第二十一話 最後の管理人
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
ミズガルズの一角。
木と金属を組み合わせたような、不思議な造りの家へ案内された俺たちは、丸い机を囲んで座っていた。
香草の香りがする温かい飲み物を前にしても、落ち着くことはできない。
聞きたいことが多すぎる。
俺は、真っ先に一番気になっていたことを口にした。
「……貴方もプレイヤーなのか?」
ジンは、きょとんとした顔をした。
『いや、違うぞ。』
「じゃあ、何故言葉が通じる!?」
思わず身を乗り出す。
するとジンは、今度はこちらが変なことを言っているとでもいうように首を傾げた。
『おかしなことを言う。』
『それは、おぬしが変なのだ。』
「……は?」
『儂が使う言葉は二種類。』
指を二本立てる。
『現代新人語と、古代語。』
『貴様はその古代語を理解しておる。』
その言葉に、俺の思考が止まる。
「……日本語が、古代語?」
『そう。』
ジンはあっさり頷いた。
『そっちのエルフの嬢ちゃんも、古代語を理解しておる。』
『だから、プレーヤーと言ったのだ。』
「……。」
頭が混乱する。
古代語。
日本語。
プレイヤー。
つまり――。
ここは、現代が滅んだずっと未来の世界なのか?
それとも、そういう設定の世界なのか?
答えが見えない。
『おぬしたち人類の標準語は、アストラ言語だろう?』
『こちらの言葉は、人間には発音できないと聞いておる。』
「……。」
確かにそうだ。
さっきから聞き取れているのに、自分では発音できる気がしない。
サクラも同じような顔をしていた。
「……では、何故貴方はそれを知っている?」
俺の問いに、ジンは少しだけ笑った。
『我らヴェルグには、もう一つの呼び方がある。』
そして。
ゆっくりと言葉を紡ぐ。
『最後のGM。』
「……GM?」
その瞬間。
俺の中で、何かが弾けた。
「……GMだって?」
気付けば、立ち上がっていた。
「こんな糞みたいな世界を、ゲーム感覚で作ったっていうのかよ!?」
部屋の空気が、一瞬で張り詰める。
サクラが驚いた顔をする。
ツバキも、怯えたようにこちらを見ていた。
『ちょ、ちょっと待て!落ち着け!』
ジンが慌てて手を振る。
『我らとて、GMが何なのかは知らぬ!』
『そういう言い伝えで、ここの管理をしておるだけなのだ!』
「じゃあ、GMがいるってことは、運営もあるってことだろ!?」
「こんな世界、誰が作ったんだ!?」
怒りが収まらない。
俺は、この世界で何度も死にかけた。
奴隷にもなった。
理不尽なことばかりだった。
もしこれが誰かの作った世界なら――。
そんな感情が、胸の奥から湧き上がってくる。
ジンは困ったように髭を撫でた。
そして、静かに口を開く。
『……この世界の創始は、アーカイブによって成された。』
「……アーカイブ。」
『この世界の母。』
その言葉に、俺は息を呑む。
『誤解がないように言っておくがな。』
『アーカイブがなければ、とっくにこの世界など滅んでおる。』
そして。
ジンは、窓の外――地下都市の方向を指差した。
『見ただろう。』
『ここへ来る前の、滅んだ街を。』
「……ああ。」
『あれは本来、地上にあった。』
「……なに?」
『あそこが地上だった時代があったのだ。』
今度こそ、言葉を失う。
地上……?
あの地下都市が?
『アーカイブは、その時代ごとの最善の指標を導き出せる。』
『世界を生かすためにな。』
『アーカイブが悪なのではない。』
ジンの目が、真っ直ぐこちらを見る。
『……すでに、この世界がつぎはぎなのだ。』
「……。」
その言葉は、不思議と胸に落ちた。
ゲームの知識でも、何となく分かっていた。
この世界は、ゆっくりと破滅へ向かっている。
それは誰かのせいではない。
自然の摂理。
抗えない終わり。
だからこそ、ゲームの中でも、人々は必死に生きていた。
気付けば。
俺は拳を握りしめていた。
「……すまん。」
ゆっくりと腰を下ろす。
「熱くなり過ぎた。」
ジンは、怒るどころか、面白そうに目を細めていた。
『いや。』
『流石はプレーヤーだ。』
『益々、興味深い。』
「……は?」
『おぬしら、面白いのう。』
そう言って、楽しそうに笑う。
俺は思わず、ため息をついた。
このドワーフ。
どうやら、かなりの変わり者らしい。
だが――。
ようやく。
ほんの少しだけ。
この世界の真実へ近づいた気がした。
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