第十四話 工房の灯り
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
春になってからというもの、森の家はどこか慌ただしかった。
畑では新しい作物の植え付けが始まり、薬草畑も収穫の時期を迎えている。
南部都市との往復も増えた。
神殿の建設準備。
巡礼者の増加。
復興事業。
気付けば皆が忙しくなっていた。
そんな中で、リアには一つ気になることがあった。
レンである。
最近やたらと工房に籠っているのだ。
夜になると工房の灯りだけが最後まで残っている。
元々物作りは好きな人だ。
だが今回は少し様子が違う。
何かを隠している。
そんな気配があった。
「レンさん」
「何だ」
「最近工房に籠ってませんか?」
食卓で聞いてみる。
レンは普通に食事を続けている。
「そうか?」
「そうです」
ルウも頷く。
「夜も灯りがついてます」
「ついてるな」
否定しない。
リアはますます怪しいと思った。
リアが視線を送ると
視界の端でトトがびくりと肩を震わせた。
怪しい。
非常に怪しい。
「トト君」
「何でしょう」
「何か知ってますね?」
「知りません」
かぶせ気味に即答した。
だが目が泳いでいる。
「知ってますね」
「知ってますね」
リアとルウが同時に言った。
トトは観念したように肩を落とした。
「秘密です」
全く隠せていないが。
◇
その日の夜。
工房。
外では春の虫が鳴いている。
レンは机の上に広げた設計図を眺めていた。
隣ではトトが工具を整理している。
「カイルは守る方が得意そうだ。」
レンが言った。
「ですね」
トトも頷く。
一緒に暮らしてる誰よりも優しく
誰かが困っていれば必ず前に出る
損得で動く人間ではない
奴隷を経験したからか
自分が助けられたからなのか
弱い立場の人がいたら
守ることが当たり前になっている。
「速さはいらん」
「硬さです」
「だな」
紙の上に線が走る。
重装甲。
大型盾。
頑丈な脚部。
どんな攻撃でも受け止める守護者。
まるで神殿騎士そのものだった。
「トレント?なんですそれ」
「こいつの武装だな。」
「盛りますね~」
「少しだ」
「その少しが怖い」
二人はのりのりだった。
何だかわからないが、もっと盛りたいらしい。
◇
次の設計図へ視線を移す。
マル用だった。
レンは少し笑う。
マルは昔から変わらない。
戦うより作る方が好きな人間だ。
妖精王像を作った時もそうだった。
誰かに褒められたいわけではない。
有名になりたいわけでもない。
ただ良い物を作りたい。
それだけだった。
だからこそ。
今では町の象徴になっていることを
本人だけが理解していない。
「マル兄ならこれですね」
トトが描いた設計図を見せる。
奇妙な機体だった。
戦う気が全くない。
巨大な荷台。展開式コンテナ。
工具収納。簡易クレーン。
農具。建築道具。運搬機能。
何でも詰め込まれている。
この世界の機兵は戦いが前提の物だけだ。
これは元の世界でいう重機に近い。
「これは発想がすごいな。」
「そうですか?便利だと思って。」
トトは即答した。
「運ぶんです」
「そうか」
レンは頷いた。
確かにマルらしい。
本人は大型魔獣討伐より荷物を運んでいる方が喜びそうだった。
◇
三枚目。
シーナ用。
しかし設計図は真っ白だった。
「どうします?」
トトが聞く。
レンは少し考える。
シーナの顔が浮かんだ。
冷静で。
頭が良くて。
気付けば周囲の大人達を動かしている。
本人は無自覚だが。
たぶんあの三人の中で一番恐ろしい。
最近始めた仕事紹介所もそうだ。
まだ小さな屋台一つ。
それでも。
浮浪者に仕事を繋ぎ。
神殿と協力し。
町を少しずつ変えている。
たぶん将来、もっと大きなことをやる。
「あいつに機兵は必要ないな。」
「本人も嫌がる」
「おそらくすぐに換金しそう…」
これも一致だった。
シーナが狩りや現場作業をする想像ができない。
だが後方からなら大勢を動かせる。
「なら補佐だ」
レンは工房の隅を見る。
そこにはノアがいた。
ふわふわと浮いている。
『視線を確認』
「妹を作るか」
『妹?』
ノアが反応する。
トトも反応する。
「妹ですね」
「妹だな」
『妹』
何故か満場一致だった。
◇
翌日。
工房から爆発音が響いた。
ドォン。
静寂。
しばらくして扉が開く。
真っ黒になったトトが出てきた。
「失敗しました」
リア達は慣れていた。
「何をですか?」
「秘密です」
秘密になっていない。
むしろ答え合わせだった。
◇
夜。
皆が寝静まった後。
工房の灯りだけが残っていた。
レンは設計図を見つめる。
ユグドラン。
ホビット。
そして疑似ノア。
まだ誰にも見せていない未来たち。
その時が来るまでは渡せない。
ふと窓の外を見る。
森の家。
賑やかな声。
子供達の笑顔。
いつの間にか増えた家族。
でも、もうすぐ巣立っていく子供達。
レンは元々誰かを育てるつもりでここへ来たわけではない。
気付けばそうなっていた。
それだけだ。
それでも。
最後くらいは何か残したいと思った。
「餞別だな」
小さく呟く。
するとノアが反応した。
『親心と判断』
「違うな」
『否定を確認』
『親心と再判定』
「違うと言ってるだろ」
『言い訳の成功率0.3%』
レンはため息を吐いた。
勝てる気がしなかった。
工房の灯りは、その夜も遅くまで消えなかった。
【機体図鑑 No.005】
シルフィネ(Sylphine)
■基本データ
分類 魔核機
ランク S
フレーム タイプ・フェアリー
全高 5.0m
カラー 白銀×翡翠
役割 斥候・飛行移動
能力 高速飛行・(リア搭乗時特殊能力あり)
操縦者 リア
★機体概要
手に入れたフレームからレンがセカンド機として作った妖精型魔核機。
レンがリアに取られた空の旅専用機。
花弁を思わせる外装と翡翠色の光翼を持ち、
驚異的な機動性能と飛行能力をもつ。
リアの搭乗により、本来の性能とかけ離れた実力を出すことがある。
読んでいただきありがとうございます。
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