第十六話 冬まで二十四日
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
南辺境都市から戻って三日。
森の家の食卓は、どこか静かだった。
いつもならレオとトトが騒ぎ、シーナが呆れ、マルが黙々と食べる。
そんな賑やかな時間になるはずだった。
だが今は違う。
皆、同じ事を考えていた。
異常寒波。
見捨てられた街。
そしてスラムに残された人々。
あの日見た光景が頭から離れない。
特にカイルはそうだった。
食事を終えても、考え続けていた。
どうすれば助けられるのか。
何人助けられるのか。
何が必要なのか。
考えれば考えるほど分からなくなる。
結局その日は答えが出なかった。
◇
翌朝。
朝食後の食堂。
珍しくカイルが全員を集めた。
「相談がある」
真剣な表情だった。
皆も何となく内容は分かっている。
リアが腕を組む。
「スラムの事?」
「うん」
カイルは頷いた。
「助けたい」
誰も驚かなかった。
十五話で既に聞いた言葉だ。
だから今更反対する者もいない。
「問題はどうやって、だよな」
レオが言う。
「そう」
カイルは机の上に紙を広げた。
昨夜ほとんど眠らずに書いた物だ。
「まず食べ物」
「それから寝る場所」
「毛布」
「薪」
「薬」
「子供達を集める人手」
並べていく。
並べるほどに顔色が悪くなる。
必要な物が多すぎた。
「俺達だけじゃ無理だな」
レオが頭を掻く。
「無理」
マルも即答した。
「木も足りない」
シーナが帳簿を開く。
「お金も足りません」
「どれくらい?」
カイルが尋ねる。
「全然」
即答だった。
「孤児院を作るだけでも足りないのに、避難民まで受け入れるなら桁が変わります」
シーナは数字を書き込んでいく。
銀貨。
木材。
食料。
必要量がどんどん増えていく。
やがて紙が埋まった。
全員黙る。
数字の暴力だった。
「こんなに必要なのか……」
カイルが呟く。
「むしろ足りないくらいです」
シーナは容赦がない。
「冬を越えるなら、もっと必要になります」
現実だった。
助けたい気持ちだけではどうにもならない。
リアが紙を覗き込む。
「人手も足りないわね」
「うん」
カイルが頷く。
「運ぶ人も」
マルが言う。
「守る人も」
レオが続く。
沈黙が落ちる。
助けたい。
でも足りない。
全部足りない。
◇
その時だった。
「成功率は?」
不意にルウが聞いた。
皆が振り返る。
ルウは机の上のノアを見ていた。
ノアが小さく首を傾げる。
『計算します』
ぬいぐるみの目が淡く光る。
子供達は慣れた光景だった。
しばらくして。
『計算終了』
全員が息を呑む。
『現状戦力』
『現状資金』
『現状物資』
『全てを考慮した場合』
ノアは淡々と言った。
『成功率三・七パーセント』
静まり返る。
三・七パーセント。
百回やって九十六回失敗する数字だった。
「低っ!」
トトが叫んだ。
『高い方です』
「どこが!?」
『ゼロではありません』
誰も反論できなかった。
確かにゼロではない。
だが。
絶望的な数字だった。
カイルは俯く。
思った以上に現実は厳しい。
助ける。
その言葉は簡単だった。
だが実際には。
金が要る。
物資が要る。
人が要る。
知識が要る。
責任が要る。
救うとはそういう事だった。
「やめるか?」
不意に声がした。
全員が振り向く。
◇
食堂の隅。
レンがいつもの席でパンを齧っていた。
誰も気付いていなかった。
最初からいたらしい。
「……」
カイルは黙る。
レンはそれ以上何も言わない。
ただパンを食べている。
しばらくして。
カイルは顔を上げた。
「やめません」
迷いは無かった。
「三・七パーセントでも?」
リアが聞く。
「うん」
カイルは頷いた。
「昨日までゼロだった」
その言葉に皆が顔を上げる。
「今は三・七パーセントある」
少しだけ笑う。
「だったら頑張る価値はあると思う」
シーナがため息を吐いた。
「馬鹿ですね」
「知ってる」
カイルも笑う。
マルが頷く。
「俺もやる」
「私も」
シーナが帳簿を閉じた。
「守る」
レオも言う。
「薬作る」
ルウも手を挙げる。
トトも負けじと言った。
「俺も何か作る」
リアは皆を見回し、小さく笑った。
「全員馬鹿ね」
でも。
嫌いじゃない。
そんな顔だった。
レンは最後のパンを口へ放り込む。
そして立ち上がった。
「好きにしろ」
それだけ言って部屋を出て行く。
いつもの言葉だった。
だが全員知っている。
レン語でそれは。
見捨てない。
という意味だった。
◇
窓の外では冷たい風が吹いていた。
冬まで残り二十四日。
時間だけが確実に減っていく。
そして誰も知らない。
その寒波が、ただの自然災害ではない事を。
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