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第十八話 それぞれに出来ること

ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。


機兵、遺跡、秘密基地。


好きなものを全部詰め込みました。

 冬まで残り十九日。


 森の朝は冷え込んでいた。


 吐く息が白い。


 いつもなら冬支度を進める時期だ。


 だが今年は違う。


 森の家の食堂では、朝から大きな紙が広げられていた。


「もう一回整理するぞ」


 カイルが言う。


 皆の視線が集まった。


 机の上にはシーナが作った帳簿。


 ルウがまとめた薬草の在庫。


 マルが数えた木材。


 そしてノアが算出した生存率。


 それらが並んでいる。


 まるで小さな会議だった。


「まず問題」


 シーナが紙を指差す。


「人が足りません」


 全員が頷いた。


 そこは分かっている。


「食料も足りません」


「家も足りない」


 マルが続ける。


「薬も足りない」


 ルウが手を挙げた。


 次々と問題が出てくる。


 レオが頭を抱えた。


「詰んでないか?」


「かなり」


 シーナが即答した。


「ですよねぇ……」


 レオが机に突っ伏す。


 その様子にリアが苦笑した。


「でも少し変わったわよ」


「何が?」


 カイルが尋ねる。


 リアは机の上の紙を指差した。


「前は何が足りないかも分からなかった」


 皆が顔を上げる。


「今は分かってる」


 確かにそうだった。


 以前なら。


 助けたい。


 その気持ちだけだった。


 今は違う。


 何が必要か。


 何が足りないか。


 どこまで出来るか。


 少しずつ見えてきている。


 それは大きな進歩だった。



 昼過ぎ。


 マルは森で木を運んでいた。


 太い丸太を肩に担ぎ、一人で歩いている。


 普通の大人でも難しい重さだ。


 だがマルは黙々と運ぶ。


 無口な少年だった。


 それでも最近は分かる。


 誰かの役に立つ事が好きなのだ。


「マルー!」


 遠くからレオの声が聞こえる。


「運ぶの手伝うぞ!」


 マルは少し考えた。


 そして首を横に振る。


「大丈夫」


「いや重いだろ!」


「大丈夫」


 実際大丈夫だった。


 レオは苦笑する。


「怪力め……」


 だがその表情は嬉しそうだった。



 一方。


 シーナは帳簿と格闘していた。


 商業都市で覚えた数字。


 ノアに教わった計算。


 それらを使い、何度も計算を繰り返す。


「銀貨三枚……」


「いや、こっちなら二枚」


 ぶつぶつと呟く。


 その横ではトトが不思議そうな顔をしていた。


「何が楽しいんだ?」


「楽しくないです」


 即答だった。


「じゃあ何でやってるんだ?」


「損したくないので」


 トトは首を傾げる。


 シーナは真顔だった。


 以前の自分なら騙されていただろう。


 今は違う。


 ノアに散々鍛えられた。


 だから計算する。


 間違えないために。


 皆を守るために。



 ルウは薬草畑にいた。


 小さな手で薬草を摘み取る。


 慎重に。


 一つずつ。


 以前なら生きる事で精一杯だった。


 今は違う。


 誰かを助けるために学んでいる。


 薬。


 病気。


 怪我。


 そして。


 知らない知識。


 古代文明。


 魔核。


 機兵。


 興味は尽きない。


「もっと勉強しないと……」


 ルウは小さく呟いた。



 夕方。


 再び食堂。


 全員が集まる。


 少し疲れた顔だった。


 だが諦めた顔ではない。


 その時だった。


 ノアが口を開く。


『報告』


 皆が振り向く。


『成功率更新』


 シーナが目を丸くする。


「変わったの?」


『変化あり』


 少しだけ期待が生まれる。


『成功率』


『五・二パーセント』


 一瞬。


 食堂が静まり返った。


「上がった!」


 レオが叫ぶ。


 トトも立ち上がる。


「本当だ!」


 たった一・五パーセント。


 それだけ。


 だが皆は喜んだ。


 昨日より前に進んだ。


 それが嬉しかった。


 カイルも笑う。


「まだやれるな」


「ええ」


 シーナも頷いた。


 マルも。


 ルウも。


 リアも。


 皆少しだけ前を向いていた。



 そんな様子を。


 レンは離れた席から眺めていた。


 お茶を飲みながら。


 何も言わず。


 ただ見ている。


 リアが隣に腰を下ろした。


「珍しいですね」


「何がだ」


「黙って見てるの」


 レンは少しだけ笑った。


「成長してるからな」


 リアが目を丸くする。


 褒め言葉を聞いたのは久しぶりだった。


「口に出して言えばいいのに」


「調子に乗る」


「確かに」


 リアも納得した。


 二人はしばらく子供達を見守る。


 笑い声が聞こえる。


 以前のスラムには無かった光景だった。


 だからこそ。


 守りたいと思う。


 レンも。


 リアも。


 口にはしなかったが同じ気持ちだった。


 その夜。


 ノアが誰にも聞こえない声で呟く。


『追加観測』


『寒波速度増加』


『被害予測更新』


『避難施設不足』


『推奨』


『第二計画移行』


 森の地下深く。


 長い年月眠っていた設備が、静かに起動を始める。


 誰もまだ知らない。


 その存在が。


 この世界の常識を大きく変えることを。


読んでいただきありがとうございます。


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