第四話 森は街より安全
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
ドォン!!
家が揺れた。
窓ガラスが震える。
リアは反射的に立ち上がった。
「なっ!?」
剣を掴む。
カイルも顔を青くしている。
だが。
レンだけは平然としていた。
椅子から立ち上がりながら。
「あー、来たか」
まるで宅配便でも来たような口調だった。
「来たかじゃないですよ!」
「まあ落ち着け」
レンは欠伸をしながら玄関へ向かう。
リアとカイルも慌てて後を追った。
外へ出る。
◇
そして、二人は言葉を失った。
巨大な猪型魔獣。
体長三メートル近い巨体。
それが家の前で倒れていた。
完全に死んでいる。
「え……」
「おお」
レンは少し嬉しそうだった。
リアは理解できない。
「何で死んでるんですか?」
「結界にぶつかった」
「それだけで?」
「それだけで」
リアは結界を見る。
薄く光る壁。
とてもそんな威力があるようには見えない。
レンは結界を軽く叩いた。
「賢い奴は避けるんだよ」
「はい」
「頭悪い奴は突っ込む」
「はい?」
「晩飯になる」
リアは思った。
この人の価値観は絶対におかしい。
レンはナイフを取り出した。
「よし」
「何するんです?」
「解体しないと他に持っていかれるからな。」
当然のように言う。
そして猪へ近付いた。
慣れた手付きだった。
皮を剥ぐ。
肉を分ける。
骨を切り離す。
無駄が無い。
「上手ですね。」
リアが感心すると。
レンは苦笑した。
「まぁ、森暮らし長いからなぁ。」
「冒険者だから?」
「いや?」
レンは肉を切り分けながら答える。
「食わないと死ぬから」
説得力が凄かった。
リアは黙る。
しばらくして。
レンの手が止まった。
「んー」
何か探している。
胸の辺りを覗き込んでいる。
「何してるんです?」
「宝探しだ。」
「宝?」
「夢とも言う」
リアは首を傾げた。
レンはため息を吐く。
「無いな」
「だから何がです!?」
「魔核」
リアは聞いたことがある。
伝説の素材。
古代文明。
魔核機。
そんな話でしか聞かない。
「え??本当にあるんですか?」
「あるぞ。」
レンは頷く。
「全部の魔獣にある」
「全部?」
「全部」
リアは驚いた。
そんな話は聞いたことがない。
カイルも同じだったらしい。
目を丸くしている。
「でも見つかった話なんて・・」
「見つからんからな」
レンは肉を袋へ詰めながら言った。
「死ぬとほぼ消える」
「消える?」
「崩れる」
「そんな物なんですか」
「そんな物なんだよ」
レンは肩を竦めた。
「だから夢なんだ」
「欲しいんですか?」
「そりゃな。あるとわかってて、欲しくない奴はいないさ。」
即答だった。
リアは少し呆れる。
「売るためですか?」
「売らん」
「じゃあ何に使うんです?」
レンは真顔になった。
「三輪バギー」
「……」
「夢だぞ」
「意味が分かりません」
そもそも、3輪バギーという単語もわかっていない。
「そのうち分かる」
絶対に分からないと思った。
◇
肉を回収し終える。
三人で家へ戻る。
氷室へ運ぶ。
相変わらず寒い。
相変わらず広い。
相変わらず空っぽだ。
だが今日は違った。
棚に肉が並んでいる。
少しだけ豊かになった気がする。
カイルも嬉しそうだった。
「しばらく食べられますね」
「だな」
レンも満足そうに頷く。
そして。
急に真面目な顔になった。
「でも野菜が無い」
「畑ありますよね?」
リアが言う。
レンは黙った。
カイルも黙った。
三人とも畑を思い出した。
「……あるな」
「ありますね」
「ある」
誰も豊作とは言わなかった。
夕方。
三人は食卓を囲んでいた。
今日は肉がある。
スープもある。
昨日より豪華だ。
レンは満足そうだった。
「やっぱ肉は良いな」
「野菜も食べてください」
カイルが言う。
「肉だけじゃ駄目なのか?」
「駄目です」
「何で」
「何ででもです」
リアは笑った。
レンは納得していない顔だった。
その時。
リアはふと聞いてみた。
「レンさん」
「ん?」
「何で森に住んでるんです?」
昨日から気になっていた。
レンは少し考えた。
そして。
「憧れだな」
意外な答えだった。
「憧れ?」
「昔から好きだったんだよ」
「森が?」
「森が」
レンは頷く。
「魔の森とか樹海とか」
「はい」
「秘密基地っぽいだろ」
リアは思わず吹き出した。
「子供ですか!?」
「男は死ぬまで子供だぞ」
レンは真面目だった。
カイルも少し笑う。
「それに」
レンは続けた。
「街より安全だ」
「魔獣いますよ?」
「いるな」
「危険ですよ?」
「危険だな」
「じゃあ何で」
レンは少しだけ笑った。
「魔獣は分かりやすい」
「?」
「腹減ったから襲う」
「はい」
「縄張りだから襲う」
「はい」
「だから逃げられる」
リアは黙った。
レンは窓の外を見た。
「人間は分からん」
その言葉だけ。
少し重かった。
「笑いながら騙すし」
「……」
「親切そうな顔して売るし」
「……」
「金のためなら平気で刺す」
リアは何も言えなかった。
全部知っている。
全部見てきた。
だから。
否定できない。
レンはいつもの顔に戻った。
「だから森が良い」
「なるほど」
「静かだし」
「はい」
「景色良いし」
「はい」
「将来的には浮遊島に住みたい」
「何でですか」
「ロマン」
やっぱりこの人は変だ。
リアはそう思った。
けれど。
窓の外を見る。
夕暮れの森。
静かな風。
暖かい家。
穏やかな食卓。
街より安全。
その言葉は。
少しだけ。
理解できる気がした。
読んでいただきありがとうございます。
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