第十五話 帰りたくなかった街
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
孤児達が森の家へ来てから半年近くが過ぎていた。
森の景色も変わった。
荒れていた畑には作物が並び。
空き地だった場所には倉庫が建ち。
子供達もそれぞれ役割を持つようになっていた。
レオは毎朝剣を振る。
マルは力仕事を率先して引き受ける。
シーナは帳簿を付けるのが日課になった。
トトは工房に入り浸り、工具を磨いている。
ルウは薬草畑を管理するようになった。
カイルは畑と家事をこなし、森の家の生活を支えている。
少しずつ。
少しずつ。
皆が前へ進んでいた。
◇
そんなある日の夕食後。
食堂の机の上にノアが座る。
ぬいぐるみの先生だった。
『本日の授業を始めます』
子供達の背筋が伸びる。
最初は舐めていた。
今は違う。
ノアは怖い。
本当に怖い。
『商売とは何ですか』
「利益を出すこと」
シーナが即答した。
『正解です』
満足そうに頷く。
『では実践授業を行います』
「実践?」
『安く買い』
『高く売る』
『基本です』
ノアは続けた。
『数日後』
『南辺境都市へ向かいます』
空気が固まる。
レオが顔をしかめた。
マルも黙る。
シーナも笑顔を消す。
カイルも目を伏せた。
そこは。
かつて彼らが生きていた街。
スラムのある街だった。
「行きたくねぇな……」
レオが呟く。
「私もです」
珍しくシーナも同意した。
リアも苦笑する。
「正直、良い思い出ないわね」
すると。
レンがパンを齧りながら言った。
「仕入れには向いてる」
「理由それですか」
リアが呆れる。
「商売なんてそんなもんだろ」
レンは平然としていた。
◇
数日後。
一行は南辺境都市へ到着した。
高い城壁。
煤けた石壁。
見慣れた景色。
だが。
懐かしさを感じる者はいなかった。
思い出すのは。
飢え。
寒さ。
暴力。
絶望。
そんな記憶ばかりだった。
「まずは仕事だ」
レンの一言で現実へ戻る。
一行は市場へ向かった。
◇
「安い……」
シーナが驚いた。
この前いった街より明らかに安い。
野菜も。
干し肉も。
布も。
工具も。
何もかも安い。
「向こうで銀貨一枚の物が、ここなら銅貨八十枚だ」
「利益になりますね」
「なる」
シーナの目が輝く。
完全に商人の顔だった。
リアが苦笑する。
「ノアの教育成果かしら」
「怖い先生だからな」
レンも苦笑した。
一方。
マルは荷運びを見ていた。
商人達が汗だくで荷物を運んでいる。
「どうした?」
レンが聞く。
「運び方が下手だなって」
レンが吹き出した。
「お前らしいな」
マルは本気だった。
◇
仕入れを終えた頃。
市場の空気が妙に騒がしい事に気付く。
商人達が集まっていた。
「本当なのか?」
「領主様が逃げたらしい」
「終わりだ……」
誰もが顔色を悪くしている。
「何の話だ?」
レオが商人へ聞いた。
商人は疲れた顔で答える。
「寒波だよ」
「寒波?」
「北方で異常寒波が発生したらしい」
「占術師の予言だ」
「今年は王国全土が冷え込む」
さらに声を潜める。
「領主様は財産をまとめて逃げた」
全員が固まった。
「逃げた?」
カイルが聞き返す。
「ああ」
「貴族も金持ちも逃げ始めてる」
「残るのは俺達みたいなのだけだ」
重い沈黙が落ちた。
◇
その時だった。
街中がざわつく。
「おい!」
「あれは!」
誰かが叫んだ。
皆が空を見上げる。
赤い光。
巨大な影。
翼を持つ巨大な魔核機とうわさされる機体。
真紅の装甲。
燃えるような光。
神話の竜を思わせる威容。
街中が騒然となる。
「グラムだ!」
「騎士団長だ!」
「レオン様だ!」
歓声が上がる。
巨大な機体が街外れへ向かって飛んでいく。
その姿は一瞬だった。
だが。
誰もが目を奪われた。
「王国最強だ」
近くの商人が呟く。
「騎士団長レオン」
「グラムに乗る英雄様だ」
レオが見上げる。
空の彼方へ消えていく赤い光。
胸が少し高鳴った。
◇
市場を後にする。
帰る前に。
久しぶりにスラムの近くを通った。
そこには。
昔の自分達がいた。
痩せた子供。
病気の老人。
疲れ切った母親。
何も変わっていない。
カイルが立ち止まる。
小さな兄妹がいた。
兄が妹を庇っている。
裸足だった。
痩せていた。
昔の自分達そのものだった。
胸が痛む。
レオも。
マルも。
シーナも。
ルウも。
言葉が出ない。
寒波が来る。
このままなら。
あの子達は冬を越せない。
嫌でも分かった。
昔の自分達だからだ。
◇
帰り道。
荷馬車は森へ向かっていた。
皆が静かだった。
その時。
ゴオオオオオオッ!
突風が吹く。
荷車が揺れる。
「うわっ!?」
レオが振り返った。
空。
真紅の巨体。
巨大な翼。
燃えるような装甲。
低空飛行。
あまりにも近い。
圧倒的な存在感。
風圧だけで木々が揺れる。
「すげぇ……」
レオが呟く。
それしか言葉が出なかった。
神話の竜。
本当にそう見えた。
カイルも目を奪われる。
ルウも。
シーナも。
マルも。
誰もが空を見上げていた。
「あれが……」
「グラムだな」
レンがぽつりと言った。
それだけだった。
だが。
どこか懐かしそうだった。
真紅の巨体は南へ向かう。
やがて空の彼方へ消えていった。
◇
その頃。
南へ逃亡していた領主の馬車は街道を走っていた。
「急げ!」
「もっと速度を上げろ!」
護衛達も焦っている。
その時だった。
森が揺れた。
木々が倒れる。
魔獣だった。
いや。
群れだった。
寒波の余波から逃げてきた魔獣達。
数が多い。
止められない。
「迎撃!」
「無理です!」
「多すぎる!」
絶望が広がる。
その瞬間。
空が赤く染まった。
轟音。
赤い閃光。
次の瞬間。
魔獣の群れが消えていた。
一撃だった。
「グラム……」
護衛が震える声で呟く。
王国騎士団最強。
紅蓮の機体、グラム。
真紅の巨体は馬車の前へ降り立った。
逃亡劇は終わった。
◇
森へ戻った頃には夕暮れになっていた。
夜。
皆が寝静まった後。
カイルは一人で畑の前に立っていた。
そこへレンが現れる。
「寝ないのか」
「少しだけ」
しばらく沈黙。
やがて。
カイルが言った。
「助けたいです」
レンは何も言わない。
「全部は無理です」
「分かってます」
「でも」
「少しなら」
「俺達にも出来るかもしれない」
レンは空を見上げた。
冷たい風が吹いている。
「好きにしろ」
いつもの言葉だった。
カイルは少し笑う。
「ありがとうございます」
「まだ何もしてない」
「これからです」
カイルの目は真っ直ぐだった。
◇
森の奥。
誰にも聞こえない声で。
ノアが呟く。
『異常寒波接近』
『到達予測』
『二十五日後』
『被害予測』
『多数死亡』
静かに。
冬が近付いていた。
【エターナルWiki No.008】
機兵ビルドシステム
『エターナル』最大の特徴の一つ。
プレイヤーは自分だけの機兵を構築することができる。
同じ機体は存在せず、
搭乗者ごとの個性が機体性能へ反映される。
■機兵の強さ
機兵および魔核機の性能は、
以下の三要素によって決定される。
①フレーム性能
機体の素体となる骨格。
レアリティが高いほど性能が高い。
②魔核
魔核機専用動力源。
極めて高性能。
入手は困難。
③人工魔結晶
機兵用動力源。
魔核の代替品として開発された。
性能は魔核に劣る。
■フレームランク
魔核機
ランク分類
SSS最高級魔核機
SS上位魔核機
S標準魔核機
機兵
ランク分類
RRR最高級機兵
RR上位機兵
R標準機兵
■搭載可能数
フレームごとに搭載可能な魔核数が存在する。
魔核機
ランク搭載数
SSS10
SS8
S4
機兵も同数のスロットを持つが、
搭載可能なのは人工魔結晶のみとなる。
■性能差
人工魔結晶1個の性能は、
魔核1個のおよそ10分の1。
例
SSS魔核機
魔核10個搭載
↓
理論値100
RRR機兵
人工魔結晶10個搭載
↓
理論値10
そのため、
機兵が魔核機へ正面から勝利することは極めて困難とされる。
ただし。
フレーム性能の差によって、
一部例外も存在する。
例
RRR機兵(人工魔結晶10基搭載)
↓
Sランク魔核機(魔核1基搭載)
理論上は同等性能となる。
■入手方法
魔核および人工魔結晶は非常に希少。
主な入手手段は以下。
・大型イベント報酬
・高難易度レイド
・期間限定配布
・課金販売
サービス開始以降、
魔核機の性能を完全開放したプレイヤーは確認されていない。
【プレイヤーメモ】
初心者はまずR機兵から開始する。
魔核機は上級者向けコンテンツであり、
所有しているだけで有名人になれるほど希少である。
そのため、
サービス開始当初のプレイヤー達にとって、
魔核機は憧れの存在だった。
読んでいただきありがとうございます。
面白かったら評価、ブックマークで応援していただけると嬉しいです。




