第五話 久しぶりの買い物
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
王都の城壁が見えた時。
リアは少しだけ肩の力を抜いた。
数日前までなら安心しただろう。
だが今は逆だった。
森の方が落ち着く。
そんな自分に苦笑する。
「おっさんの影響かな……」
「何か言ったか?」
前を歩くレンが振り返る。
「別に」
「そうか」
レンは気にした様子もなく門へ向かう。
荷車には大量の荷物。
猪型魔獣の素材。
貯め込んでいた素材。
金属類。
骨。
皮。
色々積まれている。
だが。
例の機兵だけは積まれていない。
あれは森に置いてきた。
◇
リアが聞く。
「結局、機兵は売らないんですね」
レンは心底不思議そうな顔をした。
「売るわけないだろ」
「高いんですよね?」
「高いぞ」
「じゃあ何で」
「もったいない」
それだけだった。
リアはため息を吐く。
この人にとって。
機兵は財産ではなく玩具なのかもしれない。
「部品は正義だからな」
「初めて聞きました」
「今聞いた」
少しだけ笑ってしまった。
◇
門を抜ける。
街の喧騒が耳に入る。
荷車。
露店。
商人。
冒険者。
人の匂い。
熱気。
リアは懐かしさを感じた。
その時。
レンが急に立ち止まった。
「よし」
「?」
「売るぞ!買うぞ!!」
何か楽しそうだった。
数時間後。
レンの前には銀貨袋が二つ置かれていた。
素材売却。
皮。
骨。
保存していた薬草。
諸々。
思った以上の金額になったらしい。
レンは銀貨袋を持ち上げる。
そして。
「今日は豪遊する」
宣言した。
リアは嫌な予感がした。
案の定だった。
最初に向かった先は工具屋だった。
「うおお……」
レンが感動している。
工具相手に。
店主も若干引いていた。
「新型の刻印ノミじゃないか……」
「知ってるんですか?」
店主が驚く。
「去年の職人博覧会で出たやつですよね」
「そうだ!」
盛り上がっていた。
リアには分からない世界だった。
結局。
工具を大量購入。
レンは満足そうだった。
「良い買い物した」
「まだ何も買ってませんよ」
「買ったぞ」
工具を掲げる。
駄目だこの人。
リアはそう思った。
◇
次に向かったのは衣料品店だった。
レンは迷わずカイル用の服を選ぶ。
「これと」
「これ」
「あとこれ」
次々籠に入れていく。
カイルが慌てた。
「レンさん!?」
「何だ?」
「多いです!」
「成長期だろ」
「そうですけど」
「じゃあ要る」
理屈が雑だった。
だが。
カイルは少し嬉しそうだった。
新品の服。
それは彼にとって特別なものだった。
奴隷時代には手に入らない。
夢みたいなものだ。
店員に連れられ試着室へ消える。
その隙に。
レンがリアを見る。
「お前も買え」
「私は良いです」
即答した。
「何で」
「困ってませんし」
「そうか?」
「そうです」
本当は違う。
革鎧も古い。
靴も擦り切れている。
だが。
今までそれで生きてきた。
贅沢する理由が無かった。
「なら武器屋行くか」
レンが言う。
リアは断ろうとした。
しかし。
武器屋の前で足が止まった。
店先。
アクセサリーが並んでいた。
冒険者向けの安物。
護符。
髪留め。
指輪。
その中に。
一つだけ見覚えのある物があった。
銀色の髪留め。
どこにでもある安物。
だが。
リアの目は離れなかった。
昔。
姉のような存在だった女性がいた。
血は繋がっていない。
スラムで一緒に生きていた。
ミラ。
病気で死んだ。
最後まで。
リアの事を妹のように可愛がっていた。
ある日。
ミラは笑いながら言った。
『リアも女の子なんだからさ』
『少しはおしゃれしな』
そして。
安物の髪飾りを見せてきた。
結局。
買えなかった。
薬代に消えたからだ。
リアは無意識に手を伸ばす。
だが。
途中で止めた。
今さらだ。
そんな余裕は無い。
「……」
視線を逸らす。
その時だった。
「それも」
レンの声。
店員が頷く。
リアは振り返った。
「え?」
「それ」
レンが髪留めを指差す。
「似合いそうだし」
「いりません!」
思わず声が出た。
レンは首を傾げる。
「欲しかったんじゃないのか?」
「違います」
「そうか?」
全然信じていない顔だった。
「金は使うためにあるんだぞ」
「だからって」
「また稼げば良い」
あっさり言う。
リアは反論しようとした。
だが。
出来なかった。
昔。
ミラも同じ事を言った。
思い出してしまったから。
「……ありがとうございます」
小さく言う。
レンは頷いた。
それ以上は何も言わなかった。
たぶん。
気付いている。
でも触れない。
そんな人だ。
◇
夕方。
三人は大量の荷物を抱えていた。
カイルは新しい服。
生活用品。
食料。
日用品。
そして。
レンは工具。
大量の工具。
リアは聞いた。
「それ本当に全部使うんですか?」
「使う!」
「本当に?」
「たぶんな。」
たぶんだった。
少し不安になる。
その時。
ギルドの前を通る。
冒険者達の声が聞こえた。
「聞いたか?」
「黒い機兵の話だろ?」
「機兵じゃないらしいぞ」
「じゃあ何なんだよ」
リアの背筋が僅かに強張る。
レンは知らない顔で歩く。
だが。
少しだけ歩く速度が速くなった。
リアは見逃さなかった。
この人。
絶対聞いている。
聞いているのに。
聞いてないふりをしている。
「帰るぞ」
「はい」
リアは少し笑った。
街で一番怪しいのは。
もしかしたら。
このおっさんなのかもしれない。
◇
日が沈む頃。
三人は森の家へ帰ってきた。
大量の荷物。
大量の食料。
そして大量の工具。
「多くないですか?」
リアが聞く。
「少ない」
レンは真顔だった。
絶対嘘だ。
カイルも苦笑している。
三人で荷物を運び込む。
食料は氷室へ。
工具は工房へ。
生活用品は棚へ。
そして。
衣料品店の包みを開いた時だった。
「あれ?」
カイルが首を傾げた。
袋の中から服が出てくる。
だが。
明らかにサイズがおかしい。
「これ僕のじゃないです」
「ん?」
レンが振り返る。
カイルが服を広げる。
白いブラウス。
淡い青色のスカート。
どう見ても女物だった。
リアが固まる。
「……」
さらに出てくる。
赤いワンピース。
薄い緑色の上着。
街娘が着るような服。
そして。
最後に出てきた。
フリルだらけのドレス。
リアは思わず叫んだ。
「何ですかこれ!?」
レンは首を傾げる。
「服」
「見れば分かります!」
カイルも笑いを堪えている。
リアは顔を真っ赤にした。
「こんなの着ません!」
「そうか?」
レンは不思議そうだった。
「店の人が勧めてたぞ」
「店員さんの趣味です!」
「可愛いって言ってた」
「だからです!」
リアは頭を抱えた。
何故買った。
何故信じた。
何故混ぜた。
疑問しかない。
レンは少し考える。
「いやでも」
「でもじゃありません」
「お前いつも同じ服だろ」
リアが止まる。
レンは続ける。
「だから何着かあった方が良いかなって」
「……」
「ほら」
少し言いにくそうに頭を掻く。
「年頃だし」
リアは言葉を失った。
レンは本気だった。
本気で心配して。
本気で買っただけ。
そこに下心は一切ない。
だから余計に困る。
「別に」
リアは顔を逸らした。
「そんなの気にしてません」
「そうか?」
「そうです」
レンは納得していない顔だった。
その時。
カイルが小さく笑った。
「似合うと思いますよ」
「カイルまで!」
「本当に」
少年は楽しそうだった。
リアはさらに顔が熱くなる。
結局。
服は自分の部屋へ持っていくことになった。
◇
夜。
部屋で荷物を整理する。
ベッドの上。
新しい服が並んでいる。
スラムでは一生縁が無いと思っていた服。
鏡代わりの窓ガラスに映してみる。
少しだけ。
本当に少しだけ。
着てみたいと思った。
だが。
すぐに首を振る。
「馬鹿じゃないの……」
小さく呟く。
けれど。
髪留めを手に取る。
今日買ってもらった銀の髪留め。
そっと髪に付ける。
窓に映る自分を見る。
少しだけ。
本当に少しだけ。
嬉しかった。
「……ありがと」
誰にも聞こえない声で呟く。
もちろん。
その頃レンは。
工房で新しい工具を抱えながら。
「良い買い物したなぁ……」
と満足していた。
リアの反応など。
一切知らずに。
【エターナルWiki No.003】
■魔核
機兵や魔核機の動力源。
魔獣等の体内にあるとされているが、現在では取り出す技術そのものが失われている。極めて希少。
もし見つけたら、歴史的偉業となるほどに幻の物。
■古代文明
現在の機兵技術の多くは古代文明の模倣をしたもの。
完全な再現は不可能。古代文明は現在の学者たちのなかでは魔核文明と言われている。
読んでいただきありがとうございます。
面白かったら評価、ブックマークで応援していただけると嬉しいです。




