第十四話 初めての王都
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
翌朝。
森の家は少し騒がしかった。
理由は簡単。
街へ行く日だからだ。
「忘れ物はないな」
レンが荷物を確認する。
薬草。
燻製肉。
畑で採れた野菜。
少量だが売り物になる。
今日は換金の日だった。
そして。
子供達にとっては初めての街でもある。
レオは落ち着かない様子で木剣を腰に差していた。
マルは大きな荷袋を背負う。
シーナは帳面を抱えている。
トトは朝からそわそわしていた。
「そんなに街が珍しいか」
レンが聞く。
トトは頷く。
「うん」
「そうか」
それだけだった。
だが少しだけ口元が緩んでいた。
皆の服装も変わっていた。
レオはレンのお下がり。
袖を折っている。
マルもレンのお下がり。
こちらは体格のおかげで意外と似合っていた。
シーナはリアのお下がり。
質素だが清潔な服。
トトはカイルのお下がり。
少し大きい。
それでも。
スラム時代の布切れとは違う。
トトが服の裾を引っ張った。
「変な感じだ」
「何が?」
リアが聞く。
「穴が空いてない」
一瞬静かになって。
皆笑った。
レオも。
シーナも。
マルも。
同じ気持ちだったからだ。
リアだけ少し目を伏せた。
昔。
姉貴分のミラから服を貰った日の事を思い出していた。
留守番はカイルとルウ。
ノアも今日は森に残る。
『畑の管理を優先します』
との事だった。
ルウは少し残念そうだったが。
薬草の本を渡されるとすぐ機嫌を直した。
相変わらずである。
◇
街道へ出る。
石畳の道。
行き交う馬車。
商人。
旅人。
子供達は物珍しそうに周囲を見ていた。
「人が多いな」
レオが言う。
「王都街道だからな」
レンが答える。
「王都まで繋がってる」
「へぇ」
トトが感心する。
シーナは荷馬車を見ていた。
マルは積荷を見ていた。
興味の方向が違う。
リアが苦笑した。
「皆見る所違うわね」
しばらく歩いた所で。
レオが聞いた。
「なあ」
「ん?」
「今から行く街って俺達の街と同じなのか?」
レンは少し考えた。
「同じ国だな」
「なら同じじゃないのか?」
「まあ、かなり違う」
皆が見る。
「お前らの街は運が悪かった」
「運?」
「上の貴族が腐ってた」
リアが吹き出した。
「身も蓋もないですね」
「事実だろ」
レンは肩を竦める。
「スラムも広かった」
「治安も悪かった」
「領主が、それだけ無能だったってことだ。」
皆、レンの言葉をじっと聞く。
レンは続けた。
「今日行く街は商売の街だ」
「商売?」
シーナが反応する。
「人も集まる」
「商人も金も集まる」
「政策のせいで治安もいい。」
レオ達は黙って聞く。
「だから夜も歩ける」
「え?」
「財布落としても戻ることもある。」
「え?」
「衛兵がきちんと仕事してる」
「えぇ?」
リアが笑った。
「私も最初は同じ反応だったわ」
子供達は信じられなかった。
そんな街が本当にあるのか。
◇
やがて。
城壁が見えた。
高い門。
大勢の人。
活気。
賑わい。
「でかい……」
トトが呟く。
その時だった。
レンが立ち止まる。
珍しく真面目な顔だった。
「一つだけ言っとく」
皆が見る。
「知らない奴について行くな」
レオが頷く。
「当たり前だろ」
「当たり前じゃない」
レンは言った。
「子供攫いはいる」
静かになる。
「奴隷商もいる」
リアの表情が少し曇る。
全員察した。
「迷子になると、売られるぞ」
トトが唾を飲む。
「できるだけ1人になるな」
「ならない」
トトが言った。
リアが横を向いた。
笑いを堪えている。
レオも同じだった。
レンだけが言う。
「そうか」
そして歩き出した。
誰も気付かなかった。
盛大な前振りだった事に。
◇
街へ入る。
まずレン達は商人ギルドへ向かった。
売る物があるからだ。
「リア」
「はい」
「ガキ共頼む」
「分かりました」
レンはシーナとマルを連れて行く。
リアはレオとトトを連れて武具屋通りへ向かった。
◇
商人ギルド。
マルは荷物を全部持っていた。
商人が驚く。
「坊主」
「うん」
「それ全部一人で持って来たのか?」
「うん」
商人が絶句する。
レンは少し笑った。
「こいつ力だけはある」
「だけって何だ」
マルが少し不満そうだった。
◇
一方。
武具屋通り。
レオは完全に目を輝かせていた。
「剣だ……」
「盾だ……」
「鎧だ……」
リアが笑う。
「まず木剣ね」
「はい!」
元気が良い。
◇
そして。
問題はもう一人だった。
トト。
さっきまでいた。
本当に。
さっきまで。
「……あれ?」
リアが振り返る。
いない。
「レオ」
「ん?」
「トトは?」
沈黙。
「さっきまでいたのに」
◇
三十分後。
レン達も合流していた。
「どうした」
「トトがいない」
レンの顔から表情が消える。
「いつから」
「三十分くらい」
ため息。
「探すぞ」
短く言った。
◇
そして。
見つかった。
広場だった。
人だかりの中心。
巨大な鉄の足。
機兵。
冒険者用の旧式機兵だった。
整備中らしい。
その足元で。
「へぇ……」
トトが座っていた。
整備士と話している。
「だからここが駆動部でな」
「すげぇ……」
完全に夢中だった。
トトが振り返る。
固まった。
レン。
リア。
レオ。
シーナ。
マル。
全員いた。
しかも。
全員見ている。
「……あ」
レンが近付く。
「お前なぁ……」
トトが縮こまる。
「ごめんなさい」
「何て言った」
「迷子になるな」
「そうだ」
ため息。
本気で呆れている。
「機兵が……」
「まぁ、気になるのもわかるが」
「でも……」
「町中でも安全じゃない」
レンは頭を掻いた。
「街でガキ一人消えると面倒なんだよ」
トトが俯く。
リアが腕を組む。
「それだけですか?」
「それだけだ」
「嘘ですね」
「うるさい」
レオが笑う。
「必死に探してたじゃないか」
「ついでだ」
シーナが言う。
「嘘ですね」
マルも頷く。
「嘘だな」
レンが眉をひそめる。
「お前らな」
トトは少しだけ笑った。
胸の奥が温かかった。
スラムでは。
誰も探してくれなかった。
誰も怒ってくれなかった。
誰も心配してくれなかった。
だから。
今は少し嬉しかった。
「ごめんなさい」
今度は本心だった。
レンはため息を吐く。
「分かったならいい」
そして。
「次やったら縄付けるからな?」
「犬じゃない!」
皆が笑った。
帰る前。
トトは最後にもう一度だけ機兵を見上げた。
巨大な鉄の腕。
重厚な装甲。
人が乗る兵器。
憧れ。
純粋な憧れ。
その目を。
レンは少しだけ見ていた。
「帰るぞ」
「あと少しだけ!」
「飯抜きにするぞ?」
「帰ります!」
皆がまた笑った。
その日。
トトは初めて本物の機兵を見た。
そして。
未来の名工へ続く道の第一歩を踏み出したのだった。
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