表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
25/44

第十九話 ネスト

ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。


機兵、遺跡、秘密基地。


好きなものを全部詰め込みました。

 冬まで残り十七日。


 朝から冷たい風が吹いていた。


 森の木々は葉を落とし始め、空もどこか灰色がかっている。


 誰の目にも分かった。


 もう時間が無い。


 寒波は確実に近付いている。


 食堂にはいつもの面々が集まっていた。


 机の上には帳簿。


 地図。


 資材一覧。


 そして避難計画。


 ここ数日、毎日のように続けている会議だった。


 だが結果は変わらない。


 足りない。


 何もかもが足りない。


「木材が足りない」


 マルが言う。


「お金も足りません」


 シーナが続く。


「人手もだな」


 レオが頭を掻いた。


 カイルは黙ったまま地図を見つめていた。


 助けたい。


 だが現実は厳しい。


 その時だった。


『提案があります』


 ノアが言った。


 全員の視線が向く。


『第二計画への移行を推奨します』


 静まり返る食堂。


 聞き覚えのある言葉だった。


 以前も聞いた。


 だが詳細は聞いていない。


「第二計画って何ですか?」


 カイルが尋ねる。


 ノアは答えない。


 代わりに首をレンへ向けた。


 全員の視線も集まる。


 レンは黙ったままお茶を飲んでいた。


「レンさん?」


 リアが呼ぶ。


 しばらく沈黙。


 やがてレンはため息を吐いた。


「あーもう、やっぱりこうなるか・・・」


 その一言で空気が変わった。



 森の奥。


 結界敷地内だが、普段なら誰も近付かない場所だった。


 何重もの結界が張られている。


 隠蔽。


 侵入防止。


 レン以外には解除できない。


 子供達も怪しいと思っていたが、入ったことはない。


「まだ奥があったのか……」


 レオが呟く。


「結構歩いたわね」


 リアも周囲を見回す。


 やがて。


 一行は巨大な岩壁の前へ到着した。


「行き止まり?」


 トトが首を傾げる。


 レンは何も言わず前へ出た。


 岩壁へ手を触れる。


 淡い光が走った。


 次の瞬間。


 地鳴りのような音が響く。


 巨大な岩壁が左右へ開いていった。


「え……」


 シーナが息を呑む。


 誰も言葉を発せない。


 その奥に広がっていた光景は。


 あまりにも常識外だった。



 そこには巨大な地下空間が存在していた。


 見上げても天井が見えない。


 壁面には見たこともない金属。


 無数の魔導灯が空間を照らしている。


 工房。


 倉庫。


 居住区。


 訓練区画。


 まるで一つの街だった。


 そして。


 中央に佇む5メートルはある、黒い巨人。


 誰もが目を奪われる。


 圧倒的な存在感。


 ただそこに立っているだけなのに目を離せない。


「機兵……?」


 レオがかつて1度見た赤い竜のような機体を連想して呟く。


 トトは首を振った。


「違う」


 声が震えている。


「こんなの見たことない」


 職人見習いの知見がそう告げていた。


 レンの工房にあった資料ではこんな機体はなかった。


 そもそも、世にある機兵は100年位平気であるもので、


 どこか壊れたり、傷があるのが普通だ。


 これは普通じゃない。新品その物。


 それ以上。光もないのにうっすら輝いて見える。


 王都にも無い。


 商業都市にも無い。


 存在そのものが異常だった。


 レンはそんな反応を気にもせず言う。


「ネストだ。」


「ネスト?」


 カイルが聞き返した。


「巣だ」


 全員が固まる。


「……巣?」


「巣」


 レンは真面目だった。


 どうやら本気らしい。


 リアが額を押さえた。


「説明を省略しないでください」


「面倒だ」


「頑張ってください」


 レンは渋々口を開いた。


「帰る場所だ」


 静かな声だった。


「危なくなったら帰る」


「疲れたら帰る」


「飯を食う」


「寝る」


「また出掛ける」


 そこで黒い巨人を見上げる。


「そういう場所に帰れるように付けた名だ。」


 リアは少しだけ笑った。


 なんだかレンらしいと思った。


「だからネストなんですね」


「そうだ」


 ノアが補足する。


『正式名称』


『居住型機動拠点を構想とした拠点防衛型魔核機フレームNO・4「オベロン」のベースでカスタマイズされた・・』


 沈黙。


「長い」


 レオが即答した。


「長いな」


 マルも頷く。


「長いですね」


 シーナも同意する。


 レンは肩を竦めた。


「だから(巣)ネストだ」


 その方が分かりやすい。


 全員少し納得した。



 ノアが中央へ進む。


『起動シーケンス開始』


 低い振動が響いた。


 空間全体が目を覚ます。


 壁面の照明が順番に点灯していく。


 格納庫全体が光に包まれた。


 そして。


 黒い巨人の瞳が輝く。


 重厚な駆動音。


 生き物のような存在感。


 誰もが息を呑んだ。


 ネストが目覚めた。



『第二計画を説明します』


 空中へ地図が映し出される。


 南辺境都市。


 その周辺地域。


『避難民収容計画』


 映像が切り替わった。


 黒い箱のような物体が表示される。


「箱?」


 トトが首を傾げる。


『居住用コンテナ』


 表示が拡大される。


 ベッド。


 暖房。


 食料保管庫。


 簡易調理設備。


 通信設備。


 小型結界装置。


 完全な居住空間だった。


「家じゃないですか」


 シーナが言う。


「家だぞ」


 レンが答える。


「またですか」


 リアが呆れた。


 だがレンは本気だった。



『避難民を収容』


『結界で保護』


『ネストによる輸送』


 成功率が表示される。


『八十七パーセント』


 全員が固まった。


「は?」


 レオが目を剥く。


「八十七?」


 カイルも信じられない。


 昨日まで五パーセントだった。


『ネスト運用時の予測です』


 静まり返る空間。


 全員がゆっくりレンを見る。


 レンは面倒そうに頭を掻いた。


「だから切り札なんだよ」



 その夜。


 子供達はコンテナの中を見学していた。


 暖かい。


 広い。


 安全。


 壁面には外の映像が映る。


 森の景色がそのまま見えていた。


「すげぇ……」


 レオが感嘆する。


「本当に家だ」


 マルも呟いた。


『通信テスト』


 突然ノアの声が響く。


 全員が驚く。


『各納コンテナとの通信は正常です』


「どこから喋ってるんだ?」


 トトが辺りを見回す。


 ノアの声は続く。


『避難中も連絡可能です』


『緊急時も問題ありません。空調も完璧です。』


 カイルは壁に映る森を見つめた。


 これなら。


 助けられるかもしれない。


 本当に。


 誰かを。


 救えるかもしれない。


 初めて。


 そう思えた。


 そして森の奥では。


 黒い巨人が静かに佇んでいる。


 まるで巣を守る親鳥のように。


 冬まで残り十七日。


 妖精王の奇跡は。


 もうすぐ始まろうとしていた。


読んでいただきありがとうございます。


面白かったら評価、ブックマークで応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ