第十七話 赤き竜と偽りの聖女
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
冬まで残り二十三日。
王国全土に不穏な空気が広がり始めていた。
北方で発生した異常寒波。
それは単なる寒さではない。
街を止め、人を殺し、国そのものを揺るがす災害として認識され始めていた。
しかし。
南辺境都市の住民達にとって、それ以上の問題があった。
領主の逃亡である。
街を守るべき人間が真っ先に逃げた。
その事実は人々から希望を奪っていた。
◇
南辺境都市郊外。
街道を豪華な馬車が走っていた。
本来なら領主が乗るはずの馬車。
だが今は違う。
縄で縛られた男が床に転がされている。
元領主だった。
「離せ!」
「私は貴族だぞ!」
「王国に尽くしてきた!」
叫ぶ声を騎士達は無視する。
馬車の外から低い声が聞こえた。
「尽くした?」
元領主が息を呑む。
馬車の窓から見えるのは赤い機体。
巨大な翼。
真紅の装甲。
まるで竜のような姿。
神機。
王国最強の象徴だった。
その足元に立つ男を、知らぬ者はいない。
王国騎士団長。
レオン。
「市民を捨てて逃げた人間がか?」
冷たい声だった。
元領主は言葉を失う。
「寒波は災害だ!」
「どうしようもなかった!」
「私だけの責任では――」
「だから何だ」
レオンは遮った。
「信念のある貴族なら逃げない」
短い言葉だった。
だが重かった。
元領主は顔を伏せる。
もはや何も言えない。
「王都へ送れ」
「はっ!」
騎士達が敬礼する。
レオンは空を見上げた。
鉛色の雲。
冬は確実に近付いている。
「……時間がないな」
誰にも聞こえない声だった。
◇
一方。
王都。
巨大な神殿の一室。
窓から差し込む光の中で、一人の少女が報告書を読んでいた。
長い金髪。
整った顔立ち。
白い神官服。
その姿だけ見れば誰もが聖女だと思うだろう。
だが。
本人だけは違うと知っている。
「南辺境都市……」
今代の聖女「オフィーリア」を務める少女アリシアは小さく呟いた。
報告書には異常寒波の被害予測が記されている。
そして。
黒い、伝説の魔核機らしきものの出現という不気味な事件噂。
南部都市の住民が徐々に町を見捨てている事・・
「また増えてる……」
最近増えている。
異常気象。
魔獣の活性化。
収穫量の低下。
災害。
どれも聖女が不在、長期祈祷のない時に起こる現象に似ていた。
アリシアは拳を握る。
自分の胸に手を当てた。
「私のせい……」
誰にも聞こえない声。
彼女は知っている。
自分が本物の聖女ではないことを。
神殿は隠している。
民衆は知らない。
だが本人だけは分かっていた。
本来ここにいるべき人間ではない。
だからこそ。
災害が起きるたびに思う。
自分が原因なのではないかと。
その時だった。
部屋の扉が叩かれる。
「オフィーリア様」
「どうぞ」
入ってきた神官が頭を下げる。
「南辺境都市への支援要請が届いています」
アリシアは顔を上げた。
「被害は?」
「予想以上です」
神官の顔も暗い。
「寒波到達前に避難所の建設が必要かと」
アリシアは少し考えた。
そして。
「私が行きます」
神官が固まる。
「ですが危険です」
「だからです」
アリシアは微笑んだ。
優しい笑顔だった。
だがその瞳には強い意志が宿っている。
「助けを求める人がいるなら」
「聖女はそこにいるべきです」
神官は返す言葉を失った。
◇
同じ頃。
森の家。
食堂では子供達が大騒ぎしていた。
「成功率上げるぞ!」
レオが机を叩く。
「どうやって?」
シーナが冷静に聞く。
「気合」
「却下」
即答だった。
レオが沈む。
「木は集められる」
マルが言う。
「でも家を建てる人が足りない」
「お金も足りない」
シーナが続く。
「食料も足りない」
ルウも言う。
議論は続く。
だが答えは出ない。
皆が頭を抱えている中。
レンだけは静かにお茶を飲んでいた。
「レンさん」
リアが声を掛ける。
「ん?」
「何か言う事ありませんか」
レンは少し考えた。
「頑張れ」
「雑!」
リアが思わず突っ込む。
食堂に笑いが起きた。
少しだけ重苦しい空気が和らぐ。
レンは窓の外を見る。
遠くの森。
さらにその奥。
誰にも知られていない場所。
そこに眠るネスト。
頭の中で計算する。
使える資材。
残された時間。
助ける人数。
まだ足りない。
まだ早い。
今は子供達に考えさせるべきだ。
そう思っていた。
だが。
ノアが小さな声で告げる。
『警告』
レンの眉が僅かに動く。
『寒波進行速度上昇』
『到達予測』
『二十日後』
レンは無言でお茶を飲み干した。
窓の外では冷たい風が吹いている。
冬は。
予想より早くやって来ようとしていた。
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