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第五話 久しぶりの買い物

ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。


機兵、遺跡、秘密基地。


好きなものを全部詰め込みました。

 王都の城壁が見えた時。


 リアは少しだけ肩の力を抜いた。


 数日前までなら安心しただろう。


 だが今は逆だった。


 森の方が落ち着く。


 そんな自分に苦笑する。


「おっさんの影響かな……」


「何か言ったか?」


 前を歩くレンが振り返る。


「別に」


「そうか」


 レンは気にした様子もなく門へ向かう。


 荷車には大量の荷物。


 猪型魔獣の素材。


 貯め込んでいた素材。


 金属類。


 骨。


 皮。


 色々積まれている。


 だが。


 例の機兵だけは積まれていない。


 あれは森に置いてきた。



 リアが聞く。


「結局、機兵は売らないんですね」


 レンは心底不思議そうな顔をした。


「売るわけないだろ」


「高いんですよね?」


「高いぞ」


「じゃあ何で」


「もったいない」


 それだけだった。


 リアはため息を吐く。


 この人にとって。


 機兵は財産ではなく玩具なのかもしれない。


「部品は正義だからな」


「初めて聞きました」


「今聞いた」


 少しだけ笑ってしまった。



 門を抜ける。


 街の喧騒が耳に入る。


 荷車。


 露店。


 商人。


 冒険者。


 人の匂い。


 熱気。


 リアは懐かしさを感じた。


 その時。


 レンが急に立ち止まった。


「よし」


「?」


「売るぞ!買うぞ!!」


 何か楽しそうだった。


 数時間後。


 レンの前には銀貨袋が二つ置かれていた。


 素材売却。


 皮。


 骨。


 保存していた薬草。


 諸々。


 思った以上の金額になったらしい。


 レンは銀貨袋を持ち上げる。


 そして。


「今日は豪遊する」


 宣言した。


 リアは嫌な予感がした。


 案の定だった。


 最初に向かった先は工具屋だった。


「うおお……」


 レンが感動している。


 工具相手に。


 店主も若干引いていた。


「新型の刻印ノミじゃないか……」


「知ってるんですか?」


 店主が驚く。


「去年の職人博覧会で出たやつですよね」


「そうだ!」


 盛り上がっていた。


 リアには分からない世界だった。


 結局。


 工具を大量購入。


 レンは満足そうだった。


「良い買い物した」


「まだ何も買ってませんよ」


「買ったぞ」


 工具を掲げる。


 駄目だこの人。


 リアはそう思った。



 次に向かったのは衣料品店だった。


 レンは迷わずカイル用の服を選ぶ。


「これと」


「これ」


「あとこれ」


 次々籠に入れていく。


 カイルが慌てた。


「レンさん!?」


「何だ?」


「多いです!」


「成長期だろ」


「そうですけど」


「じゃあ要る」


 理屈が雑だった。


 だが。


 カイルは少し嬉しそうだった。


 新品の服。


 それは彼にとって特別なものだった。


 奴隷時代には手に入らない。


 夢みたいなものだ。


 店員に連れられ試着室へ消える。


 その隙に。


 レンがリアを見る。


「お前も買え」


「私は良いです」


 即答した。


「何で」


「困ってませんし」


「そうか?」


「そうです」


 本当は違う。


 革鎧も古い。


 靴も擦り切れている。


 だが。


 今までそれで生きてきた。


 贅沢する理由が無かった。


「なら武器屋行くか」


 レンが言う。


 リアは断ろうとした。


 しかし。


 武器屋の前で足が止まった。


 店先。


 アクセサリーが並んでいた。


 冒険者向けの安物。


 護符。


 髪留め。


 指輪。


 その中に。


 一つだけ見覚えのある物があった。


 銀色の髪留め。


 どこにでもある安物。


 だが。


 リアの目は離れなかった。


 昔。


 姉のような存在だった女性がいた。


 血は繋がっていない。


 スラムで一緒に生きていた。


 ミラ。


 病気で死んだ。


 最後まで。


 リアの事を妹のように可愛がっていた。


 ある日。


 ミラは笑いながら言った。


『リアも女の子なんだからさ』


『少しはおしゃれしな』


 そして。


 安物の髪飾りを見せてきた。


 結局。


 買えなかった。


 薬代に消えたからだ。


 リアは無意識に手を伸ばす。


 だが。


 途中で止めた。


 今さらだ。


 そんな余裕は無い。


「……」


 視線を逸らす。


 その時だった。


「それも」


 レンの声。


 店員が頷く。


 リアは振り返った。


「え?」


「それ」


 レンが髪留めを指差す。


「似合いそうだし」


「いりません!」


 思わず声が出た。


 レンは首を傾げる。


「欲しかったんじゃないのか?」


「違います」


「そうか?」


 全然信じていない顔だった。


「金は使うためにあるんだぞ」


「だからって」


「また稼げば良い」


 あっさり言う。


 リアは反論しようとした。


 だが。


 出来なかった。


 昔。


 ミラも同じ事を言った。


 思い出してしまったから。


「……ありがとうございます」


 小さく言う。


 レンは頷いた。


 それ以上は何も言わなかった。


 たぶん。


 気付いている。


 でも触れない。


 そんな人だ。


◇ 


 夕方。


 三人は大量の荷物を抱えていた。


 カイルは新しい服。


 生活用品。


 食料。


 日用品。


 そして。


 レンは工具。


 大量の工具。


 リアは聞いた。


「それ本当に全部使うんですか?」


「使う!」


「本当に?」


「たぶんな。」


 たぶんだった。


 少し不安になる。


 その時。


 ギルドの前を通る。


 冒険者達の声が聞こえた。


「聞いたか?」


「黒い機兵の話だろ?」


「機兵じゃないらしいぞ」


「じゃあ何なんだよ」


 リアの背筋が僅かに強張る。


 レンは知らない顔で歩く。


 だが。


 少しだけ歩く速度が速くなった。


 リアは見逃さなかった。


 この人。


 絶対聞いている。


 聞いているのに。


 聞いてないふりをしている。


「帰るぞ」


「はい」


 リアは少し笑った。


 街で一番怪しいのは。


 もしかしたら。


 このおっさんなのかもしれない。



 日が沈む頃。


 三人は森の家へ帰ってきた。


 大量の荷物。


 大量の食料。


 そして大量の工具。


「多くないですか?」


 リアが聞く。


「少ない」


 レンは真顔だった。


 絶対嘘だ。


 カイルも苦笑している。


 三人で荷物を運び込む。


 食料は氷室へ。


 工具は工房へ。


 生活用品は棚へ。


 そして。


 衣料品店の包みを開いた時だった。


「あれ?」


 カイルが首を傾げた。


 袋の中から服が出てくる。


 だが。


 明らかにサイズがおかしい。


「これ僕のじゃないです」


「ん?」


 レンが振り返る。


 カイルが服を広げる。


 白いブラウス。


 淡い青色のスカート。


 どう見ても女物だった。


 リアが固まる。


「……」


 さらに出てくる。


 赤いワンピース。


 薄い緑色の上着。


 街娘が着るような服。


 そして。


 最後に出てきた。


 フリルだらけのドレス。


 リアは思わず叫んだ。


「何ですかこれ!?」


 レンは首を傾げる。


「服」


「見れば分かります!」


 カイルも笑いを堪えている。


 リアは顔を真っ赤にした。


「こんなの着ません!」


「そうか?」


 レンは不思議そうだった。


「店の人が勧めてたぞ」


「店員さんの趣味です!」


「可愛いって言ってた」


「だからです!」


 リアは頭を抱えた。


 何故買った。


 何故信じた。


 何故混ぜた。


 疑問しかない。


 レンは少し考える。


「いやでも」


「でもじゃありません」


「お前いつも同じ服だろ」


 リアが止まる。


 レンは続ける。


「だから何着かあった方が良いかなって」


「……」


「ほら」


 少し言いにくそうに頭を掻く。


「年頃だし」


 リアは言葉を失った。


 レンは本気だった。


 本気で心配して。


 本気で買っただけ。


 そこに下心は一切ない。


 だから余計に困る。


「別に」


 リアは顔を逸らした。


「そんなの気にしてません」


「そうか?」


「そうです」


 レンは納得していない顔だった。


 その時。


 カイルが小さく笑った。


「似合うと思いますよ」


「カイルまで!」


「本当に」


 少年は楽しそうだった。


 リアはさらに顔が熱くなる。


 結局。


 服は自分の部屋へ持っていくことになった。



 夜。


 部屋で荷物を整理する。


 ベッドの上。


 新しい服が並んでいる。


 スラムでは一生縁が無いと思っていた服。


 鏡代わりの窓ガラスに映してみる。


 少しだけ。


 本当に少しだけ。


 着てみたいと思った。


 だが。


 すぐに首を振る。


「馬鹿じゃないの……」


 小さく呟く。


 けれど。


 髪留めを手に取る。


 今日買ってもらった銀の髪留め。


 そっと髪に付ける。


 窓に映る自分を見る。


 少しだけ。


 本当に少しだけ。


 嬉しかった。


「……ありがと」


 誰にも聞こえない声で呟く。


 もちろん。


 その頃レンは。


 工房で新しい工具を抱えながら。


「良い買い物したなぁ……」


 と満足していた。


 リアの反応など。


 一切知らずに。




【エターナルWiki No.003】


■魔核


機兵や魔核機の動力源。


魔獣等の体内にあるとされているが、現在では取り出す技術そのものが失われている。極めて希少。


もし見つけたら、歴史的偉業となるほどに幻の物。


■古代文明


現在の機兵技術の多くは古代文明の模倣をしたもの。


完全な再現は不可能。古代文明は現在の学者たちのなかでは魔核文明と言われている。


読んでいただきありがとうございます。

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