第九話 空飛ぶ散歩
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。好きなものを全部詰め込みました。
アリシア達が森の家へ到着してからしばらく後。
神殿騎士達は未だに落ち着きを取り戻せずにいた。
生い茂る薬草畑。
見たことがないものが雑多にある工房らしき小屋。
清流が流れる水路。
明かりの灯り続ける母屋。
巨大な結界。
どれも常識の範囲外だった。
特に工房は気になった。
森の家を支える技術の中心。
そんな場所を見逃すわけにはいかない。
「工房を見ますか?」
リアが尋ねる。
その瞬間だった。
「見ますか!?」
奥から飛び出してきたのはトトだった。
目が輝いている。
何かを見せたくて仕方がないようだ。
「見ますよね!?」
「トト」
リアが苦笑する。
「朝から待ってました」
「だってアリシア様が来るんですよ!」
トトは隠そうともしていなかった。
レンは思う
(俺の工房なんだがな……)
褒めてほしいのである。
工房へ案内されたアリシア達は
大きな布が掛けられた何かの前に
案内される。
◇
トトが胸を張る。
「では!」
勢いよく布を引く。
神殿騎士達が息を呑んだ。
「これは……」
美しかった。
銀と緑を基調とした流麗な装甲。
鋭さよりも優雅さを感じさせる輪郭。
森の妖精を思わせる意匠。
戦うための兵器というより。
芸術品だった。
「綺麗……」
アリシアが思わず呟く。
トトの顔が一気に明るくなる。
さも、自分が作ったような顔だ。
「でしょう!」
その瞬間。
「私のです!」
リアが胸を張った。
「違うぞ」
後ろからレンの声が飛ぶ。
「俺のだぞ?」
「今は私のです」
「勝手にいってるだけだろ」
「貰いました」
「貰ってない」
いつものやり取りらしい。
トトも頷いた。
「今はリア姉のです」
「お前もか」
レンが本気で嫌そうな顔をした。
神殿騎士達は何とも言えない顔になる。
どう見ても高価な機体だった。
それを子供達が取り合っている。
感覚がおかしい。
「名前は何というのですか?」
アリシアが尋ねる。
「シルフィネです」
リアが誇らしげに答えた。
アリシアはもう一度機体を見る。
確かに似合っている。
森の妖精。
風をイメージさせる意匠。
女性的な女神のような姿。
そんな印象だった。
するとトトが得意げに言った。
「しかもですね」
嫌な予感しかしない。
「飛びます」
沈黙。
「飛ぶ?」
アリシアが聞き返す。
「飛びます」
「機兵ですよね?」
「機兵です」
リアが答える。
「機兵です」
トトも答える。
「機兵だな」
レンまで答えた。
神殿騎士達が顔を見合わせる。
「機兵は飛びません」
「そうですね」
神官も頷く。
「飛びません」
「でも飛びます」
トトは真顔だった。
「飛びません」
「飛びます」
「飛びません」
「飛びます」
話が進まない。
そのやり取りを見ていたレンが面倒そうに言った。
「高性能なだけだ」
「飛んでいる時点で高性能の範囲を超えていると思いますが」
神官の反論はもっともだった。
だがレンは聞いていない。
聞きたくないのだろう。
「乗りますか?」
リアが笑った。
「乗れるんですか?」
アリシアの目が少し輝く。
神殿騎士達は青ざめた。
「駄目です」
「危険です」
「却下です」
三方向から反対が飛ぶ。
「大丈夫です」
リアは即答した。
「落ちません」
「そういう問題ではありません」
しかし。
結局。
押し切られた。
◇
シルフィネが静かに起動する。
淡い光が装甲を走る。
そして。
ゆっくりと浮かび上がった。
「飛んだ……」
神官が呟く。
「飛びましたね」
アリシアも呟く。
「飛びましたねじゃありません!」
神殿騎士の悲鳴が響いた。
だがシルフィネは安定していた。
両手にはトトが作ったバケットが
持たされているように装着されている。
資材運搬用。
そして、トト曰く。
「空中散歩用です」
アリシアと護衛の騎士一人が乗り込む。
リアが操縦席へ入った。
シルフィネは静かに上昇する。
森が遠ざかる。
畑が小さくなる。
山々が見える。
春の風が心地よく吹きぬける。
アリシアは思わず息を呑んだ。
「綺麗……」
寒波に覆われたはずの世界が
嘘のように美しく見えた。
森は緑を取り戻し。
川は輝いている。
南部の町の孤児院も見える。
その中心で。
シルフィネは静かに空を舞っていた。
上方には操縦席に見えるリア。
新緑と銀色の機体。
春の光。
風に揺れる髪。
その姿を見た瞬間。
アリシアは一瞬だけ目を見開いた。
まるで。
神話に描かれる聖女のようだった。
世界に祝福されているような。
そんな錯覚。
思わず声をかける。
「リアさん?」
「どうしました?」
振り返った少女はいつものリアだった。
少し元気で。
少し無鉄砲で。
友達のリアだ。
アリシアは小さく笑った。
「なんでもありません」
きっと気のせいだろう。
そう思うことにした。
◇
一方。
隣の神殿騎士は別の意味で限界だった。
「高い!」
「高いです!」
「降ろしてください!」
その悲鳴は地上まで響いていた。
下ではトトが満足そうに腕を組んでいた。
「成功です」
「何がだ」
レンが聞く。
「観光事業です」
「やめろ」
レンは即答した。
だがトトは全く諦めていなかった。
よくファンタジー作品で、体より大きいバスケットを持って飛ぶ妖精のイメージです。
本当にあったら私は乗りません(笑)
読んでいただきありがとうございます。
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