第二十話 妖精王の奇跡
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
冬の終わりまで残り十四日。
その日は朝から空の色がおかしかった。
灰色だった雲は昼頃には黒く変わり、風は唸り声のような音を立てていた。
南辺境都市では既に避難が始まっている。
だが避難すると言っても行き先がない。
貴族は逃げた。
領主は捕まった。
街の備蓄は尽きかけている。
人々は不安を抱えながら空を見上げていた。
そして。
スラム地区では既に最初の犠牲者が出ていた。
◇
「間に合わない……」
カイルは唇を噛んだ。
仮設避難所の建設は進んでいる。
ネストで運んだ仮設コンテナは
全員を収容はできなかった。
シーナは物資管理を担当している。
レオは避難誘導。
ルウは簡易診療所の準備。
全員が全力だった。
だが寒波の方が早い。
空から降り始めた雪を見ながらカイルは拳を握る。
悔しかった。
あと少し。
あと少し時間があれば。
もっと助けられるのに。
『警告』
ノアの声が響いた。
『寒波前線到達』
『予測時刻を修正』
『本日深夜』
その場の空気が凍る。
予定より三日も早い。
「そんな……」
シーナの顔が青ざめた。
マルも動きを止める。
レオは空を見上げた。
風が強い。
嫌な予感しかしない。
◇
その頃。
森の奥。
ネスト内部。
レンは静かに計器を見つめていた。
『被害予測更新』
ノアの声が流れる。
『現状維持の場合』
『南辺境都市死者数推定』
『二千三百二十四名』
レンは目を閉じた。
数字だけなら珍しくない。
ゲーム時代ならもっと酷いイベントもあった。
だが今は違う。
ここはゲームではない。
死ねば終わりだ。
しばらく沈黙。
やがて。
レンは深いため息を吐いた。
「やるか」
ノアが答える。
『了解』
◇
その夜。
南辺境都市は地獄だった。
吹雪。
暴風。
視界不良。
家屋の倒壊。
泣き叫ぶ子供達。
震える老人達。
人々は必死に身を寄せ合っていた。
終わりだ。
そう思った者も多い。
その時だった。
空が光る。
誰かが叫んだ。
「空を見ろ!」
全員が顔を上げる。
吹雪の向こう。
巨大な影があった。
黒い巨人。
いや。
それだけではない。
その背中から無数の光が広がっている。
羽だった。
黄金色の巨大な羽。
夜空そのものを覆うほどの大きさ。
◇
避難コンテナ内部。
カイル達は壁面モニター越しにその光景を見ていた。
誰も言葉を失う。
「なんだよ……あれ」
レオが呟く。
リアは静かに空を見上げていた。
知っている。
あれがネストだ。
だが。
知っていても理解できない。
巨大すぎた。
美しすぎた。
神話そのものだった。
◇
ネスト内部。
レンは操縦席に座っている。
全身を流れる膨大な魔力。
普通の人間なら意識を失う。
だがレンは慣れていた。
『結界展開開始』
ノアが告げる。
ネストの背中から放たれた光が空へ広がる。
結界。
それは本来、人一人を守るための技術だった。
家を守る。
仲間を守る。
そういう力だ。
だからレンはずっと考えていた。
もっと大きく出来ないか。
もっと広げられないか。
もっと守れないか。
誰もやらなかった。
だから自分でやった。
ただそれだけだった。
『広域結界接続』
『成功』
『対象区域保護開始』
光が降り注ぐ。
街を覆う。
スラムを覆う。
避難所を覆う。
人々を覆う。
雪が消える。
風が弱まる。
凍えるような寒さが和らぐ。
◇
一人の老人が空を見上げていた。
涙を流している。
「助かった……」
その言葉が広がる。
「助かった」
「生きられる」
「神様だ」
「違う」
「妖精王様だ」
誰が言い始めたのか分からない。
だが。
その呼び名は瞬く間に広がった。
光の羽。
空飛ぶ巨人。
街を守る奇跡。
人々はそれを妖精王の御業だと信じた。
◇
避難所。
神殿の馬車が到着する。
降りてきたのは聖女アリシアだった。
吹雪の中を進んできたはずなのに。
彼女の目の前には信じられない光景が広がっている。
避難民。
炊き出し。
仮設住宅。
そして。
光に守られた街。
「これは……」
言葉が出ない。
神官達も固まっていた。
その時。
「次の毛布運びます!」
声が響く。
振り向いた先にはカイルがいた。
泥だらけになりながら走っている。
その横ではシーナが物資管理を行い。
マルが建築作業を指揮している。
まだ子供だった。
だが誰よりも働いていた。
アリシアは思わず立ち尽くす。
神殿が出来なかった事を。
この子達はやっている。
助けられる側だと、思っていた年端も行かない子供達が。
今は子供も大人も関係なく助ける側になっている。
◇
吹雪が収まった頃。
ネストは静かに森へ帰還していた。
誰にも見つからないように。
誰にも知られないように。
レンは大きく伸びをする。
「疲れた」
『お疲れ様です』
ノアが答えた。
「もうやりたくねぇ」
『次回もあります』
「聞かなかったことにする」
レンはそう言いながら席を立つ。
窓の向こうでは夜明けが近付いていた。
◇
その日。
南辺境都市では一つの噂が生まれた。
妖精王が現れた。
光の羽で街を守った。
神獣だった。
御使いだった。
いや。
本当に妖精王だった。
誰も真実を知らない。
だが。
その奇跡によって救われた命は確かに存在した。
そして後に。
この寒波事件は王国史にこう記される。
――妖精王の奇跡。
その名が。
初めて歴史に刻まれた日である。
第一章 完
読んでいただきありがとうございます。
面白かったら評価、ブックマークで応援していただけると嬉しいです。




