第八話 聖女の休日
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
神殿本部。
執務机の引き出しを開いたアリシアは、小さく微笑んだ。
中に入っていたのは薬草を押し花にした栞だった。
手作りだ。
以前、リアから貰ったものだった。
『また遊びに来てくださいね』
別れ際の言葉を思い出す。
寒波の後。
孤児院の視察で出会った少女。
立場も境遇も違う。
それなのに不思議と話しやすかった。
友達。
そう呼べる相手は多くない。
聖女として扱われることはあっても、一人の少女として接してくれる人間は少ないのだ。
「よし」
アリシアは立ち上がった。
「今日は遊びに行きましょう」
◇
翌日。
南の森入口。
アリシアは神殿騎士二名と神官一名を伴っていた。
私的な訪問だ。
本来ならもっと大人数になる。
だがアリシアが断固として拒否した。
友人宅へ遊びに行くだけで大行列を作るのは違うと思ったのだ。
しかし。
護衛達の表情は非常に硬い。
「本当にこの先なのですか?」
神殿騎士の一人が尋ねた。
「はい」
アリシアは頷く。
「リアさんのお家です」
「そうですか……」
騎士の顔は全く安心していない。
むしろ悪化していた。
「何か問題がありますか?」
アリシアが首を傾げる。
神官が苦笑した。
「アリシア様」
「はい」
「ここは上級魔獣の生息域です」
「あ」
言われて思い出した。
そうだった。
森の家という印象が強くて忘れていた。
ここは普通の森ではない。
「リアさん達、よく住んでいますよね」
「そこが一番怖いんですよ」
神官が真顔で言った。
◇
森へ入る。
木々が頭上を覆う。
人の気配はない。
静かだった。
静か過ぎた。
◇
その時。
「止まってください」
騎士が声を上げた。
全員が足を止める。
森の奥。
巨大な影が見えた。
熊に似ている。
だが大きさが違う。
三メートル以上はある。
「いましたね……」
アリシアが小さく呟く。
「いましたね……じゃありません」
騎士が青い顔で言った。
「あれは上級魔獣です」
「そうなんですか」
「そうなんです」
武器が抜かれる。
緊張が走る。
だが。
魔獣は近付いて来なかった。
何かに阻まれるように立ち止まる。
唸る。
しかし前へ出られない。
やがて森の奥へ去っていった。
沈黙。
「何故、見逃されたのでしょう・・」
◇
「わかりません・・・」
神官が困惑している。
さらに進む。
今度は空だった。
飛竜型の魔獣が旋回している。
「うわぁ……」
アリシアが思わず声を漏らした。
飛竜もまた。
一定距離から近付こうとしない。
◇
まるで。
見えない壁が存在するように。
「これは・・結界です」
神官が断言した。
◇
「間違いありません」
「凄いですね・・魔物が寄ってこないなんて・・」
アリシアは術式に詳しくない。
神官と騎士が顔を見合わせた。
「凄いどころではありません」
「少なくとも私は見たことがありません」
「私もです」
神殿本部所属の人間が揃ってそう言った。
アリシアも少し不安になる。
(リアさん、本当にどこに住んでいるんですか……?)
◇
やがて。
木々が途切れた。
全員が足を止める。
「え?」
最初に声を漏らしたのはアリシアだった。
畑。
薬草畑。
家畜小屋。
倉庫。
工房。
住居。
水路。
森の中とは思えない光景が広がっている。
「リアさん」
アリシアは呆然と呟く。
「家があるとは聞いていましたけど……」
「これは家なんでしょうか……?」
神殿騎士が頷いた。
「私も聞きたいです」
神官も固まっている。
「開拓村ではありません」
「砦でもありません」
「ですが」
「敷地全体が集落の様な整い方で」
視線があちこちへ向く。
農地。
備蓄。
生産設備。
防衛設備。
薬草栽培。
全てが揃っていた。
「これが……」
神官が呟く。
「アリシア様が支援を決められた子たちの住む場所・・」
寒波後。
孤児院支援。
物資支援。
神殿協力。
◇
全てアリシアの決裁だった。
「正直」
神官が続ける。
「過剰だと思っていました」
「ですが」
騎士が言葉を継ぐ。
「今なら分かります」
「これだけの生活技術を持つ地に住む主達なら。」
「奇跡を起こした神の子と言われても不思議はない。」
「つながりは必要と思います。」
辺りに広がる光景をみてアリシアの興味も大きくなる。
アリシアは少し嬉しくなった。
◇
その時だった。
『来客を確認』
どこからともなく声が響く。
神殿騎士達が警戒して一斉に武器を抜いた。
「誰だ!」
『敵意を確認できません』
「しゃべった!?」
神官まで驚いている。
アリシアは苦笑した。
「ノアさんです」
「ノアさん?」
余計に分からない。
『アリシア来訪を確認』
『歓迎します』
その直後。
◇
「アリシアさん!」
家の方からリアが飛び出してきた。
満面の笑みだった。
その姿を見た瞬間。
アリシアは心から安心した。
よかった。
本当にいた。
ここまで来る途中で見たものがあまりにも現実離れしていたのだ。
「こんにちは」
「来てくれたんですね!」
「約束しましたから」
リアが嬉しそうに笑う。
その後ろから。
一人の男が現れた。
作業着姿。
土の付いた手。
どこにでもいそうな男。
◇
その後ろから現れた少女を見て、レンは少しだけ目を見開いた。
栗色の髪。
白い神官服。
柔らかな笑顔。
見覚えがあった。
アリシアだった。
ゲーム時代の推し。
何度もイベントを追いかけた聖女。
その本人が、
当たり前のようにリアの隣で笑っている。
レンは数秒だけ言葉を失った。
(……すげぇな、リア)
◇
神殿騎士達は固まった。
(この人が?)
結界の主。
森の家の管理者。
妖精王事件の関係者。
想像していた人物像と違い過ぎた。
「どうぞ」
男はそう言って椅子を用意した。
神殿騎士達は。
目の前の男と。
背後に広がる異常な拠点を。
何度も見比べることになった。
そして全員が同じことを考えていた。
(本当にこの人なのか?召使とか?)
と。
【機体図鑑 No.002】
セラフィム(Seraphim)
■基本データ
分類 魔核機
ランク SS
フレーム タイプ・アークメイジ
全高 約 5.0m
カラー 蒼銀×紫紺
役割・能力 遠距離制圧・広域殲滅
操縦者 ミスト
★機体概要
天使を思わせる外装と、多数の魔導浮遊ユニットを備えた
高出力魔導戦特化型魔核機。
圧倒的な魔力出力を活かした広範囲攻撃を得意とし、
戦場全体を支配するほどの火力を誇る。
多数の魔法陣と浮遊砲台を同時制御することで、
敵集団を一方的に殲滅することが可能。
転移プレイヤーの一人、大魔導士ミストの愛機。
読んでいただきありがとうございます。
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