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第十六話 冬まで二十四日

ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。


機兵、遺跡、秘密基地。


好きなものを全部詰め込みました。

 南辺境都市から戻って三日。


 森の家の食卓は、どこか静かだった。


 いつもならレオとトトが騒ぎ、シーナが呆れ、マルが黙々と食べる。


 そんな賑やかな時間になるはずだった。


 だが今は違う。


 皆、同じ事を考えていた。


 異常寒波。


 見捨てられた街。


 そしてスラムに残された人々。


 あの日見た光景が頭から離れない。


 特にカイルはそうだった。


 食事を終えても、考え続けていた。


 どうすれば助けられるのか。


 何人助けられるのか。


 何が必要なのか。


 考えれば考えるほど分からなくなる。


 結局その日は答えが出なかった。



 翌朝。


 朝食後の食堂。


 珍しくカイルが全員を集めた。


「相談がある」


 真剣な表情だった。


 皆も何となく内容は分かっている。


 リアが腕を組む。


「スラムの事?」


「うん」


 カイルは頷いた。


「助けたい」


 誰も驚かなかった。


 十五話で既に聞いた言葉だ。


 だから今更反対する者もいない。


「問題はどうやって、だよな」


 レオが言う。


「そう」


 カイルは机の上に紙を広げた。


 昨夜ほとんど眠らずに書いた物だ。


「まず食べ物」


「それから寝る場所」


「毛布」


「薪」


「薬」


「子供達を集める人手」


 並べていく。


 並べるほどに顔色が悪くなる。


 必要な物が多すぎた。


「俺達だけじゃ無理だな」


 レオが頭を掻く。


「無理」


 マルも即答した。


「木も足りない」


 シーナが帳簿を開く。


「お金も足りません」


「どれくらい?」


 カイルが尋ねる。


「全然」


 即答だった。


「孤児院を作るだけでも足りないのに、避難民まで受け入れるなら桁が変わります」


 シーナは数字を書き込んでいく。


 銀貨。


 木材。


 食料。


 必要量がどんどん増えていく。


 やがて紙が埋まった。


 全員黙る。


 数字の暴力だった。


「こんなに必要なのか……」


 カイルが呟く。


「むしろ足りないくらいです」


 シーナは容赦がない。


「冬を越えるなら、もっと必要になります」


 現実だった。


 助けたい気持ちだけではどうにもならない。


 リアが紙を覗き込む。


「人手も足りないわね」


「うん」


 カイルが頷く。


「運ぶ人も」


 マルが言う。


「守る人も」


 レオが続く。


 沈黙が落ちる。


 助けたい。


 でも足りない。


 全部足りない。



 その時だった。


「成功率は?」


 不意にルウが聞いた。


 皆が振り返る。


 ルウは机の上のノアを見ていた。


 ノアが小さく首を傾げる。


『計算します』


 ぬいぐるみの目が淡く光る。


 子供達は慣れた光景だった。


 しばらくして。


『計算終了』


 全員が息を呑む。


『現状戦力』


『現状資金』


『現状物資』


『全てを考慮した場合』


 ノアは淡々と言った。


『成功率三・七パーセント』


 静まり返る。


 三・七パーセント。


 百回やって九十六回失敗する数字だった。


「低っ!」


 トトが叫んだ。


『高い方です』


「どこが!?」


『ゼロではありません』


 誰も反論できなかった。


 確かにゼロではない。


 だが。


 絶望的な数字だった。


 カイルは俯く。


 思った以上に現実は厳しい。


 助ける。


 その言葉は簡単だった。


 だが実際には。


 金が要る。


 物資が要る。


 人が要る。


 知識が要る。


 責任が要る。


 救うとはそういう事だった。


「やめるか?」


 不意に声がした。


 全員が振り向く。



 食堂の隅。


 レンがいつもの席でパンを齧っていた。


 誰も気付いていなかった。


 最初からいたらしい。


「……」


 カイルは黙る。


 レンはそれ以上何も言わない。


 ただパンを食べている。


 しばらくして。


 カイルは顔を上げた。


「やめません」


 迷いは無かった。


「三・七パーセントでも?」


 リアが聞く。


「うん」


 カイルは頷いた。


「昨日までゼロだった」


 その言葉に皆が顔を上げる。


「今は三・七パーセントある」


 少しだけ笑う。


「だったら頑張る価値はあると思う」


 シーナがため息を吐いた。


「馬鹿ですね」


「知ってる」


 カイルも笑う。


 マルが頷く。


「俺もやる」


「私も」


 シーナが帳簿を閉じた。


「守る」


 レオも言う。


「薬作る」


 ルウも手を挙げる。


 トトも負けじと言った。


「俺も何か作る」


 リアは皆を見回し、小さく笑った。


「全員馬鹿ね」


 でも。


 嫌いじゃない。


 そんな顔だった。


 レンは最後のパンを口へ放り込む。


 そして立ち上がった。


「好きにしろ」


 それだけ言って部屋を出て行く。


 いつもの言葉だった。


 だが全員知っている。


 レン語でそれは。


 見捨てない。


 という意味だった。



 窓の外では冷たい風が吹いていた。


 冬まで残り二十四日。


 時間だけが確実に減っていく。


 そして誰も知らない。


 その寒波が、ただの自然災害ではない事を。


読んでいただきありがとうございます。


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