第二十二話 アンブロシア
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
話が一段落したところで、ジンがふとサクラとツバキへ視線を向けた。
『……お主たちのそれ。』
二人の首元を指差す。
『先程から気になっておるのだが。』
『そっちの人間の趣味か?』
「……え?」
サクラが首輪に手を当てる。
「いいえ……。」
少しだけ俯きながら答えた。
「これは……私たちの里で付けられる、竜人族への忠誠の証らしいです。」
「生まれて間もない頃より付けられて……。」
「外したら死ぬ、と教わっています。」
その言葉に、部屋が静まり返った。
あまり触れてほしくない話なのだろう。
サクラの表情は暗い。
ツバキも、無意識に首輪を押さえている。
『……なるほどのう。』
ジンが小さく息を吐いた。
『竜人族の奴らも、生きるためとはいえ……。』
『随分と傲慢になったものだ。』
「……?」
俺には何を話しているのか分からない。
途中から言葉が変わっていた。
「ジン、何の話だ?」
『ふむ。』
ジンがこちらを見る。
『その首輪だ。』
『常に、この嬢ちゃんたちの生命力を吸い取っておる。』
「……は?」
思わず聞き返した。
『生命力を少しずつな。』
『ずっと。』
『四六時中。』
「……。」
俺は、言葉を失った。
そんなものを……。
そんなものを、生まれた時から付けているのか。
サクラが、ぽつりと呟く。
「……里を出る前。」
「竜人族が言っていました。」
「……アンブロシアも、よく育つだろうって。」
『……。』
ジンの目が細くなる。
「アンブロシア……?」
サクラが顔を上げた。
「アンブロシアって、何なんですか?」
ジンはしばらく黙っていた。
そして、静かに口を開く。
『アンブロシアというのはな。』
『かつて、奇跡の果実と呼ばれた実を指す。』
『その実を食べれば――』
『身体能力の増強。』
『若返り。』
『不老。』
『様々な効能を持つと言われた、奇跡の果実だ。』
「そんなもの……。」
サクラが呟く。
「竜人族が栽培しているなんて……聞いたこともありません。」
『あくまで伝承の話だ。』
『……しかし、アンブロシアはある。』
ジンが、ゆっくりと指を伸ばした。
その先。
サクラの首輪。
中央にはめ込まれた、小さな宝石。
『それだ。』
「……え?」
『旧人類アストラのほうでは、これを魔核と呼ぶ。』
「……!」
「魔核だって!?」
今度は俺が立ち上がった。
魔核。
魔核機を動かす、あの魔核か。
『そうだ。』
『お前さんたちの首輪は、一番原始的な魔核の精製技術だ。』
『あまり趣味の良いものではない。』
ジンの声は低かった。
『竜人は強い。』
『身体能力。』
『生命力。』
『寿命。』
『環境適応能力。』
『そして竜化。』
『どれを取っても、他種族を逸脱しておる。』
「……。」
俺も知っている。
ゲームでも、竜人族は別格だった。
チート。
そんな言葉が似合うほど、強い種族だった。
『しかしな。』
『その強さを維持するには、莫大なエネルギーが必要になる。』
『ゆえに――。』
『奴らには、アンブロシアが必要なのだ。』
静かな声が、部屋に響く。
『……まさか、こういう形で作っておったとはな。』
サクラとツバキが、自分の首輪を見つめる。
震えていた。
ずっと。
ずっと。
自分たちの命を吸われ続けていた。
その事実に。
「……。」
俺も何も言えなかった。
◇
『……ちょっと待っておれ。』
ジンが立ち上がる。
そして、工具箱を持って戻ってきた。
「な、何を……。」
『安心せい。』
『壊しはせん。』
そう言って、サクラの後ろへ回り込む。
小さな工具を取り出し――。
カチリ。
軽い音が響いた。
次の瞬間。
ガシャン。
首輪が、地面へ落ちた。
「……え。」
サクラが固まる。
ジンはそのまま、ツバキの首輪へ手を伸ばす。
カチリ。
ガシャン。
二つ目の首輪も、床へ落ちた。
静寂。
「……。」
「……。」
二人とも、動かない。
ただ、自分の首を何度も触っている。
「……ない。」
サクラが小さく呟く。
「……本当に。」
首輪が。
ない。
その瞬間だった。
「……う……。」
サクラの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「……ぅ……。」
ツバキも。
次々と涙を流し始める。
そして。
二人は、その場で大泣きした。
声を上げて。
子供のように。
ずっと。
ずっと。
耐えていたものが、堰を切ったように。
『……これで。』
ジンが静かに言う。
『寿命が減っていくこともない。』
『安心せい。』
サクラは泣きながら、何度も首を触っている。
ツバキも、姉にしがみついて泣いていた。
俺は、その姿を見ていることしかできなかった。
でも。
分かった。
きっと。
今日という日は。
二人にとって――。
本当の意味で。
自由を手に入れた日なのだと。
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