第六話 工房という名の魔窟
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
翌朝。
リアは違和感で目を覚ました。
静かだった。
いつもなら。
レンが何かを壊している音がする。
工具の音。
金属音。
爆発音。
たまに悲鳴。
それが無い。
「珍しい……」
ベッドから起き上がる。
部屋を出る。
すると。
カイルが既に朝食を作っていた。
「おはようございます」
「おはよう」
リアは周囲を見回した。
「レンさんは?」
「工房です」
「ああ」
納得した。
いつものことだった。
朝食を終え。
二人で工房へ向かう。
◇
家の裏。
少し離れた場所。
レンが知らぬ間に増築した建物だ。
リアは今まで中へ入ったことが無かった。
「そういえば」
カイルが言う。
「僕も中は初めてです」
嫌な予感しかしない。
扉の前。
コンコン。
ノックする。
「レンさん?」
返事が無い。
「生きてますか?」
しばらくして。
中から声がした。
「たぶん」
生きているらしい。
二人は扉を開いた。
そして。
固まった。
「……」
「……」
広かった。
外から見たより。
明らかに広い。
「え?」
リアは思わず声を漏らした。
工房のはずだ。
なのに。
倉庫。
作業場。
保管庫。
解体場。
全部ある。
しかも広い。
「何これ……」
「結界」
奥からレンの声。
説明になっていない。
二人は進む。
そして。
もっと驚いた。
壁一面に機兵の腕。
別の棚には脚。
さらに頭部。
胸部装甲。
関節。
魔石。
金属部品。
何か分からない物体。
完全に異常空間だった。
「ゴミ屋敷?」
リアが呟く。
「宝の山だ」
即座に反論が飛んできた。
レンだった。
机の下から出てくる。
顔が真っ黒。
煤だらけ。
寝不足。
ひどい顔だった。
「何してたんですか」
「整理」
リアとカイルは周囲を見る。
どう見ても整理されていない。
「これが?」
「これが」
本人だけは真剣だった。
カイルが棚を見る。
「この腕は?」
「機兵」
「こっちは?」
「機兵」
「その箱は?」
「機兵」
「全部?」
「全部」
リアは頭が痛くなってきた。
レンは嬉しそうだった。
「見ろ」
そう言って一つの脚部を持ち上げる。
「これが例の機兵の脚だ」
詐欺団のボスが乗っていた機兵。
あの機体の残骸だった。
「売らないんですね」
「売るわけないだろ」
レンは即答した。
「もったいない」
またそれだ。
「壊れてるじゃないですか」
「だから良いんだ」
「何でです?」
「分解できる」
リアは理解を諦めた。
レンは本気で楽しそうだった。
まるで子供である。
◇
その時。
カイルが棚の奥を見る。
そして。
「レンさん」
「ん?」
「この紙は?」
設計図だった。
大量にある。
山になっている。
レンが一瞬固まった。
「あ」
嫌な予感がした。
リアも見る。
設計図。
設計図。
設計図。
そして。
一枚を手に取る。
「浮遊島計画?」
レンが目を逸らした。
「レンさん」
「うん」
「これ本気なんですか?」
「本気だが?」
即答だった。
カイルも固まる。
リアも固まる。
「空飛ぶ島ですよ?」
「そうだな」
「こんなの作れたとして、どうするつもりですか?」
「住みたい」
迷いが無い。
リアは思った。
この人は駄目だ。
色々駄目だ。
さらに設計図を見る。
「自走式荷車」
「試作中」
「魔力冷蔵箱」
「失敗した」
「全自動洗濯機」
「途中」
「移動式浴槽」
「ロマン」
ロマンらしい。
もう何も言うまい。
リアはそう決めた。
その時だった。
カイルが机の隅を見る。
そこに。
一冊のノートがあった。
開く。
そこには。
細かい字がびっしり書かれていた。
『魔核代替案』
『人工魔核研究』
『結界圧縮』
『魔力固定化』
リアには分からない。
だが。
カイルも何となく理解した。
これ。
凄い研究なのでは?
レンは慌てて取り返した。
「触るなよ?」
「凄い物なんですか?」
リアが聞く。
レンは少し考える。
「いや・・」
そして。
いつもの顔で笑った。
「ただの趣味だ」
その言葉に。
リアは少し呆れた。
この家。
この工房。
この結界。
全部趣味。
そんな馬鹿な話があるだろうか。
だが。
レンならある気がした。
◇
離れの工房からの帰り道。
カイルが小さく呟いた。
「レンさんって」
「うん」
「凄い人なんですね」
リアは少し考えた。
そして。
「凄い変人ね」
そう答えた。
カイルは笑った。
リアも笑った。
そして二人とも知らなかった。
工房の一番奥。
誰も近づかない場所。
黒い布で覆われた巨大な影。
そこに。
ネストが静かに眠っていることを。
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