を引いていた。
後ろには壊れた機兵三機分の部品。
武器。
金貨袋。
戦利品の山。
リアはその後ろを歩いている。
未だに頭が整理できない。
そして。
とうとう聞いた。
「あなた……何者なんですか?」
レンは考える。
本気で考える。
しばらく悩んで。
「冒険者?」
自信なさそうに答えた。
リアは何も言えなかった。
その横で。
黒い騎士が静かに告げる。
『違います。たまに冒険者です。』
「ひどくない?」
レンが振り返る。
黒い騎士は無言だった。
リアは空を見上げた。
夕焼けだった。
そして思う。
自分は。
とんでもない人に助けられてしまったのかもしれない。
そうして。
森のおっさんとの出会いは始まった。
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