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第四話 森は街より安全

ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。


機兵、遺跡、秘密基地。


好きなものを全部詰め込みました。

 ドォン!!


 家が揺れた。


 窓ガラスが震える。


 リアは反射的に立ち上がった。


「なっ!?」


 剣を掴む。


 カイルも顔を青くしている。


 だが。


 レンだけは平然としていた。


 椅子から立ち上がりながら。


「あー、来たか」


 まるで宅配便でも来たような口調だった。


「来たかじゃないですよ!」


「まあ落ち着け」


 レンは欠伸をしながら玄関へ向かう。


 リアとカイルも慌てて後を追った。


 外へ出る。



 そして、二人は言葉を失った。


 巨大な猪型魔獣。


 体長三メートル近い巨体。


 それが家の前で倒れていた。


 完全に死んでいる。


「え……」


「おお」


 レンは少し嬉しそうだった。


 リアは理解できない。


「何で死んでるんですか?」


「結界にぶつかった」


「それだけで?」


「それだけで」


 リアは結界を見る。


 薄く光る壁。


 とてもそんな威力があるようには見えない。


 レンは結界を軽く叩いた。


「賢い奴は避けるんだよ」


「はい」


「頭悪い奴は突っ込む」


「はい?」


「晩飯になる」


 リアは思った。


 この人の価値観は絶対におかしい。


 レンはナイフを取り出した。


「よし」


「何するんです?」


「解体しないと他に持っていかれるからな。」


 当然のように言う。


 そして猪へ近付いた。


 慣れた手付きだった。


 皮を剥ぐ。


 肉を分ける。


 骨を切り離す。


 無駄が無い。


「上手ですね。」


 リアが感心すると。


 レンは苦笑した。


「まぁ、森暮らし長いからなぁ。」


「冒険者だから?」


「いや?」


 レンは肉を切り分けながら答える。


「食わないと死ぬから」


 説得力が凄かった。


 リアは黙る。


 しばらくして。


 レンの手が止まった。


「んー」


 何か探している。


 胸の辺りを覗き込んでいる。


「何してるんです?」


「宝探しだ。」


「宝?」


「夢とも言う」


 リアは首を傾げた。


 レンはため息を吐く。


「無いな」


「だから何がです!?」


「魔核」


 リアは聞いたことがある。


 伝説の素材。


 古代文明。


 魔核機。


 そんな話でしか聞かない。


「え??本当にあるんですか?」


「あるぞ。」


 レンは頷く。


「全部の魔獣にある」


「全部?」


「全部」


 リアは驚いた。


 そんな話は聞いたことがない。


 カイルも同じだったらしい。


 目を丸くしている。


「でも見つかった話なんて・・」


「見つからんからな」


 レンは肉を袋へ詰めながら言った。


「死ぬとほぼ消える」


「消える?」


「崩れる」


「そんな物なんですか」


「そんな物なんだよ」


 レンは肩を竦めた。


「だから夢なんだ」


「欲しいんですか?」


「そりゃな。あるとわかってて、欲しくない奴はいないさ。」


 即答だった。


 リアは少し呆れる。


「売るためですか?」


「売らん」


「じゃあ何に使うんです?」


 レンは真顔になった。


「三輪バギー」


「……」


「夢だぞ」


「意味が分かりません」


そもそも、3輪バギーという単語もわかっていない。


「そのうち分かる」


 絶対に分からないと思った。



 肉を回収し終える。


 三人で家へ戻る。


 氷室へ運ぶ。


 相変わらず寒い。


 相変わらず広い。


 相変わらず空っぽだ。


 だが今日は違った。


 棚に肉が並んでいる。


 少しだけ豊かになった気がする。


 カイルも嬉しそうだった。


「しばらく食べられますね」


「だな」


 レンも満足そうに頷く。


 そして。


 急に真面目な顔になった。


「でも野菜が無い」


「畑ありますよね?」


 リアが言う。


 レンは黙った。


 カイルも黙った。


 三人とも畑を思い出した。


「……あるな」


「ありますね」


「ある」


 誰も豊作とは言わなかった。


 夕方。


 三人は食卓を囲んでいた。


 今日は肉がある。


 スープもある。


 昨日より豪華だ。


 レンは満足そうだった。


「やっぱ肉は良いな」


「野菜も食べてください」


 カイルが言う。


「肉だけじゃ駄目なのか?」


「駄目です」


「何で」


「何ででもです」


 リアは笑った。


 レンは納得していない顔だった。


 その時。


 リアはふと聞いてみた。


「レンさん」


「ん?」


「何で森に住んでるんです?」


 昨日から気になっていた。


 レンは少し考えた。


 そして。


「憧れだな」


 意外な答えだった。


「憧れ?」


「昔から好きだったんだよ」


「森が?」


「森が」


 レンは頷く。


「魔の森とか樹海とか」


「はい」


「秘密基地っぽいだろ」


 リアは思わず吹き出した。


「子供ですか!?」


「男は死ぬまで子供だぞ」


 レンは真面目だった。


 カイルも少し笑う。


「それに」


 レンは続けた。


「街より安全だ」


「魔獣いますよ?」


「いるな」


「危険ですよ?」


「危険だな」


「じゃあ何で」


 レンは少しだけ笑った。


「魔獣は分かりやすい」


「?」


「腹減ったから襲う」


「はい」


「縄張りだから襲う」


「はい」


「だから逃げられる」


 リアは黙った。


 レンは窓の外を見た。


「人間は分からん」


 その言葉だけ。


 少し重かった。


「笑いながら騙すし」


「……」


「親切そうな顔して売るし」


「……」


「金のためなら平気で刺す」


 リアは何も言えなかった。


 全部知っている。


 全部見てきた。


 だから。


 否定できない。


 レンはいつもの顔に戻った。


「だから森が良い」


「なるほど」


「静かだし」


「はい」


「景色良いし」


「はい」


「将来的には浮遊島に住みたい」


「何でですか」


「ロマン」


 やっぱりこの人は変だ。


 リアはそう思った。


 けれど。


 窓の外を見る。


 夕暮れの森。


 静かな風。


 暖かい家。


 穏やかな食卓。


 街より安全。


 その言葉は。


 少しだけ。


 理解できる気がした。

読んでいただきありがとうございます。


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