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第二十話 妖精王の奇跡

ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。


機兵、遺跡、秘密基地。


好きなものを全部詰め込みました。


 冬の終わりまで残り十四日。


 その日は朝から空の色がおかしかった。


 灰色だった雲は昼頃には黒く変わり、風は唸り声のような音を立てていた。


 南辺境都市では既に避難が始まっている。


 だが避難すると言っても行き先がない。


 貴族は逃げた。


 領主は捕まった。


 街の備蓄は尽きかけている。


 人々は不安を抱えながら空を見上げていた。


 そして。


 スラム地区では既に最初の犠牲者が出ていた。



「間に合わない……」


 カイルは唇を噛んだ。


 仮設避難所の建設は進んでいる。


 ネストで運んだ仮設コンテナは


 全員を収容はできなかった。


 シーナは物資管理を担当している。


 レオは避難誘導。


 ルウは簡易診療所の準備。


 全員が全力だった。


 だが寒波の方が早い。


 空から降り始めた雪を見ながらカイルは拳を握る。


 悔しかった。


 あと少し。


 あと少し時間があれば。


 もっと助けられるのに。


『警告』


 ノアの声が響いた。


『寒波前線到達』


『予測時刻を修正』


『本日深夜』


 その場の空気が凍る。


 予定より三日も早い。


「そんな……」


 シーナの顔が青ざめた。


 マルも動きを止める。


 レオは空を見上げた。


 風が強い。


 嫌な予感しかしない。



 その頃。


 森の奥。


 ネスト内部。


 レンは静かに計器を見つめていた。


『被害予測更新』


 ノアの声が流れる。


『現状維持の場合』


『南辺境都市死者数推定』


『二千三百二十四名』


 レンは目を閉じた。


 数字だけなら珍しくない。


 ゲーム時代ならもっと酷いイベントもあった。


 だが今は違う。


 ここはゲームではない。


 死ねば終わりだ。


 しばらく沈黙。


 やがて。


 レンは深いため息を吐いた。


「やるか」


 ノアが答える。


『了解』



 その夜。


 南辺境都市は地獄だった。


 吹雪。


 暴風。


 視界不良。


 家屋の倒壊。


 泣き叫ぶ子供達。


 震える老人達。


 人々は必死に身を寄せ合っていた。


 終わりだ。


 そう思った者も多い。


 その時だった。


 空が光る。


 誰かが叫んだ。


「空を見ろ!」


 全員が顔を上げる。


 吹雪の向こう。


 巨大な影があった。


 黒い巨人。


 いや。


 それだけではない。


 その背中から無数の光が広がっている。


 羽だった。


 黄金色の巨大な羽。


 夜空そのものを覆うほどの大きさ。



 避難コンテナ内部。


 カイル達は壁面モニター越しにその光景を見ていた。


 誰も言葉を失う。


「なんだよ……あれ」


 レオが呟く。


 リアは静かに空を見上げていた。


 知っている。


 あれがネストだ。


 だが。


 知っていても理解できない。


 巨大すぎた。


 美しすぎた。


 神話そのものだった。



 ネスト内部。


 レンは操縦席に座っている。


 全身を流れる膨大な魔力。


 普通の人間なら意識を失う。


 だがレンは慣れていた。


『結界展開開始』


 ノアが告げる。


 ネストの背中から放たれた光が空へ広がる。


 結界。


 それは本来、人一人を守るための技術だった。


 家を守る。


 仲間を守る。


 そういう力だ。


 だからレンはずっと考えていた。


 もっと大きく出来ないか。


 もっと広げられないか。


 もっと守れないか。


 誰もやらなかった。


 だから自分でやった。


 ただそれだけだった。


『広域結界接続』


『成功』


『対象区域保護開始』


 光が降り注ぐ。


 街を覆う。


 スラムを覆う。


 避難所を覆う。


 人々を覆う。


 雪が消える。


 風が弱まる。


 凍えるような寒さが和らぐ。



 一人の老人が空を見上げていた。


 涙を流している。


「助かった……」


 その言葉が広がる。


「助かった」


「生きられる」


「神様だ」


「違う」


「妖精王様だ」


 誰が言い始めたのか分からない。


 だが。


 その呼び名は瞬く間に広がった。


 光の羽。


 空飛ぶ巨人。


 街を守る奇跡。


 人々はそれを妖精王の御業だと信じた。



 避難所。


 神殿の馬車が到着する。


 降りてきたのは聖女アリシアだった。


 吹雪の中を進んできたはずなのに。


 彼女の目の前には信じられない光景が広がっている。


 避難民。


 炊き出し。


 仮設住宅。


 そして。


 光に守られた街。


「これは……」


 言葉が出ない。


 神官達も固まっていた。


 その時。


「次の毛布運びます!」


 声が響く。


 振り向いた先にはカイルがいた。


 泥だらけになりながら走っている。


 その横ではシーナが物資管理を行い。


 マルが建築作業を指揮している。


 まだ子供だった。


 だが誰よりも働いていた。


 アリシアは思わず立ち尽くす。


 神殿が出来なかった事を。


 この子達はやっている。


 助けられる側だと、思っていた年端も行かない子供達が。


 今は子供も大人も関係なく助ける側になっている。



 吹雪が収まった頃。


 ネストは静かに森へ帰還していた。


 誰にも見つからないように。


 誰にも知られないように。


 レンは大きく伸びをする。


「疲れた」


『お疲れ様です』


 ノアが答えた。


「もうやりたくねぇ」


『次回もあります』


「聞かなかったことにする」


 レンはそう言いながら席を立つ。


 窓の向こうでは夜明けが近付いていた。



 その日。


 南辺境都市では一つの噂が生まれた。


 妖精王が現れた。


 光の羽で街を守った。


 神獣だった。


 御使いだった。


 いや。


 本当に妖精王だった。


 誰も真実を知らない。


 だが。


 その奇跡によって救われた命は確かに存在した。


 そして後に。


 この寒波事件は王国史にこう記される。


 ――妖精王の奇跡。


 その名が。


 初めて歴史に刻まれた日である。


 第一章 完


読んでいただきありがとうございます。


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