第十三話 新しい先生
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
翌朝。
朝食を終えた子供達は食堂に集められていた。
レオは腕を組み。
マルは椅子に座り。
シーナは本を抱え。
トトは工房を気にし。
ルウは薬草を眺めている。
そんな中。
レンが工房から出てきた。
何かを抱えている。
「何ですかそれ」
シーナが聞く。
「先生」
レンが答えた。
全員首を傾げる。
「先生?」
「先生だ」
説明になっていない。
レンは机の上にそれを置いた。
◇
白いぬいぐるみだった。
丸い。
耳がある。
尻尾もある。
可愛い。
トトの目が輝く。
「可愛い!」
その瞬間。
ぬいぐるみが立ち上がった。
『初めまして』
静寂。
レオが固まる。
マルが固まる。
シーナが固まる。
トトだけ喜んだ。
「動いた!」
『私はノアです』
『本日より皆さんの教育を担当します』
◇
ノア。
「エターナル」では、
イベントで入手可能なアイテムでのみ、生成可能。
この世界での入手ルートは不明。
ゲーム内では、
デザイン可能なサポートマスコットとしてかなり人気のあるアイテム。
◇
孤児たちは、喋った人形に耳を疑った。
「教育?」
レオが聞く。
『はい』
『読み書き』
『算術』
『地理』
『歴史』
『薬術』
『農業』
『商業』
『礼儀作法』
『生存技術』
『その他』
その他が怖い。
全員そう思った。
しかし。
レオは納得していなかった。
「いや」
腕を組む。
「ぬいぐるみだろ」
マルも頷く。
「ぬいぐるみだね」
トトも頷く。
「可愛い」
シーナも困った顔をする。
ルウだけ興味津々だった。
『失礼です』
即座に返ってきた。
トトが飛び上がる。
『私は教育支援人格です』
『ぬいぐるみではありません』
「でも見た目はぬいぐるみだろ」
レオが言う。
『外見と能力は関係ありません』
その返答が妙に腹立たしい。
リアが肩を震わせた。
笑っている。
カイルも笑っている。
レオが振り返る。
「何笑ってるんだ」
リアは口元を押さえた。
「頑張って」
「何が?」
「全部」
嫌な予感しかしない。
◇
カイルも苦笑する。
「僕も最初そうでした」
「そう?」
レオが聞く。
カイルは遠い目になった。
「最初の畑仕事の時です」
ノアの声を真似する。
『雑草率17%』
『灌水不足』
『肥料配分失敗』
『収穫予測は平均以下です』
食堂が静かになる。
「え?」
『事実です』
ノアが即答した。
カイルは苦笑した。
「三日くらい落ち込みました」
レオ達は引いた。
◇
今度はリア。
「私はもっと酷かったわ」
全員振り返る。
「何されたんです?」
リアは遠い目をした。
「剣の訓練」
嫌な予感がする。
『本日の剣速』
『前日比マイナス3.2%』
『姿勢修正を推奨』
『疲労は言い訳になりません』
「疲れてたのよ!」
『言い訳です』
「むかつく!」
『事実です』
◇
レオ達が引いた。
リアが机を叩く。
「一週間喧嘩した!」
『正確には六日十八時間です』
「覚えてるの!?」
『当然です』
怖い。
かなり怖い。
マルが少し後退った。
すると。
レンがぼそりと呟いた。
「俺もやられた」
全員が振り向く。
「レンさんも?」
「ああ」
珍しく嫌そうな顔をしている。
◇
『レン』
『起床予定時刻を超過しています』
『怠慢です』
「うるさい」
『怠慢です』
「黙れ」
『怠慢です』
「黙れ」
『怠慢です』
◇
リアが吹き出した。
カイルも吹き出した。
レオ達も笑いそうになる。
レンがため息を吐く。
「三日隠れた」
「負けてるじゃないですか」
リアが言う。
「負けた」
認めた。
レオ達は顔を見合わせた。
リアも。
カイルも。
レンですら。
全員負けている。
そんな相手らしい。
すると。
ノアが全員を見渡した。
『それでは確認します』
嫌な予感がした。
『レオ』
『算術試験』
「待て」
『却下』
「まだ何も言ってない」
『却下です』
「何でだ」
『学力不足だからです』
リアがまた吹き出した。
『マル』
『荷物計算』
『シーナ』
『帳簿管理』
『トト』
『工具名称百問』
「百!?」
『ルウ』
『薬草基礎』
「お願いします」
『良い返事です』
ルウだけ嬉しそうだった。
ノアは満足そうに頷いた。
『全員基礎能力不足』
『よって教育課程を開始します』
レオが立ち上がる。
「逃げよう」
マルが頷く。
「逃げたい」
トトも頷く。
「工房行きたい」
シーナは首を振る。
「無理」
『正解です』
ノアが即答した。
『逃走は認めません』
「聞いてた!?」
『当然です』
そして。
小さなぬいぐるみは。
満面の笑みで宣言した。
『安心してください』
『皆さんを立派な人材に育成します』
一拍置いて。
『泣くほど勉強させますので』
その瞬間。
森の家に悲鳴が響いた。
「嫌だあああああっ!」
こうして。
未来の騎士団副団長。
未来の名工。
未来の財界の王。
未来の機械工。
未来の大賢者。
その全員が。
鬼教官ノアの授業を受けることになった。
なお。
誰一人として。
逃げ切れた者はいない。
【エターナルWiki No.007】
MMORPG『エターナル』
サービス開始当初の宣伝文句。
■ゲーム概要
世界樹の大国アストラを舞台としたMMORPG。
プレイヤーは英雄候補として世界各地で発生する事件や災害に立ち向かう。
キャッチコピー
君の行く末はまだ誰も知らない――
■世界観
舞台は世界樹を中心とした大国アストラ。
世界は既に衰退の兆候を見せており、
魔獣災害。
異常気象。
国家間紛争。
様々な危機に晒されている。
プレイヤーはその中で生き残り、
人類の未来を切り開いていく。
■プレイヤー
プレイヤーは英雄候補として扱われる。
戦功や功績を積み重ねることで、
騎士位や爵位を獲得可能。
最終的には国家運営に関わることもできる。
■機兵システム
エターナル最大の特徴。
プレイヤーは巨大兵器「機兵」を所有できる。
機兵
量産型人型兵器。
各種パーツ交換や改造が可能。
魔核機
特殊イベントや高難易度クエストで入手可能な上位機体。
極めて希少。
プレイヤー達の憧れの存在。
■イベント
定期的に大型イベントが開催される。
イベント報酬には、
魔核機
希少素材
特殊装備
限定称号
などが存在する。
■開発者コメント
「世紀末ファンタジーと巨大ロボットの融合」
をコンセプトとして開発された。
当時としては珍しい、
国家運営と機兵戦闘を組み合わせたMMORPGである。
【プレイヤーメモ】
サービス開始当初、
多くのプレイヤーは機兵や魔核機に憧れてゲームを始めた。
しかし実際には、
資源管理。
領地経営。
災害対応。
外交。
生産。
など戦闘以外の要素も多く、
後に「政治ゲーム」「運営シミュレーター」などと呼ばれるようになる。
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